2度目。ーー事の真相は知らない方が幸せです。・1
取り敢えず、私を野猿扱いの件はさておき。クルスの説明を聞く事にしよう。
「シーシオ様に言われて魔術師協会に正面から乗り込んだのですが」
正攻法とは珍しいけど、まぁ確かに魔法なんて扱えない身からすれば、正攻法じゃないと予想もつかなくて厳しいのかもしれない。下手に忍び込んで対抗しようのない力にぶつかるのは得策とは言えないものね。
「最初はあまり警戒されなかったのですが」
途中から警戒され始めた、と?
「あまり深く踏み込まないうちに、向こうから動かれたんです」
「それはまた……珍しいわね」
クルスがバレるような行動を起こすとは思えない。ということは向こうが気付いた、ということ。
「いえ、シーシオ様からは協会の上層部にはバレているだろう、と言われていたのですが。それはお互い様だから、と」
「えっ。ちょっと待って、伯父様。クルスが乗り込む事がバレているのに乗り込ませたの?」
前提からしておかしくない?
「魔術師協会の方も帝国の中枢部と繋がっている。当然だ」
私の至極尤もな問いに伯父様がサラリと答えを返す。……いや、帝国の中枢部が一枚岩じゃない事は予測ついてたけど。それならそれで妥協点探り合ってお互いでお互いの関係をどうにかしようよ! なんでよりによってあんな襲撃事件を起こされた上に、クルス達が狙われてんのよ!
「ケイトリン」
「何か?」
伯父様が真剣な表情で私を呼ぶから同じように真剣な表情で返事をした私に、伯父様は大きく息を吐き出した。
「クルスを含めた配下達が狙われた一件だが」
伯父様に切り出されて少し反応が遅くなった。
「……はい」
「クルスが真正面から魔術師協会に乗り込んだ事で協会の上層部が動き、そして話し合いが持たれた」
「はなしあい」
違和感有りまくりな単語を聞いてカタコトで繰り返してみた。およそ100年程の年月、そのような平和な機会が提案されても一切了承されなかった、と聞いている。それが? 話し合い? 今更? どゆこと?
「お嬢様が首を捻るのも仕方ないです。俺自身驚きでしたから」
クルスが苦笑して遠い目をした。……えっ? クルスの遠い目? 二度見しちゃったんだけど? 私、疲れが酷くなったかな……。クルスのこんな所初めて見たんだけど。
「お嬢様、お嬢様、意識保ってますか⁉︎」
デボラが耳打ちして来てハッとした。いや、私もトリップしてたわ。だってさ、クルスが遠い目だよ? どんな状況になればクルスにそんな思いをさせられるのよ?
「クルス……お疲れ様」
取り敢えず、クルスの遠い目に私は労いの言葉をかけた。
「お嬢様とお茶会で」
ホント、珍しいな。こんな我儘をクルスが言うなんて。マジで何が有ったんだ……。
「じゃあお茶会の他にアレジとガリア連れて帰国して来ていいわよ。その分だと色々抱え込んだみたいだし、気分転換で訓練にでも出て来たら?」
セイスルート辺境伯家恒例の野戦と夜戦の訓練に参加しておいで? と言えば、クルスが首を左右に振った。えっ、なんで。
「寧ろシオン帝国騎士団とやり合いたいです」
「あー、そっちか」
帰国してストレス発散よりも身近な所に手頃な騎士団があるもんね。そっちの方が直ぐにストレス発散出来るよね。サヴィにでも話を通せば良いのかしら。まぁ何にせよ……
「報告を聞いてから、だけどね」
そう。まだなぁんにも聞いてないんだから。
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