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閑話・1度目。ーー男同士の密約・5

さて。シーシオ様に報告はした方がいいだろうが、まだ簡単な接触では報告するような内容も無い。研究者という建前上、それらしいことをしていないのもどうかと思うから。取り敢えずシーシオ様がそれらしく見えるよう書き散らした紙をまとめてみるか。俺が書いたものではないが、筆跡を真似るくらいは簡単なので、その辺は問題ない。あくまでも一見似たような文字というだけで細かな癖などを見られたら不味いが……まぁ大丈夫だろう。


ついでにシーシオ様が書き散らした内容に目を通してみるが、魔法のことはさっぱり分からないから読んでも理解出来ない。ただ。おそらくセイスルート家の影だから、なのだろう。魔法を使われた際の対処法は解っている。魔術師も魔法も半信半疑だったというのに、お嬢様を主にした途端、世の中にはこれほど自分の知らない事が有るのか、と見せつけられてばかり。


ーー全くあのお方は、配下を退屈させない主だ。


そして困った事に。影として自分の感情など押し殺して主の命に従う事こそが、至上だと教え込まれたはずなのに。お嬢様付きになってからは、押し殺したはずの感情を出す事が多くなっている。

大体、ここ何代かのセイスルート辺境伯……当主様は、辺境伯の領地と領民を守ることだけの生活を送って来られたのに。お嬢様を主に戴いたら、自国の王家のアレコレに巻き込まれて動き回ることになり。隣国の王家の王太子争いその他に関わって動き回ることになり。現在はシオン帝国の半信半疑だった魔術師に関わることになっていて。


休んでいる暇が、どこにもない。


どこにもないけれど。多分、ここ何代かのセイスルート辺境伯当主に忠誠を誓っていた影よりも、今の俺の方が影らしい影だと断言出来る。それも俺という個のある影。それは、多分。ここ何代かの影よりもとても幸せな影ではないか、と俺は自負している。だからこそ、俺はお嬢様の無茶に付き合えるのが楽しくて、一生をお嬢様に忠誠を誓って過ごしたいのだろう。


多分、俺の中で、俺の心の底で影である事の生活に燻りが有ったのだろう。だから、無茶で予想も付かないお嬢様を主に戴いた。俺の勝手なのに、あの方はきちんと主として俺を受け入れた。懐の大きな方だ。そんなお嬢様に褒められるためにも、そしてお嬢様を悲しませた罰の代わりのためにも。


今回の件は、きっちりやり返させてもらうとしよう。


そんな事を考えながらチラリと窓から外を見れば、協会の受け付けの女の子がジッと宿を見張っている。宿の受け付けで部屋を確認でもしたのか、俺の居る部屋に狙いを定めて。俺が見ている事には当然気付いていない。当たり前だ。素人に気付かれるような下手を打つ程、俺は若くない。少し窓から離れ、何気なさを装って窓を開ける。

見張っていた受け付けの女の子は、素人なのだろう。視界の端で慌てて隠れていた。もちろん、そんな女の子に気付いていないフリをしながら如何にも気分転換をしています、というように空を眺めながら深呼吸をして窓を閉めて窓から離れた。


それにしても。この宿に戻って来てからそれなりの時間が経つというのに、見張りを止めない協会側は、一体何を探っているのだろうな。……妥当な考えは、俺が魔術師団の手のものではないか? という疑いなのだろうが。俺が魔術師団と繋がっていて、それがどう協会側に不利だと思わせるのだろう。繋がりが見つかっただけでは、どうという事もないはずだろうに。それとも、魔術師団と繋がっているだけで目の敵にでもされるというのか。


次に協会へ行く日は、協会から去る時に打ち合わせした。3日後だ。それまで協会側からの見張りは付くと考えておくべきだろう。やれやれ。ご苦労なことだ。

お読み頂きまして、ありがとうございました。


あまり長くない(予定の)新作を3作品公開している関係で、本作の公開時刻が当面の間、変わります。午前7時→正午。新作が完結次第、元の午前7時に戻ります。次話は月曜日の正午を予定してます。

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