閑話・1度目。ーー男同士の密約・終幕2
具体的な表現は無いですが、想像しない方が良い表現が有ります。(言葉を見たらそれを受け止めるだけにした方がいいと思われます)
「ですが、そんなお嬢様だからこそ、ケイトリン・セイスルートだからこそ、シーシオ様の事を知られたら……」
「だから話すな、と言っている。下手に知られるな。ケイトリンは未だシオン帝国に居る。ケイトリンが知ったなら中枢部にもケンカを売るぞ?」
「それは、そうですが」
「中枢部は、私でも分からない闇だ。言っておくが、魔術師協会の長が中枢部の一員と言われても納得するしかない」
つまり、シーシオ曰く、誰が中枢部に名を連ねているのか不明という事だろう。魔術師団や魔術師協会に名を連ねている魔術師の中に中枢部の一員が居るかもしれないし、どちらにも属さない魔術師が一員でも不思議ではない。いつも顔を合わせる隣人が一員ではないとも言えない。
「それは……」
「あんな魔窟に迂闊に手を出してみろ。お前でも死ぬぞ」
敵味方が分からないのなら、そうだろう。
「分かりました」
「恐らく帝国の中枢部すら全員が全員を知らないだろうな」
仮に定期的に会合を開いたとしても、人数も性別も確定していないから、全員が出席しているかどうかも判らないのだろう、というのがシーシオの見解だ。そんな中枢部に関わるだけ碌な事にはならない。
「では、質問を変えます。一体罰せられるとはどういったことですか。内容は」
「ケイトリンを飼う事を反対した事による罰。内容か。魔術師が使う魔法の源は、どこに有るか知っているか」
「確か体内にある魔力だ、と」
「まぁそうだな。正確に言えば魔力とは命の根幹。魂の強さ、だな」
「魂の強さ?」
「あまり知られていないが、本来魔力とは全員に有る。だが魔術師になれるほどの力が無い者が多くなった。何故か。おそらくだが、魂の持つ輝きというか強さの違い、というのが私の推測だ。この魂の強さはどのようにすれば強くなるのか、不明。あくまでも推測だからな。持って生まれた強さなのだろう、と思っている。魔術師自身も解明し切れていない部分だから、そうだろうという推測で聞いてくれれば良い。まぁその魂の強さが魔力の強さとなり、魔術師になれるほど魔法を扱える、と思えばいい」
魔術師が解明出来ていない事をクルスがどうこう言っても仕方ないため、そういうもの、と飲み込む。クルスが頷くのを見てシーシオは続ける。
「その魂の強さで魔力が強くなり、魔術師としても強くなる。私の考えだがな。その分、魔術師は魂を常に疲弊させているようなものでは有る」
「それは……まさか、寿命を削っている、と?」
「さてな。元々短いのかもしれんし、寿命を削っているのかもしれん。ただ、魔術師団に居る魔術師は長くても50代で命を終える。早い者は30歳にもならない。私の知る限りで、の話だがな」
クルスは、さすがに言葉が出てこなかった。それは目の前に居る人物も……正確な年齢は知らないが、それでも10年以内には死ぬ、ということ。
「普通ならばそういう事だが。中枢部にも珍しい魔法が有るようでな」
クルスの心境には気付いているはずなのに気付かないように続けるシーシオは。ケイトリンが知れば自ら飼われる事を望むような事を口にした。
「珍しい魔法……」
「中枢部から言われた罰は、肉体の死が来るまで生き続ける、だ」
クルスはその言葉を聞いて、何が罰なのか最初は理解出来なかった。長生きしろ、と言っているようにしか聞こえなかったから。
「肉体の死が来るまで、とは。この身体が滅びるまで、だ。解るか? 内臓が腐り手足が腐ろうとも、身体が有る限りは生きねばならん」
クルスはゾッとする。想像してこみあげてきたものを飲み込んで、それでも言葉が出てこなかった。
お読み頂きまして、ありがとうございました。
自分で言うのもおかしなものですが、何度考えても、伯父様のこの罰が納得いかないもので執筆が滞りがちになりましたこと、お詫びします。
ケイトリンを自由にさせる(帝国の中枢部に飼われる事、監視を避ける事の)代償はこれだけ大きいものなのです。




