2度目。ーー家族と決別する事になろうとも、言わねばならない事があります。
「ケイトリン。あなたお母様に向かって……」
「お母様だから何も言わなくて良いわけではありません。お母様はお姉様が病弱だから可哀想と言います。では病弱でなくなったお姉様は可哀想ではなくなる事になりますわね」
「それは……」
「ではこう考えて下さい。病弱ではないお姉様。当然お姉様とバートンとの婚約はお姉様が病弱だから結ばれたもの。つまり病弱だから当主の座を望めないと思われての婚約です。では病弱ではないお姉様はバートンとの婚約が必要でしょうか? 答えは必要ない。違いますか?」
「違うわ! 私とバートンの婚約はお互い思い合っていて結んだのだもの!」
「お姉様。それはバートンがそのように仰いましたの?」
「それは……でもバートンはいつでも優しいわ。だから」
「お母様。あなたがお姉様を可哀想だと仰って可愛がるあまり、お姉様はバートンが自分を愛していると思われています。バートンが本当にお姉様を愛しているのか知らないのに。これはあなたのお姉様に対する愛情の掛け方の間違いだと言えませんか」
お母様が顔を真っ青にさせて口を開閉させている。言い返したいのに言葉が出てこないのでしょう。
「バートンと私は愛し合っているわよ!」
「バートンがそう言ったのなら構いません。でもお姉様、勝手に気持ちを決め付けてはいけないでしょう? 私はお姉様が病弱でもセイスルート家の者だから可哀想などと思った事はありません。だってセイスルート家の当主は志が強い者がなれるのであって病弱だから務まらないわけではないと思います。この婚約はお母様がお父様にお願いして取り付けたものです。そうでしょう? お父様」
「……その通りだ。良く知っているな」
「推測です。お姉様に甘いお母様。そのお母様に甘いお父様。お兄様に婚約者が居るのは取り敢えず置いといて。私とお姉様が殿下方の婚約者候補だとお父様はご存知だったのに、お姉様の婚約者を決めてしまわれた。それも男爵家のバートンです。お姉様が病弱だから近いところで結んだ婚約だと思えばなんとなく分かりますわ」
「ケイトリンは良く観察しているな。自分もついつい病弱なキャスベルのことを思って近場で婚約を整えてしまった」
「別に男爵家との結び付きを強化するためには構わないですが、男爵家からすれば爵位が上のセイスルート家からの申し出を断れるわけがないですが」
「……そうだな」
お父様は私の指摘にハッとして肩を落とされました。
「なっ……。じゃあケイトリンは私とバートンが想い合っていないとでも?」
「バートンと想い合っている、と思い込まずに話し合って気持ちを確認することが大切だと申し上げています。それから病弱であることを前面に押し出して我儘を仰っていたら我が家だけでなくバートンからも嫌がられますわ。私は少なくとも王子妃になるつもりがないのに、強要してくるお姉様は嫌いです」
「なっ……ケイトリン! 言い過ぎたと思わないの⁉︎」
私の嫌い発言にお姉様が顔を真っ青にして叫びますが「思いません」と言い切りました。これで家族から嫌われても別に構いません。お姉様がバートンとの婚約が白紙撤回された後、癇癪を起こしてどうにもならなくなった挙げ句に戒律の厳しい修道院へ送られてそこでも我儘を発揮してかなり疎まれているらしい、と前回のお父様からの手紙には記されてありました。
前回は8年も殆ど会わなかった家族ですが、今回はこの国だろうと隣国だろうと王子妃になることは拒否しています。だったら嫌われようが憎まれようがお姉様の未来を変える事が出来るなら厳しく接しても良いと思ったのです。……これでお姉様とお母様が変わって下されば良いのですが。




