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結婚式に至る2人〜ケイトリンとドミトラル〜

お待たせしました。

ケイトリンとドミトラルの結婚式です。

シオン帝国の上学園を卒園したケイトリンは、本日、セイスルート辺境伯領にて一大イベントを迎えようとしていた。


「お、おかしくない? 変なところない? ねぇ、やっぱり今日じゃなくて別の日の方が良かったかしら。どう思う? デボラ」


「お嬢様、落ち着いて下さい。というか、結婚式の日を今日にしたのは、お嬢様とドミトラル様じゃないんですか。大体今日結婚式をするって国王陛下の裁可をもらってるし、教会の神父様もそのつもりだし、招待客やセイスルート家の臣下達やなんだったらドミトラル様だって今日結婚式だって思っていらっしゃるでしょう。今更、何を言い出すんです。それとも、ケイトリンお嬢様はやっぱり結婚が嫌だとか、そういう感じですか」


デボラは専属侍女というだけでなく、散々ケイトリンに振り回されて逞しくなっている上、ケイトリンからは思った事を素直に言っていい、という許可をもらっているので、スッパリバッサリとケイトリンの世迷言を切っていく。当たり前である。国王陛下の裁可もあり、教会も認可している。既に招待客は教会に揃っているだろうし、なんだったらドミトラルとその家族は前々日からセイスルート辺境領の宿に泊まっているのだ。


ちなみにセイスルート家に泊まる事を勧めたらドミトラルが、同じ家から教会に行くのは心情的にドキドキしない、というよく理解出来ない返答により、領内の宿に泊まっているのである。尚、こちらの世界……特に貴族は政略結婚など当たり前のようにあるので、結婚式当日まで互いの顔も知らないというのもあれば、婚姻書類を提出した時点で挙式出来なくても結婚生活を始める夫妻もいるので、結婚式の教会に2人で出向く事も別に違和感は無い。


多分、ドミトラルの中で教会の神父の前で花嫁であるケイトリンを待って、そこで初めてケイトリンを見るというドキドキ感を味わいたいのだろう、と思われる。案外乙女思考なのかもしれない。


「そ、それは解っているのよ!」


ケイトリンはデボラに指摘されてうっ……と言葉に詰まりつつ、返答する。まぁ要するになんだかんだ言っているのは、緊張という二字がケイトリンを包み込んでいるだけである。……こちらも存外乙女思考なのだろう。デボラは、普段はどちらかと言えば大雑把……いやいや、おおらかで周囲の迷惑を顧みず振り回す……いやいや、豪胆なお嬢様なのに、今日はさすがにその性格が形を潜めているのかしらね、と、かなり失礼な事を思いながら準備を進めていく。


ちなみにこんなデボラの心境をケイトリンが知ったとしても、当然ながら別に咎め立てなどするわけがない。ただ、やはりデボラの中では大切な主人なので口には出さないだけである。ーーデボラの中では、大事な線引きであるが、そもそもこういう事を考えている時点で、厳しい主人ならそれこそ咎め立てするだけのものなのだが。まぁ口に出していないし、ケイトリンも緩い主人なので、誰も損はしていないし些細な事である。


「デボラ。本当に、ほんっとうに、このドレス変じゃない? ドミトラル様、気に入ってくれるかしら」


ケイトリンは自分のウェディングドレス姿を何度も鏡越しにデボラに話しかけながら確認する。


「大丈夫です。綺麗ですよ、お嬢様」


それよりもそろそろ屋敷を出て教会へ向かう時間だ。そんなわけでデボラはウェディングドレスを着たケイトリンの手を引いて馬車へ移動する。さすがにこのドレスで馬に乗れ、とは言わない。いや、言えないだろう。ケイトリンも覚悟を決めたような表情で馬車に乗り込んだ。ちなみに御者を務めるのはクルスである。


