if〜もしも前世で2人が出会っていたら〜
お待たせしました。
500万ビュー突破記念話第3弾です。
長めのあとがきに宣伝があります。
「あー、眠い」
徹夜でキャラデザを考えていたので朝日が目に痛い。……まぁいつものことだ。今度は乙女ゲームの悪役令嬢のキャラデザ。今までモブはあったけど主要キャラは無かったからなぁ。気合いが入る。とはいえ、既に3日目だ。いい加減依頼先からオッケーをもらいたい。
つか、悪役令嬢ってさ。金髪ドリルに大きなリボン付けて「オーホッホッホッホ」じゃないのか? 俺のイメージはそれで固定されてんだけど。それでそんなキャラデザを依頼先に見せたら速攻で却下された。なんでだよ。でも理由聞いて納得。皆、悪役令嬢っていうとそのイメージが固定されているらしく、既存の乙女ゲームにはそんな令嬢が多いらしい。
うん。知らなかったじゃ済まないな。
いくら乙女ゲームは畑が違うって言っても勉強くらいはしておくべきだった。そんなわけでボツを喰らったキャラ。次に考えたのはピンク頭のご令嬢だったのだが、ピンク色の髪はヒロインに多いんだと。知らねぇし。ヒロイン色はタブーだとか。マジで?
それからも吊り目にしたら髪の色はいいけど吊り目キャラは既に居るだの、反対に可愛い系にしたらあざといだの、とボツを喰らいまくり……。そんなこんなで徹夜3日目の朝を迎えた俺、佐々木透は行き詰まってしまって気分転換に近場のコンビニへ足を向けた。
いつもの銘柄のコーヒーは微糖だが、疲れ切った頭には糖分が必要だと指令が来ているらしくコンビニスイーツコーナーにも向かう。そこには登校前なのか、登校途中なのか知らないがJK……つまり女子高生がいた。ちなみに2人。真剣にスイーツを見比べている辺り、女子高生ってこんな感じだったっけ? と感慨深くなる。ーー年を経た証拠だな。
「ねぇねぇまこと。何を食べる? 新作の和風スイーツ? それともこっちのクリーム増量シュークリーム? いつものクレープもあるよ」
「そうだねぇ。どれも食べたいけど食べたら体重に直結するよね」
「それは、まぁ」
「そうするとさぁ……ダイエット、という地獄が待ってるよねぇ」
「大丈夫じゃない? この後部活は文化祭に向けて追い込みだから原稿描くので嫌でもダイエットになるよ」
「それはゆきちゃんだけだから。私、イラスト部じゃないし」
「それはそうだけど。つか、まことは生徒会副会長として忙しくなるんだから、結局大丈夫じゃない?」
「そうかなぁ」
女子高生は賑やかだなぁ。なんてオッサンくさい事を考えてしまうが、そろそろ決めてくれないかな。俺もスイーツを選びたいんだよね。そんな俺の気持ちが通じたのか、不意に1人の女子高生がこちらを見た。まこと、と呼ばれていた女の子だ。俺の視線に気付いたのだろう。気不味そうな顔をして、無言で会釈して、ゆきちゃんとやらに声をかけた。
「私、今日は新作和風スイーツにする。ゆきちゃんは?」
「決まってるよ。クリーム増量のシュークリーム」
やっと決まったらしい2人は、ゆきちゃんは俺を胡散臭そうに見て、まことちゃんは俺を無表情で見た。どっちもどっちなあまり好ましくない顔だなぁとは思ったけど。まぁ警戒心が強いのはいい事だ、と前向きに考える。
それから俺もスイーツを見比べた。
新作和風スイーツ。割と餡子は好きな俺は、その新作和風スイーツに餡子が乗っているのを見てしまって。即決。先程の女子高生達は既に居なかったが、あの制服は直ぐそこの進学校の制服だったな、とぼんやりと制服姿が思い起こされた。
それっきり、忘れてしまうはずだった。
が。
ふと思ったのだ。
悪役令嬢ちゃんだって、先程の女子高生達と同じくらいの年齢だ。親しい相手には溌剌な笑顔で、親しくない相手にはああいう警戒心高めの無表情令嬢、というのも有りじゃないかなって。
そんなわけで、仕事場に戻って先程のイメージを持ってキャラデザにした所、依頼先からは「これでいきましょう!」と手応え抜群の返事が来た。更に髪の色や目の色。ドレスや装飾品などの細かい指定があって。完成したのが、ケイトリン・セイスルート。という少女だった。
……あの「まこと」ちゃんに雰囲気が似たキャラになってしまっていた。
***
「ということがあってね。それで出来上がったキャラが君だよ、ケイティ」
此処は王都にある辺境伯邸別邸。普段は辺境伯の隣にある男爵領の領地経営の勉強中だけど、俺とケイティは数日前から、第二王子・ヴィジェスト殿下の生誕祭に招かれてこの屋敷に逗留していた。そこで、ふっとケイティから俺が「佐々木透」……つまり日本人だった頃の仕事内容について尋ねられたから答えて。ケイティのキャラデザが誕生したきっかけも話していた所だった。
ところで、ケイティ。なんでそんなポカンとした顔をしているんだ?
「ケイティ?」
「あのっ、ドミーの言う進学校って〇〇高校?」
「えっそうだけど」
「ねぇ、ドミー」
「ん?」
「それ、私」
「は?」
「いや、だから、まことちゃんって私。細川真琴って日本人だったの。〇〇高校通ってて、親友がゆきちゃんで、生徒会副会長だったの」
……まさかまさかで、ケイティのキャラデザの大元になった女子高生がケイティだった。えっ、何これ。そんな事ってあるのか?
「つまり、俺は君を元にしてケイトリン・セイスルートのキャラデザを仕上げたわけで。そのケイトリン・セイスルートに元々の君の魂が転生した……? なんていうか。よく出来た話というか、ある意味恐ろしいくらいなんだが」
「それは私も思った」
ーー2人が人智を超えた出来事に顔を見合わせているのを、2人を転生させた人智を超えた存在が見守っている……そんな事もあるかも、しれない。
500万ビュー突破記念話はこれにて終了。
来週からはリクエストに移行します。引き続きリクエストを受付中です。
また『お嬢様を愛でる会』の復活をご希望の方がいらっしゃいましたので、前回と同じく活動報告コメントに『入会希望』と名前をお願いします。(前回入会された方は名前変更無しであれば入会希望のみ明記でお願いします)
多分愛でる会はリクエスト最後になると思います。
来週の月曜日にお届けするのは、【伯父様のその後】です。では。
※宣伝です。
明日6/1に新作公開します。執筆完了しています。12日間連続投稿。朝6時に予約投稿してあります。6/12に完結しますので、一気読みも可能です。
ご興味のある方は宜しくお願いします。
タイトルは【婚約を解消したい、と貴方が言った。】です。




