閑話・1度目。ーー男同士の密約・1
伯父様とクルスのお話。
今話は、クルスがケイトリンから離れる前に時間は遡ります。今話の後、クルスはケイトリンから離れて暫くシーシオの元で動く流れに。
「何故、今更あの件を?」
威圧を放たれて、俺は呑気な事に辺境伯様と似ているな……なんて思った。まぁこの程度の威圧、あの方からも浴びせられたのでどうという事もない。現在俺が忠誠を誓っている主人の父にて本来ならその方以外に忠誠は誓えないのだが。セイスルート辺境伯。その実兄であるこの方・シーシオ様は姿も威圧もそっくりだった。
「今更、では無いです。調べては居ましたが腰を据えてまでいかなかっただけで」
肩を竦めて返答する。
「改めて調べ始めたら妨害でもされたか」
「命を狙えるのに手加減されました」
まだ主人であるお嬢様にも話せていないが。
「ふん。成る程な」
お嬢様の命を受けてロズベルという母娘とジュストをタータント国へ無事に帰国させる事が役目だったのに、果たせなかったあの一件。帰国させることは出来たが、安全とは言い切れなかった。襲撃され、誰が狙われたのかも判らない上に、襲撃してきた者達は死体に成り果て……しかも消えた。どう考えても異常だ。
あの一件を本腰入れて調べ出した途端に命を狙われた。しかも手加減付きで。
ーー手を引け、という脅しなのは誰でも解る。
「おそらくだが……あれは、我が魔術師団を狙ったものだな。おそらくというより、まぁほぼ確定だ」
お嬢様が帰国する時に狙われなかった事からも解るように、まぁそうだろうな、としか思えなかった。
「心当たりは」
「多過ぎる。だがおそらく組織的なもの。となれば、前魔術師団長争いの3人だろうな」
「前魔術師団長争い」
「私が魔術師団長の座に着く100年程前の争いだ」
「は?」
シーシオ様の発言に、俺でも動揺する。
100年程前、だと?
「気持ちは解る。だが、そこの可能性が高い。前魔術師団長がその座に着いた時、落ちた者は4人。1人は既に死亡している。だが、残り3人は生死不明だ」
「しかし、常識的に考えれば既に死亡しているのでは?」
「まぁな。それに通常魔術師……特に特殊な魔術師は早くに死ぬ」
「それはシーシオ様でも?」
「ああ。あの子には知らせるな。まぁ後数年だろうな」
「後数年」
「魔術師というのは命を削って術を使っているからな。その身に宿る魔力を使う。体内にある血液を外に出すようなものだ。流し続ければ?」
「死ぬ」
「それと同じだ。血を止める事は出来ても魔力は術を使うのに必要だからな。止められない。そして減る一方で増えることはない。使えば使うだけ死ぬのが早くなる。それだけだ。そして特殊な魔法を使える者というのは、魔力を通常の魔術師よりも消費が多い。故に命が尽きるのも早い」
「……では、尚更」
「その3人ではない、と思うだろうな。だが、3人共が魔術師団長を務められる程の特殊な魔術師。そして特殊な魔法はどのようなものが有るのか、私も知らぬ。その中の1人が永遠に生きる魔法を使えてもおかしくないだろうな」
夢物語のような事を真顔で言うシーシオ様を見て、笑い話でもなんでもなく、そんな魔法が存在する可能性もあるのだ、と納得する。そもそもお嬢様が1度死んでやり直している、とか言っていて。それを否定するどころか肯定するしかないような日々を送ってきた。
不死という魔法が有ってもおかしくないのかもしれない。
「その1人に私は狙われた、と」
「可能性の話だ。もしかしたら不死の魔法などなく、その当時の3人の遺志を継いだ者達かも知れぬ。組織として存在しているのは判っているが、帝国の中枢部から何の指示も出されない以上、調査も出来ん。要は放っておく以外無い」
「ですが、こちらも分かりました、と手を引くわけにはいかないです。タータント国にあと一歩のところで襲撃され、倒したものの襲撃した者は全員死体。影としての誇りが傷だらけですよ」
「そうだろうな。……では、調査をしてみるか? それこそ命の保証はせぬが」
「許されるのなら調べたいですね。お嬢様の命が脅かされる可能性もあるかもしれない、と思えば尚」
「ふむ。あの子に暫く離れる許可を得られれば、私も調査はしたい、と思っていたところだ。手筈を整えよう」
そんなわけで、俺はお嬢様に許可を得て、暫くシーシオ様の手足になった。
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