2度目。ーー知らないフリが唯一出来ること。・2
最終話です。
推測が外れているとは思えないけれど。クルスが戻って来るのを待っていた私は、何も答えないクルスを見て、推測が当たっていた事を突き付けられる。
伯父様にどんな事が有るのか解らない。
でも、この帝国の中枢部から目を付けられるだろう、私の状況。その私を守るために伯父様はきっと中枢部と取り引きか何かしているはず。私の安全を勝ち取るために。だったら私は。
守ってくれた伯父様のために、何も気付いていないフリをして。今までと変わらない生活をして。無事にセイスルート家へ帰らなくてはいけない。
知らないフリが、きっと私が伯父様のために出来る唯一のこと。
「クルス」
「はい、お嬢様」
「また伯父様へお手紙を届ける役目をお願いするからね」
きっと伯父様との間に何らかの取り決めをして来たはずのクルスは、私の言葉に少しだけ瞠目してから
「かしこまりました」
の言葉と共に頭を下げた。一瞬だけ見えたクルスの歪んだ顔は泣くのを堪えていたようにも見えた。でも私はそれすら気付いてはいけないから。
ねぇクルス。あなたが伯父様との話で何を背負ったのか私は知らない。きっと伯父様は話す許可を出していない。だからあなたは私の問いかけも黙る。でももし。もしも、いつか話せる許可をもらえたら話してくれると嬉しいわ。だからそれまで。
私の手紙を伯父様に届ける役目は、あなたにやってもらうわ、クルス。
「明日の天気はどうかしらねぇ。晴れるかしら」
私の言葉にデボラもクルスもアレジもガリアも答える。
「「「「きっと晴れますよ」」」」
私も皆も明日の天気なんて晴れる事を知っている。百発百中の天気予報をこの帝国では教えてもらえるの。天気を当てるというか、その気になれば変えられる魔術師がいて。その魔術師が予報を出しているから。魔法で天気を当てるから間違いなんて無いらしい。変えるのは余程の時のみ、だとか。
そうね、と頷いてからデボラ・クルス・アレジ・ガリアを見る。
「デボラ」
「はい、お嬢様」
「クルス」
「なんでしょう、お嬢様」
「アレジ」
「どうしました、お嬢」
「ガリア」
「はいはい、お嬢。何でも言って〜」
ふふ、笑い声を上げた私は。
「いつもと変わらない生活って、本当はとても大切だって、あなた達が狙われて改めて思ったわ。前世・日本人だった時も1度目の人生も早くに死んだから、長生きしたいなぁとは思ったんだけど。
それは私だけじゃなくて、皆も居て初めて長生きしている意味が成り立つって思ったわ。昨日と同じ今日。今日と変わらない明日。それが退屈だ、と言える人は。とても幸せな事だと気付いてないのよね。
昨日と同じ今日も今日と同じ明日もずっと続くなんて幻想。努力をしなくてもずっと続くなんて思い上がりなのよね。
そんなわけで。
あなた達! 私のために、私が死ぬまで、ちゃんと私の側で笑ってなさい!」
私の命令を、4人は互いに顔を見合わせてから、揃って私に跪いて。
「「「「かしこまりました、お嬢様」」」」
頭を下げて私の命を受け入れた。
ーーねぇ、伯父様。きっと、帝国の中枢部から私の幸せを守ってくれているのでしょう? 私は、伯父様の事を絶対忘れないわ。魔法とか、私には分からない部分も有るけど。それでも。
様々な事が溢れるのは、地球だって、この世界だって同じだから。私は私らしく生きていく。伯父様はきっとそれを望まれているのでしょう?
だから。伯父様。帝国から去ってもまた伯父様を訪ねに来るわ、だって私だもの。もう後悔しない人生を送るって決めているのよ。
「だからまた、伯父様に会うわ。そして帝国の中枢部の皆さん。
ーーお互い、不干渉と行きましょう?」
そっと願うように呟いた。
(了)
ながらくお付き合い頂きまして、ありがとうございました。お読み頂き、感謝申し上げます。
長い長いケイトリンのお話。如何だったでしょうか。
次回作等については、今週末に活動報告にて連絡しますので、気になる方はよろしくお願いします。
夏月 海桜 拝




