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国王陛下の心情

読者様から指摘があったので、若干変更した部分が有りますが、大筋に変更は有りません。尚、次話の本文部分で指摘された点について返答させて頂きます。

あの日。隣国からの使者としてコッネリ公爵を迎え、その歓迎パーティーを開催していた所で第二王子・ヴィジェストが暗殺者に襲われる、という非常事態が起きた。ヴィジェストは無事だったが、その身を以て守ってくれたのが、ケイトリン・セイスルート。辺境伯家の次女でヴィジェストの婚約者だった彼女だった。この婚約は此方に利は有ってもセイスルート家に利は無い一方的なものだった。それでも婚約を締結したのは、セイスルート家の血を混ぜたかったからに他ならない。


国王の座に着く者しか知らない事がある。王妃や宰相でさえ知らない歴史。それはセイスルート家が元々王家だった事。我がタータント家はセイスルート家から王座を奪った簒奪者側。だが、セイスルート家はその身に流れる血に誇りを抱いているように、王座を争い負けたから、とそれ以降恨みなど髪の毛一本程も持っていないようであった。だからこそ、と言うべきか。セイスルート家の国を思うその血を我が王家に入れたい、といつの頃からかタータント家は思うようになり。


過去にも何度か政略結婚として此方から申し出た事がある。無論全て断られたのだが。此度はケイトリン・セイスルート自体がそれを受け入れて成立した。幼子が……と思ったが、背景はおそらくどの子も愛してはいるが、息子に比重を置きがちな当主と、どの子も愛しているつもりで、偏った愛しか与えないその妻……つまりケイトリンの両親の偏った愛情が彼女の背中を押したと思われる。ケイトリン本人も気付いていない程の無意識の欲求だろう。自分という存在を認めて欲しい、という。


本来ならそんなケイトリンに付け込むような婚約は結んではならなかった。だが、タータント家の悲願とも言えるセイスルート家の血を混ぜる事。今更、セイスルート家がタータント家に反旗を翻すとは思わないが、それでもやはり簒奪者という後ろ暗さが後押ししているのだろう。ケイトリンの気持ちに気づきながらそれを見なかった事にして締結した婚約だったからか。


ケイトリンとヴィジェストの相性は最悪だった。ケイトリンとヴィジェストの顔合わせ自体、ヴィジェストが避けに避けて、此方が痺れを切らして厳命してようやく顔合わせをしたその後から、どれだけケイトリンが歩み寄ろうとしてもヴィジェストが拒否し……そしてあの悲劇が起こった。おそらくケイトリンもヴィジェストとの歩み寄りには疲れかけていて諦めていたのだろう。


それでも。“第二王子の婚約者”としての立場をきちんと理解していたケイトリンが、隣国からの使者を招いたパーティーで。ヴィジェストが暗殺者に襲われ、一瞬、様々な判断をし損ねた余の隙を突くようにケイトリンが身を挺してヴィジェストを庇い、そのまま命を失った事を理解した時には。どれだけ後悔しただろう。


タータント家の悲願だったから。

ケイトリンが望んだから。


そんな卑怯な余の考えを人智を超えた何かの存在が許さなかったのではないか、と思った。その後は悔やんでも悔やみきれないが、“国王”としての職務を果たした。たとえ可愛い我が子であっても許されない、と“父”ではなく“国王”として処刑した。その後の人生は“国王”であっても、イルヴィルに王位を譲って“前国王”であっても、死の間際まで王妃以外には“余”で有り続けた。


王妃以外には公の“余”で有り続け、王妃の前でのみ“私”に戻った。王妃が先に逝き死の間際になってようやくあの魔法を使う時が来た、と思えた。タータント家がセイスルート家の臣下だった遥か昔からの頃からタータント家に時折生まれる“魔術師”の力を持つ者が使える魔法。時を戻す、禁忌の魔法。


ケイトリンの事は死の間際まで忘れた事は無かった。ケイトリンに対してだけは後悔しか無かった。それ故にこの死の間際でようやく使える事になるのが嬉しいというより、安堵した。この魔法の対価は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()事。寝ても覚めても忘れてはならない、というものが対価だった。


それがどれだけ大変なのか。

人は生きていくために、時に心に深く傷をつけた出来事を忘れようと閉じ込めようとする。それは国王として時に非常な決断をする事もあったからこそ、良く理解していた。

例えばヴィジェストを処刑する、と決めた時の辛い記憶。ヴィジェストの事を日々の忙しさの中で、一瞬は忘れた事も有る。

ヴィジェストの事以上に国の大事が起こればそちらに思考も感情も引っ張られる。だが、逆にそんな時でさえケイトリンを()()()()()()()()()()()つまり、それくらいの覚悟が無ければ、時を戻すなどという禁忌の魔法は使えない代物だった。


多分、そんな代償をケイトリンが知れば、そこまでして……と苦言を呈しただろう。あの娘はそういう娘だった。セイスルート家の血が良く出ている娘だった。だからこそ、この魔法を使うに価する、と思えた。そうして今、死の間際。発動条件は術師の死。巻き戻る事が当然だと理解出来ていた。


そうしてーー

再びタータント国の国王としての人生を歩き出す。

ヴィジェストが記憶を持ち、ドミトラル・レードも画家にならなかった事で記憶が有る事を知り、ケイトリン・セイスルートも婚約を固辞した事で記憶が有る、と知る。

今度はケイトリンの人生を縛る事はしない。ケイトリンが自ら望んで我が王家に来てくれるならば受け入れるが、それを望まないのならばーー見届けよう。


我が人生をかけて、彼女と彼女を取り巻く者達の新しい人生を。

お読み頂きまして、ありがとうございました。次話はご指摘についての説明ですので番外編ではない事をご了承下さい。

その次が番外編に戻ります。尚、次の番外編話は……来週月曜日にお送りします362話は【ドナンテルとノクシオの新婚生活】をお送りします。

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