影なんだから影の仕事をしなさいよ、とデボラは思ったがまぁいい。今日くらいアレコレ言うのはやめておこう。そんなこんなで教会に到着し、裏口から控え室へと足早に向かう。裏口からなのは、控え室に近いからである。表口から入れば招待客で混雑していて、うっかりするとケイトリンがもみくちゃになり、折角の綺麗なドレス姿が見るも無残な光景に早変わりするだろう。実際、過去に何処かの家の結婚式でそのような事態が起こり、花嫁の見栄えを取り戻すために挙式時刻が大幅に遅れた事があるそうな。だったら、教会の控え室に早めに行って、そこで準備をすれば合理的だと思うのだが、古くからの慣習で花嫁も花婿も家で準備を整えて教会へ向かうのがタータント国の流儀。誰も疑問を抱かないのは、多分、教会の控え室が狭いので準備に向かないからだろう。実際、花嫁もしくは花婿が控え室に入って椅子にでも座ったら後は2人くらいしか入れないのである。


そんな控え室の椅子に座ったケイトリンの側には、当然デボラが控えているが、だからといって落ち着いても居られない。ケイトリンが立ち上がる事はないが、ケイトリンの家族を筆頭に入れ替わり立ち替わり控え室を訪れるのである。といっても、招待客などはやって来ないので家族以外は本当に仲の良い友人達くらいなものか。


ヴィジェスト殿下の婚約者候補者達を集めたあのお茶会をきっかけに仲良くなった友人達が、ケイトリンにもそれなりにいる。彼女達にも招待状は送ったが、それよりも驚くのは、アリシャはともかく、その婚約者であるドナンテルが来た事だろう。隣国の第一王子が何をやっている。


「ケイトリン、綺麗だな」


「ありがとうございます、ドナンテル殿下。それで。アリシャは招待状を送ったから当然として、なんで貴方がここに」


ドナンテル殿下に招待状は出してないですけど? と言外に言えば、ヘラリと笑って「アリシャの婚約者だ、と言ったら許可が出たぞ」と言い放った。誰が許可を出したのかはさておき。


「ケイトリン。綺麗よ、おめでとう」


「ありがとう、アリシャ」


取り敢えずアリシャとの友情を深める事にする。


「ノクシオも来たがってたんだが、さすがに王太子がのこのこやってくるわけにはいかないだろ。警備の問題とか、この国との外交的な問題とか」


「それ、ノクシオ殿下だけじゃなくて、ドナンテル殿下も言えますが」


「アリシャだって王女だろうが」


「アリシャには綿密な警備計画書を提出して、それに了承を得た上でタータント国の国王陛下にも裁可を頂いています。アリシャの分()()


だけ、を強調すれば、ドナンテルはまたヘラリと笑って


「アリシャの警備に問題無いなら俺も問題無いだろ。いいじゃん」


コレである。もう言っても無駄だし、そろそろ式が始まる時間だ。ケイトリンは「分かりました」とだけ言って2人を返した。


「お嬢様、時間です」


「はい」


日本で言うところの介添人役はそのままデボラが続けてくれる。バージンロードを歩くのは、花嫁の父が付き添って花婿の元へ行くのが日本の印象だが、少なくともタータント国周辺ではそんな慣習は無いようで、控え室から会場の前までは介添人というか付き添い人が花嫁を連れて行き、ドアが開いたら花嫁1人で神父と花婿の待つ場まで歩いて行く、ということを知ったケイトリンは、つくづく所変われば……どころか世界変われば常識も変わるのね、という感想を抱いた。


暖かい視線の招待客。チラリと視線を向ければ、1番前で座る父と母と兄夫妻・姉・弟。母よりも何故か父の方が豪快に泣いていて、これから式が始まるのに……と、ちょっとドン引くケイトリン。母は目が潤んでいる程度。兄夫妻は笑顔で姉のキャスベルは……笑えば良いのか分からないとでも言いたそうな変な表情で、弟のロイスは満面の笑み。これが、この家族なのだから仕方ない、と思いつつ、レード家を見れば、義父母は幸せそうにニコニコし、長兄夫妻も穏やかな雰囲気。次兄であるデスタニアは深い笑みを浮かべていた。


