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続・番外編・4-1

ご無沙汰してます。

続・番外編の最終話。シーシオ伯父様の話を2話に分けてアップします。

魔術師シーシオは、元々はタータント国の辺境伯家であるセイスルートの嫡男だった。生まれた頃から幼少期はセイスルート家の嫡男として身体を鍛え、剣を覚え、肉弾戦を叩き込まれて育った。馬は足のように意のままに操り、広大な辺境領を駆け回って成長していた。少々勉強は苦手だが文官を目指しているわけでもなし、勉強が出来ずとも何の支障は無い。そして7歳にて婚約者の候補者も現れたことだし、順風だったと言えた。


シーシオの婚約者の候補はいつの間にか婚約者に昇格していたのは、シーシオが10歳の頃だった。野営かつ夜営訓練もこの頃には1人で何日もかけてやり抜けていたし、次期セイスルート辺境伯の当主に1番近かった。3歳下の弟と5歳下の弟からも羨望の眼差しを受けていたし目標にもされていた。このまま何事もなくセイスルート辺境伯家の人間として生きて行くのだ、とシーシオ自身も家族も他の者達も疑っていなかった。


ところが。

14歳を迎える頃からシーシオは時折、自身の身体が制御出来ない事が有った。成長期で急激に身体が成長すると身体が痛くなる、と聞いた事が有ったため、その類だろう、と本人も周囲も気にしていなかった。

だが、痛くなるのとは違い、まるで身体が意思とは別に行動するような、操り人形のような、変な感覚をしている。今までのように羽が生えたような身体の軽さは消え、鈍重とはこういう事を言うのか、と思えるくらい鈍く重い。シーシオが動きたい、と望む動きが通常の3倍以上、鈍くて重いのでシーシオは苛立っていた。


この頃のシーシオは、思ったように身体が動かない事の苛立ちを、戦闘訓練の相手に対してぶつけていただけでなく、使用人も家族も手当たり次第苛立ちをぶつけていた。

時に使用人に手を挙げて暴力を振るいそうになって、代わりに近くの物に八つ当たりをするがごとく、物を壊し。

時に可愛いはずの弟達を蹴ろうとしてギリギリで自身の足を弟達から逸らして。


そんな中。婚約者だった令嬢との交流で外に出た時のこと。偶々子犬がシーシオに纏わりついたのだが、シーシオは荒ぶる暴力衝動に駆られ、せめて暴力行為を抑えようと悪口を子犬に浴びせた。令嬢は普段のシーシオが明るく潑剌としながらも気性は荒ぶっていない事を知っていたため、あまりの変貌に驚き……そして恐怖に駆られて涙した。婚約者との外出とはいえ、未婚の令嬢が供も付けずに出かける事は無いため、侍女と護衛が背後に居たのだが。


自分達の主人の大切な令嬢が泣く程の怖い思いをした。


この一点で彼らにとってシーシオは敵になってしまった。本来なら護衛は一歩引いていたとしても侍女が令嬢を慰めるなり間に入って互いの仲を取り持つなり、とするべきところだ。シーシオにも侍従は着いていたのだから、令嬢の侍女とシーシオの侍従で話し合って取り成す事だって出来た。

それを気が動転したとはいえ、侍女と護衛の判断だけでシーシオを敵と見做し、令嬢にも挨拶させず、自分達も碌な挨拶もせずに帰ってしまった。だが、シーシオは自分が悪いことを理解していたので、咎める事も無く。


そうしてこの件を機に、令嬢とシーシオの婚約は解消された。


そしてこの件がシーシオを更に追い詰める事となる。シーシオと令嬢はおよそ7年の歳月、婚約者という関係であり、政略的な婚約だったとはいえ、良好な関係を築けていた。シーシオは少なからずそう思っていた。

確かにあのような乱暴な一面は今まで見せた事が無かったから怯えて泣くのは仕方ないこと。それでも、説明をすればシーシオの窮地を、辛さを理解してくれるかもしれない、とシーシオは期待をしていた。だが、蓋を開けてみればそんな窮地など知らぬ、とばかりに突きつけられた現実は、父であるセイスルート辺境伯経由で齎された令嬢との婚約解消、だった。


シーシオは、確かに自分が悪いとは理解していた。

一方で、彼は自分の事であるのに、自分自身にも解らぬ身体の変化に戸惑い、また怯え苛立っている、14歳の少年だった。自分の事で精一杯だった。

そして婚約者だった令嬢に、何故、自分の辛さを理解してくれないのだ……と理不尽さに憤っても、いた。

皮肉なことに、そこそこに順風だったシーシオの人生、初めての挫折だった。


そして。

この一件が呼び水となったのか、はたまた他の原因が有ったのか。


令嬢との婚約が解消された、というシーシオにとっての初めての挫折が引き鉄になったのか。シーシオは初めて自分の身に宿る自身にも解らぬ力を感じ……その力に身を任せた結果……魔力を目覚めさせ、代々の当主にしかその存在を知らされていなかった、セイスルート家の開かずの扉を開けてしまった。

お読み頂きまして、ありがとうございました。


次話はあまり間を明けずにお届け予定です。

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