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レード男爵家の天手古舞

お待たせしました。

500万ビュー突破記念の2本目です。

話の都合上、本作初めての第三者視点でお送りします。

ある日。レード男爵家にどう見てもレード家よりも格段に上品質の手触りが良さそうな燕尾服に身を包んだ年配の紳士が現れた。男爵位を授かってはいるものの、大金持ちとは程遠い、貧乏ギリギリのレード家から見れば、高位貴族の方だろうか……と思ってしまうのも仕方なかった。


とはいえ、着ている燕尾服は執事が着る物だ。という事は、どなたかの家のお使いである。高位貴族が先触れも出さずにいきなり訪れては来ない、と思い出しつつも、かと言ってこんな上品質の燕尾服を着た執事を雇えるような人物との関わりがなく、レード男爵は内心で首を傾げながら、応接室に案内して応対した。


「私は恐れ多くも国王陛下にお仕えしています……」


自己紹介の時点でレード男爵はひっくり返りそうになって、正直なところ名前は聞き逃していた。かと言ってもう一度お名前を、とも言えずに「使者様」で通すことにする。使者様曰く、レード男爵の三男・ドミトラルに陛下直々の手紙を預かったと聞いて、今度こそレード男爵は腰を抜かした。


ドミトラルは三男だが、奔放に育てたつもりはない。だが、国王陛下に知られるような偉業を成し遂げているわけでもない。というよりあの息子は一体何をやらかしたんだ……。という混乱は言葉にはならず、腰を抜かしてしまったレード男爵を案ずるように使者様が声をかけるだけでなく、人を呼んでしまった事で、ただでさえ大物(だと男爵家の者達は思っている)らしいお相手にソワソワしていたレード男爵家の者達は、呼ばれて駆けつけて腰を抜かす当主と、優しく声を掛けている客人とを交互に見ていた。


「失礼ながら、ドミトラル・レード様、で、ございましょうか」


客人がドミトラルに目を向ける。ドミトラルは曖昧に頷いた。客人は国王陛下にお仕えする執事だと名乗った上で、国王陛下からの手紙を預かった、と手紙をドミトラルに差し出す。そこにはかつての人生……1度目の人生で何度かもらった手紙と同じ筆跡で宛名が書かれていて。本物だ、とドミトラルは理解した。


「陛下から返事を受け取ってきて欲しいと命を受けておりまして」


という執事に促されて手紙を確認したドミトラル。


ーー画家ではなく何を目指すーー


という一文のみ。ドミトラルはそれで国王陛下も2度目の人生なのだ、と理解した。


「陛下は謁見についての日時等仰っておりましたか」


ドミトラルが問えば執事は驚いたように目を一瞬丸くして。それから日時を伝える。ドミトラルは了承し、兄であるデスタニアも共に伺うと伝えて欲しい、と頼んだ。執事がそれに頷いてレード家から去るのを見届けると、ようやくまともに動けるようになったレード男爵は息子に「どういうことだ」と説明を求めたが……


「陛下からの手紙には父上にも内密に、と書かれていました」


と、しれっと嘘をついた。デスタニアの事はどうなのだ、という問い掛けには陛下からある事を託されたので、と色々匂わせつつ誤魔化し。貧乏ギリギリとはいえ国と王家に、それなりに忠誠心のあるレード男爵はそれ以上追及するのを諦めた。


そうして。

その日を迎えるまでに男爵家で出来る限りの準備(主にデスタニアとドミトラルの服装である。謁見に辺り規定があるのでその規定に沿って新しく誂えた)をして、レード家次男及び三男は招待状片手に王城へと勇んで行った。それまでに男爵と夫人及び長男から、呉々もくれぐれも、なんらかの失態を犯してレード男爵家を没落させるような事は……とくどくど申し渡されてしまったのは、仕方ない事だろう。




(おもて)を上げよ」


謁見の間には、国王陛下とその護衛以外レード家の次男と三男のみがいる。護衛は陛下の乳兄弟であり、尤も陛下に厚い信頼を置かれている。故にどんな命にも諾と受け入れてきた。その信頼からこの場に居られる護衛は、陛下直々に見聞きした事は忘れるよう申し渡されていた。