そうして、歩きながらゆっくりとドミトラルの隣、神父の前に立って。厳かな雰囲気へと空気が変わったところで神父立ち会いの元で神に誓願を立てる。……これも日本でのイメージでは「病める時も健やかなる時も……」的なアレだったが、2人で神への誓いの言葉を神父立ち会いの元で述べるだけなのが一般的らしい。所変われば……である。


尚、当然の如く賛美歌を歌う聖歌隊やらパイプオルガンの音色が響きわたることもなく、それどころか指輪交換すらしないらしく。誓願を立てて神父が認めれば、それで結婚式は終わり、という随分あっさりしたものなので、ケイトリンの強い熱意により、せめて……と、指輪交換だけは捩込んだ次第である。


ケイトリンとドミトラルは、2人で考えた


「病気であっても、健康であっても、貧乏になっても、裕福になっても、喧嘩をしても、苦労も楽しいことも、悲しい時も嬉しい時も2人で分かち合って幸せだと思える人生を歩んでいきます」


という誓いの言葉を述べた後で、デボラに託してあった結婚指輪を互いに交換しあった。その後、招待客の方を振り向き


「私達2人のために集まって頂き、ありがとうございます。これから2人で人生を歩んでいきますが、暖かく見守って下さい」


と、礼の言葉を述べて頭を下げた。これだって日本でのイメージでは所謂「ご指導ご鞭撻の程宜しくお願いします」的な言葉を述べたい所だけど……世界変われば云々。そういった事を招待客には言わないらしい。貴族って家同士の繋がりが必要なんじゃないのかって話だが、それはそれ、これはこれ、とのことで、これくらいしか2人は言えなかった。


この後は、招待客を入り口で見送るとの事で、ドミトラルとケイトリンが教会の入り口まで行こうと招待客の「おめでとう」の言葉の中を歩き出して、ケイトリンは気づいた。


「なっ」


小さな声は「おめでとう」に掻き消されたので、聞こえたのは隣にいたドミトラルだけである。


「ケイティ?」


小声で訊ねれば、ケイトリンは、ハッとした表情になって慌てて笑顔を浮かべた。何しろ、大声を出して注目を浴びさせたら大混乱になる事この上ない相手が、シレッと招待客に混じって一番最後の椅子に座っていたからである。


どうやら2人は、日本で言うカツラを着けているようだが、それ以外は服装が裕福な平民程度で見る人が見たら直ぐに解る……いや、大抵の人は気付くレベルの変装。にも関わらず、全く騒がれていないのは……とチラリと周囲に視線を向ければ、デボラとクルスがコクリと強く深く頷いてきた。どうやら2人の尽力のお陰らしい。ケイトリンは溜め息を吐き出したくなったが、幸せな花嫁があからさまに溜め息をついたら、どうした⁉︎ となりかねないので、取り敢えずスルーを決めた。


招待客は全くあのお2人に気付く事なく帰って行き……レード一家とセイスルート一家及び、デボラが残った所で(神父は招待客が帰る時には既に居ない)、まだ最後に残っている招待客にケイトリンとドミトラルは視線を向けた。アリシャとドナンテルとは、また後日ゆっくり会おうと約束もしたところだ。


ドナンテルには、こっそりやって来た事を後程ギュッと締めるつもりだが、それよりも先に言わなくてはならない2人がいる。


「あれ? そちらの方達は……ケイティの友人?」


ドミトラルは全く気付かず、自分の方の招待客ではない事から、ケイトリンに訊ねる。ケイトリンはレード一家とセイスルート一家からも視線を浴びて、ようやく大きく溜め息をついた。


「何故、ここにいらっしゃるんです?」


「さすが、ケイトリン・セイスルートだねぇ。直ぐに気付いたんだ」


「気付きますよ」


「あら。周りの方々は気付かなかったのよ? だから私達の変装は完璧だと思っていたのだけど……」


クスクス笑う2人に、ケイトリンとデボラ以外は首を捻る。……髪色が違うだけなのに、こんなに分からないものだろうか、とケイトリンは思いつつ。


「付け毛でしょう? 取って頂いて構いません。というか、周りになんて言って出てきたんですか? イルヴィル王太子殿下・シュレン王太子妃殿下」


ケイトリンが2人の名を呼ぶと2人は付け毛を取り外す。イルヴィル王太子殿下と、シュレン王太子妃殿下の登場に、「えっ」と声を上げたのはセイスルート一家で、声も上げずに目を回して倒れたのは、レード一家だった。


