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続・お嬢様を愛でる会・その1

リクエスト編最終回となりました。

「「お嬢! やっと見つけましたっ」」


それは、ある早朝のガリアとアレジの奇襲……もとい乱暴な報告で始まった。


「ガリア、アレジ、うるさい」


連日のように動き回る5歳の息子と3歳の娘の後を追いかけ回し、生まれて半年の3人目の子の夜泣きに対応していたケイトリンがようやく眠れたのが、明け方のこと。代わる代わる3人目をあやしていたので、ドミトラルも似たようなものなのだが、やはり2人に叩き起こされて苦笑している。


尚、ケイトリンとドミトラルを寝不足にしている3人目の子もようやく寝たというのに、この2人によって起こされたので、グズグズ泣いて起き出した。ケイトリンが慌てて抱き上げてあやしながら、ノックと共にドアをぶち破る勢いで入って来た2人に、視線で人が殺せるのであれば、間違いなく2人は生き絶えていると思われる強い視線を向ける。


「「す、すみません」」


「しかも寝室に入って来るって本当に無礼よ」


とはいえ、普段はこんな事を仕出かさないはずの2人である以上、余程報告したい事が有ったのだろう、と判断する。そういえば、やっと見つけた、とかなんとか言っていたか。


ケイトリンに怒られた2人は肩を落とし、直ぐに寝室を出ようとしたのだが。


「それで? 何を見つけたの?」


というケイトリンの問いかけに、沈んでいた顔が明るくなった2人は、寝室のドア付近で(さすがに入室許可が下りてない事は理解しているらしく、ドアを開けたその場から動いてない)交互に報告した。


「あの、お嬢が言ってた」


「オンセンです!」


ケイトリンは、目をパチクリさせてオンセンの単語に首を捻った。


オンセン……おんせん……温泉。


「温泉⁉︎」


ケイトリンが大声を出したので、ようやくグズグズが落ち着いたはずの腕の中の赤ちゃんは、ギャアーと盛大に泣き出した。


「あー、ごめん、ごめんね。ビックリしたねぇ」


慌ててあやす。そんなケイトリンの隣でドミトラルが口を開いた。


「温泉が見つかった……って、あの火山まで行って来たってこと⁉︎」


ドミトラルも驚き声を上げる。火山で有名な国に温泉がある、かもしれない……という予測(確率的には高くても、温泉の存在にこちらの世界の者が気付くかどうかは別だから)の元、探しに行ってきますー。とアレジとガリアが旅に出てから3ヶ月。まさかこんなに早く見つけて帰って来るとは思わなかった。


というか、ケイトリンもなかなかに冷たい主人である。3ヶ月ぶりに会う臣下2人なのに「うるさい」の一言なのだから。とはいえ、夫妻プラス赤ちゃんの寝室に押し入るような真似をした2人なので、まぁどっちもどっちな主従といったところか。


「一体、何の騒ぎだ」


ガリアとアレジ。そして大声を出したケイトリンとドミトラルに気付いたクルスが現れる。その背後にはベアーナ・マリー・ロシュが見える。彼ら3人はクルスやガリア・アレジに一人前と認められて、ケイトリンの子ども達3人の護衛付きになっていた。尤も3人目はまだ1歳にも満たない赤子のため、専ら上2人の護衛を3人で行っているわけだが。


そんな上の2人は、ケイトリン夫妻の寝室に見当たらないが、いつもいつも親子全員が同じ寝室で寝ていると、上の2人の寝相の悪さと赤ちゃんの夜泣きとでしょっちゅう起こされてしまうケイトリンを慮って、5日に1回は上の2人を2人の子ども部屋でそれぞれ2人付きの侍女達が寝かしつけているのである。ちなみに、慮るのはあくまでもケイトリンの方であり、夫であるドミトラルは彼らの中では、()()()である。


何しろ、『お嬢様を愛でる会』の会員は筋金入りのお嬢様至上主義だから。


ベアーナ・マリー・ロシュも会員だが。

3人の子の侍女達、ベルガ・メラニー・スカーレット・ライア・オシアもお嬢様至上主義である。

尚、もう“お嬢様”ではないケイトリンなので、現在は『お嬢様を愛でる会』から『当主様を愛でる会』に会の名前は移行している。


「あ、クルスさん。俺たちお嬢が言ってたオンセンを見つけて来ましたー」


と、ガリアがのほほんとした口調でクルスに報告する。そこへすかさず。


「いつまで当主様の事を“お嬢”と呼ぶんですか、あなた達」


と、白い目で蔑みながらデボラが貫禄たっぷりで現れた。彼女は当然ながら今でもケイトリン付きである。というか、ここで間違えてはいけないのが、ケイトリンは“奥様”とは呼ばれない。“当主様”である。それはそうだ。セイレード女男爵だから。ドミトラルに対して、皆は“夫様”と呼んでいる。ご夫君とどちらの呼び方が良いか、デボラを筆頭に愛でる会のメンバーで議論した、とか、しない、とか。


それはさておき。

そんなデボラの背後にはオストが見えた。セイスルート家からセイレード家の料理長に就任している安定の隠居ぶりを発揮しているオストが、当主夫妻の寝室で騒ぐガリアとアレジをギロリと睨み付けた。……2人の背筋がピンと張ったのをクルスはチラリと見遣ってから、とにかく、寝ついているお子2人を侍女達に任せ、グズついている赤子はドミトラルに任せてケイトリン・デボラと自分がガリアとアレジの報告を聞く事にした。


オストにお茶の準備を頼んで、クルスは当主の執務室へ促した。寝不足気味のケイトリンには申し訳ないが致し方無しと言えよう。そして、クルスは影のはずなのだが、ケイトリンがセイレード女男爵の座についたら、シレッとケイトリンの右腕的な家令に就任していた。……おそらくクルスが1番の出世である。それも影という裏舞台で暗躍すべき男が、家令(家の全てを取り仕切る存在)という表舞台で活躍しているのだから。

かと言って、クルスが影として裏で活動をしなくなったか、と言えばそんなわけが無い。


ガリアとアレジに任せられるか、というよりは、そこはやはり“お嬢様を愛でる会”もとい“当主様を愛でる会”の副会長の座を死守しているだけあって、クルスはケイトリンに仕える事を己の至上としているので、表でも裏でも活躍しているのである。それはもう当然の如く。

尚、会長の座はもちろんデボラのままだ。クルスは死守しなくては、他から副会長の座を狙われてしまうが、デボラは死守など全くしたことがない。何故なら会長の座を狙うという事はデボラに逆らうというわけで。


デボラに逆らうなんて命が惜しいのでやらない。いや、命を賭けるのは多分、皆、気にしないのだろうが、デボラに勝てるわけがない。勝てなければ、お嬢様もとい当主様にお仕えする事が出来ない。結果、誰もデボラに挑む事などしないのである。

ケイトリンを愛でるために自分達の存在意義があるのに、愛でられなくなったら本末転倒ということだ。

お読み頂きまして、ありがとうございます。


リクエストは、多分全て応えられたかな、と思われます。


皆様のリクエストの中で

幸せなその後(子ども込み)というのが多かったので、今回、お嬢様を愛でる会再びに絡めて、ケイトリンのその後かつ幸せな姿かつ子どもを登場させてみました。

リクエストを夏月の都合でまとめて執筆してみましたが、その他も多分、全て応えられたと思っています。

最後までよろしくお願いします。

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