2度目。ーーやらかしてくれた配下の始末は主人の務め。・3
取り敢えず、皆の話を聞いてからアリシャに確認しよう。
「で、魔術師協会と繋がっていてそれがなんだって?」
ガリアに先を促せばアレジが続ける。
「なんか、協会に所属する魔術師がお嬢のことを知っていたみたい。あ、その魔術師の顔を確認したわけじゃなくて。魔法で手紙のやり取りしているみたいで、監察部隊の長の兄弟が手紙見ながらお嬢の更なる噂を流そうとしていたんだよね」
「それは?」
「お嬢様は、タータント国の第二王子やドナンテル・ノクシオ殿下を誑かした悪女、だそうですわ」
デボラが憤慨していた。成る程、お花畑かつ悪女という話へ持って行きたかったわけか。うん? ちょーっと待って。
「ねぇ、アリシャ?」
「なぁに?」
「さっき、ドナンテル殿下との婚約について忠告されたって言ったじゃない?」
「ええ、それが?」
「もしかして、それってつい最近……とか?」
「ええ、そうよ。婚約を発表したのはだいぶ前なのに、ほんの1週間くらい前に口を出されたわねぇ」
「あー……そう、いう、ことぉ……」
読めた。
ものすごーく読めた。
これは、良い様に使われたわぁ……
さすが帝国の中枢部。
「何、ケイトリン。どうしたの?」
アリシャの不思議そうな顔に乾いた笑みを浮かべている自信の有る私は、騎士団と文官の監察部隊を半壊させた、とドヤ顔の配下達を見て大きく溜め息をついた。
「良い様に使われたわね、あなた達」
「「「「えっ?」」」」
アリシャ・デボラ・アレジ・ガリアがキョトンとした顔になった。
「つまりね……。中枢部はある程度、自由が認められているんだと思うの。此処ぞという時に結束して、普段は中枢部の規則に引っかからないなら自由ってこと」
私がこう言えば、アリシャがハッとした。さすが小国とはいえ王女。支配者側の考えが解ったみたいね。
「つまり、中枢部は騎士団と文官の監察部隊が邪魔だった。でも今まで通りで処分しようにも目立つ事をしていないから、下手に手出し出来ない。そんな所にケイトリンが留学してきた? ケイトリンは、一国の辺境伯の令嬢で、普通ならばその価値は高くない。だけどタータントの第二王子にその隣の第一王子と王太子から求婚され、おまけに伯父は自分達の手駒である魔術師団の長……。その上にケイトリン大好きな配下達が居るという、うってつけの人材ってこと?」
「そういうことね……。だから、監察部隊が半壊状態に追い込まれても、中枢部から何の警告も受けてないのよ。だって中枢部の望み通りだもん。多分、半壊で止める、って所まで折り込み済みよ。これで全壊させたら中枢部も警告しなくちゃだけど、私が中枢部と事を構えたくないって言ったのを律儀に守るデボラ達だから壊滅はさせない。そこまで読んでいたんでしょうね」
私は掌の上で踊っていたわけである。いや、私というよりデボラ達が、だけど。配下のやらかしは上が始末を付けるわけですからね。デボラ達が掌の上で踊らされていたのなら、私も同じ、という事だわ。
「更に言わせてもらうと、多分、アリシャに言い寄って来た帝国の高位貴族の子息って、中枢部の意思とは別だと思うの。つまりその子息……いえ、その高位貴族自体、中枢部は邪魔なんじゃないかな。失脚させたいのか、アリシャに関する事だけ暴走しているから少々穏和しくして欲しいのか。その真意は不明だけど」
「そう……そうね。それなら急に私とドナンテル殿下の婚約に口を挟んで来た理由がわかるわ」
「まぁ失脚とまではいかなくても、他国の王女と王子の婚約に帝国とはいえ、一貴族が口出しするなんて有り得ないから。多分中枢部の怒りを買っているのね。それで穏和しくしてもらうために、アリシャの婚約話に口出しさせたんじゃないかしら」
私の推測を話せば、アリシャもデボラ達も、してやられた! という表情を見せた。おそらく私の推測は外れていないはず。中枢部は邪魔だった監察部隊と高位貴族を手を汚さずに退けられた。その手伝いをデボラ達は嬉々としてやったわけね。
「まぁそういう事なら中枢部も警告してこないわけだから、気にしなくていいわね」
気持ちを切り替える事にした。さて。そういう事なら、今回の件は置いといて。魔術師協会の動きが気になるわね。
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