2度目。ーー2度目の人生の目標は、長生きです。・6
私がシオン帝国へ戻ってから、アリシャには自分の口できちんと報告しました。ニコニコニコニコしながらアリシャに祝福してもらい、それから文官科から領地経営科に変えて上学園を目指す話もしました。
「あら、そうなんですの?」
「お父様が婚約を機に以前の男爵領を私に任せたいって仰って。婚約者は私の婿になるのよ」
領地経営科に変更する話にアリシャが首を傾げる。それに説明すれば、益々首を傾げた。
「あら? タータント国は男性しか爵位を継げないし領主にもなれないのではなかった?」
「セイスルート家はタータント国に属するけれど、タータント王家に忠誠を誓っていないから、爵位も領主も女性が継げるのよ」
「成る程ね。でもそうよね。この帝国では爵位も領主も女性が継いでいるし、別に男性にこだわる必要は無いわよね。これからは女性も活躍したって良いと思うわ」
アリシャがちょっと興奮しながらそんな事を話す。
「では、アリシャがドナンテル殿下と協力して変えていってくれる?」
「まぁ⁉︎ 大いなる使命、ですわね!」
私がそう言えばアリシャがクスクス笑いながらそう返す。うん、アリシャがドナンテル殿下と結婚すれば隣国との関係はかなり良好になるわね。
「私も領地経営科に変更しますわ。きっと私の糧になるはずですもの」
一頻り笑い合った私達。ふとアリシャが真剣な顔でそう言って……本当に彼女がドナンテル殿下と結婚する日が待ち遠しいな、と思えた。
それから私はドミーと時折会いながら上学園を目指して勉強し、無事に上学園に合格。アリシャも同じく領地経営科で頑張る事になって、勉強は本当に大変だけど充実した日々を送る。その年の長期休暇にタータント国へ帰国すると、王太子であるイルヴィル殿下と婚約者であるシュレン様との婚姻式に出席した。前回の人生ではお2人の婚姻式は見られなくて心残りの一つだった。今回は婚姻式が早まってこうして出席してお2人を祝福出来る。
生きている。
ただそれだけで、こんな幸せな場面に立ち会える事に感謝出来る。前回の人生でヴィジェスト殿下に見向きされなかった私を案じて本当の妹のように時に厳しく時に優しく可愛がってくれたイルヴィル義兄様とシュレンお義姉様。どうかお幸せに。そしてタータント国をお願いします。ウチが今までと同様に牙を向かないで済むように。
セイスルート家が王家に忠誠を誓わない事でタータント王家を監視している意味もある。イルヴィル殿下ならばそれも理解している事だろう。その全てを呑み込んだ上でイルヴィル殿下なら玉座に座る覚悟があるはず。
国王は孤独な職業だ。いつ、どこで、誰に寝首を掻かれるか分からない。一つ選択を間違えれば国民の生死に関わる。周囲に弱さなど見せられない。そして……その死すら国の為に存在する。穏やかに死を迎える事が出来るかどうかは、その間際まで判らない。場合によっては他国と争いになったとして、負ければその首は勝利国のものになる。他国と争いにならずとも内乱が起きれば、やはりその首は勝利した者の手に落ちる。
国王とは、民のために生きて民のために死ぬ存在。
イルヴィル殿下はそれをきちんと理解していて、それ以上にシュレン様はそんなイルヴィル殿下を支えられる方だから、この国は当分大丈夫だと思う。前回では、そのお2人を側で支えるつもりでした。今回は……側で支えられない代わりに辺境の地を安定させる事を約束する事にします。こちらは私に任せておけば大丈夫、と信じてもらえるように。
お兄様を支えながらタータント国を守る。
それで、イルヴィル殿下が国王陛下の座に着いた時の治世を支える事で許してもらいましょう。付かず離れず時に王家を支えながら時に王家を監視して。
国と民を守るセイスルート家の使命を全うしようと思います。
そんな事を考えながら婚姻式を見届けた私の元に、そっとイルヴィル殿下付きの侍従さんがいらっしゃいました。
「セイスルート嬢。イルヴィル王太子殿下並びにシュレン王太子妃殿下がお会いしたい、とのことです。こちらへ」
……まさか。今回の人生ではシュレンお義姉様にお会い出来るなんて思っていませんでした。もちろん、いつか会えたら……とは思っていましたけどそれはあくまでも、いつかであって。多分無理だと心の何処かで思っていました。だから。こんな特別な日に会いたいと言ってもらえるなんて思っていなくて。
全然心の準備をしていなかった私は、どこか他人事のように思いながら侍従さんの後をついて行って……婚姻式が終了して一息をついているはずの控室へお邪魔しました。この後は前世で言う所の披露宴みたいなもので、夜会になります。その夜会に向けて少し休憩を取るはずなのに。控室には、イルヴィル王太子殿下と王太子妃となられたシュレンお義姉様がいらっしゃいました。
悩みに悩んだ末、やっぱりケイトリンに会わせてあげたかったんです。
お読み頂きましてありがとうございました。




