閑話・1度目。ーー男同士の密約・3
2話連続投稿の1回目です。
連絡を取るための方法や緊急時の対応等、話し合う事は幾らでもあった。そうして俺が彼の組織に潜入する為の偽の身分も保証してもらう。魔力は無いが魔法研究をしている民間人の設定らしい。民間人というところがこの潜入調査の要で、魔術師団に何度も足を運んで魔法研究に協力を頼んでいるのに、一向に協力を得られない事に苛立った俺が、魔術師団に見切りを付けて魔術師協会へ協力を依頼する、という設定で潜り込むとか。
そのために魔術師団の受け付け場所で何度か問題を起こす演技も行った。
シーシオ様が言うのに「まぁ上層部はお前が潜入調査をする事を知っているとは思う。正体も知られているだろうが、お前のことを歯牙にもかけないだろうな」とのこと。歯牙にもかけないなら、あの警告は何なのかって話だが、まぁ要するに俺が舐められていることだけは理解した。それならそれで構わない。油断する方が悪いのだ。
そんなわけでお嬢様の側を離れてから10日が経過した頃に、俺は魔術師協会へと足を運んだ。
「すみません」
協会の受け付け場所は、魔術師が受け付けに居ない。魔術師団は魔術師が対応するのに、此処は可愛い女の子が居る。可愛いと言ってもお嬢様程じゃない。客観的に見て可愛い部類に分けられるだけであって、俺の中で一番可愛いのはお嬢様だ。誰がなんて言おうと俺の主は一番可愛い。この点ではデボラも素直に頷くが、お嬢様に一番信頼されている配下は……という話題になると、途端に俺とデボラの意見は喰い違う。
お嬢様に一番信頼されているのは、絶対俺のはずなのだが、デボラは「私こそ一番です」と言い張って認めない。もう少し素直で謙虚になることを勧めたい。
「はい、何か」
おっと。思考が逸れた。受け付けの女の子に「魔法を研究している魔力無しの民間人なのですが、こちらの魔術師協会さんで研究に協力してくれる魔術師を紹介してもらえますかね」と頼んでみる。
案の定、奇異の目で見られたが、それは想定内なので別に構わない。何も気付いてませんって顔で続ける。
「魔術師団の方に出向いて何度かお願いしたんですけどね。魔力無しのくせにってバカにされて話も聞いてもらえなかったんですよねー。それでこちらに来まして。協会さんなら話を聞いてくれるんじゃないかなって」
女の子の目が変わった。
魔術師団の名前が出た途端に、俺に対する奇異の目が失せて同情へ。
どうやら受け付けの女の子ですら団への感情は良いものが無いらしい。ただ、調べた所、受け付けの女の子は魔術師では無いようなのだが。魔術師で無いにも関わらず、魔術師団に良い感情が無いのも不思議だ。
「まぁ、魔術師団は頭の固い……いえ、歴史の古い所なので仕方ないかもしれませんね」
口を滑らせまくったな。これは乗ってみるか?
「本当に頭の固い奴らばっかりで。魔力無しが魔法を研究など出来るわけがない、と否定ばかりでしたよ」
「分かります、分かります。私も魔術師じゃないですけど魔法に憧れていて、せめて受け付けの仕事くらいなら出来るかなって思って話に行ったら魔力無しのくせにって言われましたからね! 分かりました! 協力出来る魔術師を紹介しますね!」
もしかして、魔術師団って柔軟な考えの持ち主が居ないから嫌われている、とか?
でもまぁ、帝国の中枢部から直々に命じられることも多いからな……。信用出来る者しか雇えないのかもしれないが……見下す所は直した方が良さそうだな。シーシオ様に進言しておくか。
そんな事を考えながら受け付けの女の子を待っていると、後ろから如何にも魔術師という見た目のローブを着た男性がやって来た。シーシオ様の言に拠れば、普段からローブを着て如何にも魔術師、と思える奴程あまり凄腕とは言えない魔術師だったっけ……。
魔術師がローブを着るのは、魔法を使う時。
魔法の使用は、術を発動させる言葉……呪文というらしい……を一文字でも間違えたり、道具を使用する場合にはその道具が魔法に見合った物じゃなかったりすれば、自らに跳ね返って来るそうだ。
例えば水を掌に出す呪文を一文字間違えただけで豪雨が自身に降り注ぐ事にも成りかねない、らしい。
ローブはそういった事態に陥った時に魔術師を守る盾のようなものらしいので、常に命を狙われているわけでないなら、普段から着ている者は魔法の扱いが下手である、と。
つまり、今、やって来た男はあまり魔術師としては腕が立つとは言えないということ。
魔法を研究している民間人という売り込みだから、これくらいの事は知っていてもおかしくないだろう、と考えて受け付けの女の子が紹介して来た時点で断った。
お読み頂きまして、ありがとうございました。
数日立ちくらみが続き、病院へ行こうか迷いつつ、PTAの役員の関係で原稿書いたり会議の変更等の連絡があったり、と気付いたら2週間経っていました。すみません。
お詫びに2話連続で投稿致しますのでよろしくお願いします。この後8時にもう1話投稿致します。