「ドミトラル。久しいな」


「御意」


「此度は画家の道を選ばなかったか」


「選んで同じ事を繰り返した挙げ句、最愛を再び喪う愚を犯したくなかったのです」


「……で、あるか。そちの兄は何故?」


「私と同じ、なので」


「ふむ。……他言無用にせよ。我がタータント王家にはとある禁忌の魔法がある」


「では、その魔法を陛下が扱われた故にこのような仕儀に相成った、と?」


「聡いな。そうだ」


全てを話さなくても何について話しているか、互いに理解している国王とドミトラル。そして国王はドミトラルが気にしている事を告げた。


「ケイトリン・セイスルートは此度、ヴィジェストとの婚約を辞退した。ケイトリンも同じだが、ヴィジェストも同じでな。ヴィジェストは今度はケイトリンを大切にして妃に迎えるつもり、らしい」


「ケイトリンが同じならば、無駄でしょう」


「そなたが居るからか?」


「それは、ケイトリンに聞かなくては分かりませんが……。あんな最期をもう一度迎えたいとは思わないのでは?」


「……で、あろうな。ドミトラルよ。元凶に近付きその言動に注視する役目を与える、と言ったらどうだ?」


ここまで快活な受け答えをして来たドミトラルの口が止まった。


「それは……ロズベル嬢のこと、でしょうか」


「その通りだな」


ドミトラルは断る事を前提として、どう切り出そうか悩んでいた。だが「あの娘も、同じだろうな」と国王に言われてしまえば考えも変わる。


「かしこまりました」


その後、国王の命である事からロズベルを追うための国外への費用や何処へ行っても大丈夫なようにタータント王家から密かに通訳も派遣される事が決まった。ドミトラルはケイトリンと違い、通常の教育しか受けていないので言語の壁が有った。




「ただいま帰りました」


「デスタニア! ドミトラル! 何も、何も仕出かさなかったか⁉︎」


ずっと玄関先でやきもきしていたらしい、レード男爵夫妻と長兄から挨拶もされずにそんな事を言われる2人は、「何もしていません」と答えつつ、応接室に家族全員が揃うと、話せる範囲の事を口にした。


「つまり?」


「国王陛下直々に命を頂きました」


レード男爵はまたもや腰を抜かした。その顔色は土気色をしていて生きているのか心配になるほどだ。が、その隣では夫人……つまりドミトラルの母が意識を失いソファーに倒れ込む寸前。それを支えた長兄の顔色も真っ青で自分も倒れたい、と表情は語っていた。


「ほ、本当、なのか」


長兄から搾り出される声。ドミトラルが重々しく頷いた上に、その証明となる命令書を見せた途端に、長兄もとうとう意識を失い、母の頭に自分の頭を打ち付ける寸前で何とかデスタニアが支えた。とはいえ意識の無い成人2人をいくら男でも支えるのは無理があるので、そっと母はそのまま3人がけのソファーに横たえ、長兄は1人がけソファーにドミトラルと共に座らせた。父であるレード男爵も対になっている1人がけソファーで目を回してしまったので、3人が目を覚ますまで2人が甲斐甲斐しく世話をしたのは、当然と言えば当然か。


結局、国王陛下直々の命令書が効を奏し、ドミトラルが学園卒業後にデスタニアと2人で国外に出て行くことをギリギリまで反対していたレード男爵夫妻と長兄は、仕方なしに認めるしかなかった。


こうしてドミトラルが学園卒業後。

デスタニアと2人、隣国からシオン帝国へと拠点を移して旅をするのは、そう遠くない未来の話。

お読み頂きまして、ありがとうございました。


もう1本500万ビュー突破記念の話を書いたら、リクエスト記念話に移行したいと思ってます。引き続き、リクエスト記念話の受け付けはしております。お気軽にどうぞ。


次話は、ifストーリーで、ケイトリンとドミトラルが日本人だった頃に出会っていたら……を、お届けします。




尚、【やっと終わる。】のその後が知りたい!というコメントも頂きました。ありがとうございます。あの作品のその後が書けるかどうか分かりませんが、気になる箇所を修正したいのも有りますので時間が出来たら(今のところ本当に時間が取れるか不明です)その後を含め見直しします。

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