2度目。ーー2度目の人生の目標は、長生きです。・5
「ケイティ」
「なぁに?」
「デート、しようか」
「デート? したい!」
顔が熱い。でも嬉しい。ドミーとデート。もちろんシオン帝国でデートだってしたけど。でも1回だけじゃなくて。もっとたくさん、こうして2人で居たい。
「ケイティにプレゼントしたい。王都で有名な店でお茶もしたい。誰の目も気にせずにケイティは俺の婚約者だって言いたい。……長かったんだ」
「うん……」
最後の長かった、という一言にドミーの全てが詰まっていると分かった。
「だから。国王陛下に会ってくる」
「……え?」
「俺と兄さんが陛下の命を受けてシオン帝国に居たことは教えただろ?」
「うん」
「その時に褒美の一つとして1個だけ望みを叶えるって言ってたから。その時はケイティに会う事を望もうかなって思っていたけれど。会えたから。だからケイティと俺の婚約を直接報告してくるよ。だから陛下からの呼び出しじゃなくて、俺が陛下に謁見を申し込む。それを俺の望みにして、ケイティを幸せにするって話してくる。本当は陛下がケイティの幸せを願っていた事を俺は知ってるから」
私はただ頷いた。
ヴィジェスト殿下に見向きもされず。それでも婚約者として頑張っていた1度目の人生。最期にはヴィジェスト殿下を庇って死んだ私を、きっと陛下は悔やまれていたのだと、思う。
きっとだから。
陛下は時間を巻き戻す魔法なんて使ってしまった。その代償は、私には解らない。でも教えてもらう事も出来ないのだろう。
でも、その魔法を使っても良いと思えるくらい、私を気にかけて下さったなら。
ーー私が幸せだという事くらい、話しておくものだろう。
「陛下、安心して下さるかしら」
「きっと」
「そうね。そうだといいな。……ねぇドミー。あのね。今度ウチの家族について話がしたいから聞いてくれる?」
こんな言い方すれば何か有ると分かってしまう、と解っていても。話しておかなきゃならない事だから、私は予告しておく。今はまだ決心出来てないから。次には決心しておこう。
「分かった」
そんな会話をしながら私達はゆっくりとお庭デートを終えて。一泊したレード家の皆様は翌朝王都へと旅立たれた。……そうよね。ウチ、遠いものねぇ。ウチの馬車なら1日で王都まで行くけど、普通の馬車は……。うん、小旅行だったわね。あまりウチに来てもらうのも悪いから、私の方から出向く回数を増やそう。
それからは手紙のやり取りをしながら、夏期休暇は瞬く間に終わりを迎え。私はシオン帝国へ戻る準備をしていた。ドナンテル殿下とノクシオ殿下には婚約者が出来た報告をしておいたのだけど。何故か2人からの手紙には、ケイトリンの婿に相応しい相手か見定める。と書かれていたので、余計なお世話だから、要らないから、と断っておいた。ヴィジェスト殿下にも一応報告しておく。
ヴィジェスト殿下からは、幸せに、という言葉と、メーブ子爵令嬢と婚約する方向で調整している、と返信が来た。
あら。意外……だけど案外似合いかもしれない。爵位は子爵だけど、一点ものを売る経営手腕は見事な子爵だし、令嬢もきちんと広告塔の役割は担っていたし、私とナイゼルヌ侯爵令嬢及びエルネン伯爵令嬢とのやり取りを面白そうに見ていた彼女だから。
肝は座っているから動じないし、頭の回転も早そうだった。空気を読むのも長けていそうだし、ヴィジェスト殿下にとっては良いお相手ね。問題はメーブ子爵令嬢にとってメリットが有るのかって話だけど。商売人の家だからメリットが無い相手とは王族と言えど縁を結ばない気がするのよね。
ヴィジェスト殿下……。彼女か彼女の家に提示出来るメリットが有ると良いですね。無ければ向こうからお断りされそうだわ。まぁ上手くいくように願っておきましょうか。そんな事を思っているだけでなく、ツラツラと手紙に認めていて。読み返してみて、本音を炸裂させた手紙になってしまった事を反省する。……でもまぁ嘘じゃないし。良いかしら。よし、良い事にしておこう。私は書いた手紙を書き直す事なく、ヴィジェスト殿下へ出した。
そうして。私は再びシオン帝国へと戻った。




