2度目。ーー事の真相は知らない方が幸せです。・5
「なんか、真相聞いたらアホらし……というか、脱力した……というか」
「そうだろうな。私もケイトリンからクルスを借りてまで探らせようと思ったら、そんな話をされたからな。何も言葉が出てこなかった」
そうですよねー。私でも唖然としましたよ。何を言ってるんでしょうね。ってヤツです。もう、なんていうか疲れきった。何もしてないけど。ドミトラル様に会って癒されたい。
「まぁ襲撃事件の真相は解ったし、ウチのクルス達に対しては、ちょっと顔貸せ、と思わなくもないけど。帝国の中枢部と遣り合う気は無いから仕方ないとして。それにしてもこの行き場の無い感情はどうすればいいんですかねぇ……」
「お嬢様。忘れるのが一番ですよ」
デボラが言う。
いや、でもさ?
「お嬢、いいよ別に。お嬢が俺達を大事にしてくれているからさ。それだけで」
ガリアもこう言うし、アレジとクルスも頷くので、私はようやく矛先を収めてこの件は水に流す事にした。当事者達がそう言うなら仕方ない。伯父様も、今回の話し合いを機に魔術師協会と少しずつ交流をしていくらしい。
もちろん、魔術師団と魔術師協会との間の溝は簡単には埋まらないだろう事は、部外者の私でも解る。それでも伯父様は結果的に「良」と見たのなら、それでいいのかもしれない。
帝国の騎士団と文官の監察部隊へのやらかしは、お咎めがない時点で中枢部に踊らされ。今回の件もなんだかんだで振り回されて。ホントなんていうか、貧乏くじ引いたっていうか。でも仕方ない。こういう事も有るんだろうし、あまり中枢部から目を付けられたくない。
だって。
中枢部の人数も男女の性別も何も知らない、解らないのに手を出そうなんて思えない。
おまけに一枚岩じゃない以上、仮に中枢部の誰かと接触が叶ったとして、その相手が見返りに何を望むか分からないし、その相手の発言力がどの程度かも分からない。それに全面的に味方になるとは思えないし、相手の立ち位置も分からない。
こんな分からないだらけな存在と接触しようなんて、いくらなんでも無謀だと私でも解る。
相手の正体が分からないものに関わりたい、と思う程、私は帝国と関係を持ちたいわけじゃないし。下手に動いて伯父様の立場を不利にする気も無い。
というか。多分、伯父様の立場は私が伯父様に関わる前から不利なんだとは思う。それなのに、私に関わってさらに不利になってしまったとしたら……それは伯父様に申し訳なさ過ぎる。だからこれ以上は関わらない。後は上学園を無事に卒業して、タータントに帰国してセイスルート家を守っていくのが最良の道なんだろう。
正体が判らない相手に挑むような事はしない。クルス達に命じれば、必ず中枢部に潜り込むだろうけど。それこそ命がいくつ有っても足りないような状況に追い込む気はさらさらない。向こうも、多分私の考えは読めているだろうから、向こうが私に関わらない限り、向こうも私に関わって来ないはず。
それならばもう、デボラの言う通り忘れるしかないし、大人しくしてセイスルート家へ帰るのが得策。色々いろいろ思う事は有るけれど、それを全て呑み込んで最良の道を選択するのも上に立つ私の役割だ。
「じゃあ伯父様、これで解決って事で良い?」
「うむ。そうだな」
「じゃあ、私はもうこの件を忘れて大人しく上学園を卒業してセイスルート家に帰る事にするよ」
「それが良いな」
「帝国に居る間は、また伯父様に手紙書くね」
「うむ」
私はそれじゃ、と伯父様の所から帰ろうとした。クルスが「シーシオ様と少し話をしてから帰ります」って言うから先にデボラ・アレジ・ガリアを連れて伯父様の元から帰った。
ーーだから、私はこの後のクルスと伯父様の話の内容は知らない。
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