2度目。ーー友人を疑いたくないけれど。・2
デボラからの報告書を読んで、息を吐く。
「やっぱりアリシャにはなぁんにも無いのよね……」
私の心情でも、アリシャには裏の事情など無いように思っていた。アリシャの国は小国で、穏やかな気候と同じくらい国民性も穏やか。無論アリシャを含めた王族も穏やかな気性。とはいえ、そこはやはり一国の王族。アリシャも含めて自国を守るために時に後ろ暗い方法を取る事も有れば、自国に有利な条件で外交を進めていく手段にも長けている。だが、そんなものは何処の国でも当たり前の事で、そういった部分を見ても、かの国は穏やかな国民性と穏やかな王族だろう。
だから、アリシャがシオン帝国に留学しているのも、なんの裏も無い。本当に、シオン帝国の繁栄がどんなものか自分の目で確かめて自国に有利になるような発見をしたい、と意気込んで留学して来ている。尤も、ドナンテル殿下の婚約者として選ばれた以上は、アリシャが帰国してシオン帝国で学んだ事を自国に活かす機会は訪れないだろうが。精々見聞した事を手紙等で父である国王や兄である王太子に教えるくらい、という所か。
どうやらデボラがアリシャの調査を始めた日付から考えると、サヴィがアリシャを調査している事に引っかかって、開始した、らしい。つくづく出来た侍女ね、と私は嘆息しつつ。アリシャに裏が無い以上、では、どうしてサヴィが……いえ、カリオン家がアリシャの調査をしていたのか、という疑問がやはり残ってしまう。
アレジとガリアの報告待ちか、と自分を納得させて、休む前にデボラが準備してくれたクッキーを口に入れた。どんな些細な事でも引っかかった以上は調べて、その引っかかりが、問題と関係ない事を核心しないと、その些細な引っかかりに惑わされて本来の問題を見誤る可能性も出て来る。だから、遠回りになろうと、どんなに馬鹿馬鹿しい事だろうと、引っかかりを覚えた些事を潰して、本来の問題に取り組む。
それが1度目の王子妃教育の経験を経て培った私の対応だった。
まさかあの経験がこんな風に活かされる時が来るなど、私も思いも寄らなかった。
「ただいま〜、お嬢」
あまり待つ間もなく、先ずはガリアが帰って来た。
「アレジからの報告も一緒に預かって来てます」
「そう。じゃあ報告を」
「俺は騎士団の方でアレジが文官の方なんだけど。その前に2人でサッとカリオン家を調べて来ました。お嬢、カリオン家ってどんな家か知ってる?」
「知らないわね。ウチを尊敬してる、とか聞いたくらい?」
「そうそう。カリオン家凄かった。前当主も現当主もサヴィの兄もサヴィもセイスルート家大好きでさぁ」
「えっ、そんなに⁉︎」
「そー。だって、なんだっけ。当主様がカリオン家の前当主と現当主を手助けした、とかだっけ?」
「そんな話をしていたわね。国境沿いで手を出されたんでしょ?」
「そうそう。それで当主様、一緒に追い払ったとかで、カリオン家の前当主と現当主に好かれちゃってさ、そんで、その時の記憶を元に当主様の絵姿を描いてもらって玄関ホールに飾られててさー」
「は???」
えっ、何それ。知りたくなかったんだけど。お父様の絵姿がカリオン家では飾られている⁉︎ ちょっと、なんていうか、嫌〜な予感がしてくるんだけど。この先のガリアの報告を聞きたくない。
「いやー、それがさぁ。当主様の絵姿の筈なのに、なんか、人外的な? 崇拝対象的な? そんな感じの素晴らしくご立派な絵姿になっていてさー。俺、危うく誰コレ⁉︎ って叫んで大笑いしそうだったもん」
それってアレか? お父様が神格化されている感じ? えっ、何それ。そんななの、カリオン家って。
「ねぇ、今物凄く嫌な予感がしているんだけど。もしや、サヴィがアリシャの事を調べてたのって……」
「あー、多分お嬢の予感通り?」
「マジか」
「うん。単に、あのセイスルート辺境伯のご令嬢がシオン帝国に留学をして来た! ってことでカリオン家はお祭りみたいに大騒ぎしたみたいでさー。あ、コレはカリオン家の使用人から聞いた情報ね。そんで、サヴィに前当主と現当主が、お嬢に何か有ったら困るから、特に親しい人間を調査して怪しい所が無いか念入りに! みたいな、なんか使命感溢れて、アリシャ王女殿下の調査だったみたい〜。アレジも、まさかそんな事情かってちょっと呆れて、あと当主様の絵姿見て肩を震わせて笑いを堪えるのを我慢してたよ〜」
やっぱりかー!
やっぱり、そんな裏も何も無い、というか出来れば知りたくなかった部類の理由での調査だった〜!!!
「ガリア」
「うん?」
「私、絶対にカリオン家にだけは行きたくないわ」
「あー、その方がいいとは思うけど〜、ホラ、お嬢ってば、シオン帝国の上学園に進学までしちゃったじゃん? もしや、シオン帝国に移住か⁉︎ みたいな、ぶっ飛んだ考えを前当主と現当主がしているみたいでさ〜。何とかカリオン家に招待しようって思ってるみたいだよ〜。ただ。さすがにサヴィは、お嬢と友人付き合いしてるから、お嬢の性格を見抜いてるからさ〜、祖父と父親に言われても、サヴィは、誤魔化しながらお嬢をカリオン家に招待するのを止めてるみたいだね〜」
「うん。ありがとう、サヴィってとこね」
知りたくなかった友人の家の事情を知ってしまい、中々の衝撃で私はちょっと頭痛がしているのを堪えていた。
お読み頂きまして、ありがとうございました。