「あらあら」

「おやおや」


「あらあら、おやおやでは有りません。もう、どうするんですか……。この状況。というか、ホント、2人がここに来る事を国王陛下始め皆様ご存知なのですか?」


ケイトリンがこう訊ねる間に、事態収束を試みようと、セイスルート一家総出でレード一家を馬車へと運ぶ。ケイトリンとドミトラルとデボラだけが最終この場に残った。


「「内緒だ(よ)」」


にっこりと2人は輝く笑みで言い切った。ケイトリンは溜め息を更に深くついた。……そうだと思った。そうでしょうとも。このお2人は、1度目の時と全く変わらない。本当にこういう性格。護衛や側近や侍従に侍女達の苦労が偲ばれる……。


「もう、お2人とも、ダメですよ。ご迷惑をかけちゃ」


「あら。でも、可愛いケイトリンの結婚式だもの。来るわよ」


「シュレン義姉様……」


「ふふっ。義姉様って呼んでくれてありがとう。私には記憶は無いわ。イルにも無い。でもね、私もイルも、ケイトリンの結婚式には絶対に出ないといけない、って強く思ったの。国王陛下にはお話したのだけど、陛下から、自分の代わりに見届けて欲しいって言われて来たのよ」


つまり、国王陛下だけは知っている、という事である。それならまぁ何とかなるだろう、とケイトリンはもう一度溜め息をついてから、シュレンに抱きついた。


「シュレン義姉様。来て下さってありがとうございます。イルヴィル義兄様も」


「ああ。ケイトリン、幸せになれ」


イルヴィルがケイトリンの頭をそっと撫でて、シュレンがケイトリンの背中を軽く叩いて。2人が満足そうに「陛下にきちんと伝える」と笑ったので、お願いします、とケイトリンは頭を下げた。それを見た2人は、クルスにシレッと護衛を頼んでいる所から、どうやらヴィジェストとのアレコレで城にケイトリンが出入りしている時に、イルヴィルに目を付けられたらしい事をケイトリンは気付き、クルスには後で改めて礼をしよう、と考えながら2人を城まで無事に送り届けるよう、命じた。


尚、後程デボラから聞いた所、イルヴィルとシュレンの2人は、シレッと前日にレード一家が泊まっていた宿に同じく泊まって本日の結婚式参加だったらしい。その迎えもクルスにシレッと頼んだようなので、相変わらずの2人にケイトリンはもう苦笑するしかなかった。


その後は、レード一家とセイスルート一家から「何故王太子殿下夫妻が」ということの質問責めに有ったが


「私がヴィジェスト殿下に色々と頼まれていた事に感謝して、だそうです」


と、ケイトリンがにこやかに答えれば、セイスルート一家はケイトリンの言葉を額面通りに受け取ったが、レード一家……特にドミトラルの母と義姉は「やっぱりケイトリンさんがヴィジェスト殿下に振り回されていたことを王太子殿下も妃殿下も心を痛めていたのね」と別方向で納得していた。


まあ、真実を話せない以上、ケイトリンもドミトラルも黙っておくことにした。





「ドミトラル様、改めて宜しくお願いします」


「こちらこそ。やっとケイティを妻に出来て、幸せだよ」

お読み頂きまして、ありがとうございました。

明日から3日……か4日……で更新しますのは、番外編最終話にあたる

【続・お嬢様を愛でる会】

です。最後までよろしくお願い致します。

多分、3話か4話くらいで終わる……はず。


また、長らく活動報告のコメント欄をリクエスト用として開放していましたが、リクエスト編終了のため、コメント欄を閉じます。

リクエストを下さった皆様、ありがとうございました。

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