2度目。ーー2度目の人生の目標は、長生きです。・4
「ねぇドミー」
「ん?」
ウチの庭はお父様やお兄様は全く興味が無いものの、お母様とお姉様のために庭師が整えてくれている。……そうか。庭師にとってはお姉様が病弱だった時の方がやる気が有ったのかもしれない。あの頃は、きっと毎日お姉様の部屋から庭を眺めていたのではないだろうか。もちろん、私の予想であって、そうとは限らないけど。
私の庭での思い出ってなんだろう?
そんな事を考えながらドミーに尋ねる。
「あなたの今の目標ってなに?」
「俺は……ケイティと生きて行く、かな。ケイティは?」
「私は……長生き、よ」
その言葉を口にしたとき、思い出した。小さな頃は先代の庭師・ローおじいちゃんのお手伝いをする、と水をあげるとか花壇を作るローおじいちゃんと一緒にレンガを運んだとか。
ーー未来が有るから新しい思い出が作れるけれど、未来が有るから昔の思い出を拾い上げられる。
やっぱり長生き、したいわ。
「それ、俺も思うよ。ケイティと長生きしよう。子どもは欲しいけど。それ以上に2人で生きたい。子どもは自然に任せてさ。生まれても生まれなくてもどちらでもいいから、とにかく2人で年寄りになるまで生きたい」
ドミーの強い言葉は、切なる響きが込められている。ドミーは日本人のトオルさんだった時、何歳で死んでしまったか忘れてしまったらしいけど、30歳になっていたのかどうか……だったらしい。1度目のドミトラルの人生は? って尋ねた時は、私が死んでからは狂っていた気がするから、覚えてない、と言い切った。多分、私が死んで数年も保たなかった、と。
だから。ドミーの願いは、私と一緒に生きて行く、なのだ、と。
1人の人生を私が背負っていくのって出来るのかしら? とも考えたけど。そうじゃなくて。
「2人の人生を2人で分かち合って生きて行けば良いんだ」
ってドミトラル様が太陽のような大きく暖かい笑顔で言ってくれたから。のんびり2人で生きていこう。
「取り敢えず。私、上学園で文官科から領地経営科に切り替えて専門的に勉強をしていくわ」
「そうだな。先ずはそこが目標か。じゃあ俺はあの店の雇われ店長を頑張って、金を貯める。領地の開拓なんかの金には到底及ばないだろうけど。開拓するにしても、新しい何かをするにしても、辺境の地の人達に強くなってもらうために訓練してもらうにしても、そういった金と2人で生きて行く金は別だから。当分2人で生きて行くための金を貯めておくよ」
ドミーの言葉には頷くしかない。確かに領地のためのお金は、領地と領民のために使うべきだ。もちろん、それは理想であって実際には最初のうちは、そのお金で私達2人が生きて行く分のお金を借りることになる、と考えていた。収支をきちんとして、やがて収入が見込めるようになれば、返金する事を考えていたけれど。
誰も雇わず、2人だけで生きて行くなら、ドミーのお金が有れば何とかなるかもしれない。それなら領地のためのお金は、そちらに全額使えるから、開拓なり新事業なり出来る。ウチだって別にケモノを狩るのと怪しい人物の出入りを取り締まるだけで生きているわけじゃない。領地を開拓して新しい農地を領民に提供したり、開拓時に伐採した樹木を王都に売ったり……としている。
「あ」
「ん?」
私はそれでハッとして声をあげれば、直ぐにドミーが聞き返してくれた。
「いえ、セイスルート家は、別に王家に忠誠を誓ってないから、他国と取り引きしても構わないのよね。って今更ながらに気付いて」
盲点だった、と言うべきか。それとも脳筋……いえ、違う。私は違うわ! 小さな頃からそれが普通だったから思い付かなかっただけよ!
「成る程。伐採した樹木を隣国に売るのか」
ドミーは直ぐに理解してくれた。
「もっと言えば、王都は職人がいるから本当に伐採した樹木をそのまま出しているけれど。隣国に出荷するのに木材加工というか、使い易いように均等の大きさにすれば良いわよね?」
「領地の雇用も増える。そうだな。あまり大人数を雇わずに様子を見ながら増やしていけばこちらも損害は少ない。……良いかもね」
庭でのんびりデートのはずが、いつの間にか領地経営の話になっていた。折角綺麗に百合が咲いているのに、ね。意識を庭に戻して2人で手を繋いでゆっくりと歩く。今度は無言だけど、居心地は良好だ。
時折ドミーを見上げれば、いつだって彼は私の視線に直ぐに気付いて柔らかく笑ってくれる。一生この笑顔が隣に有るというのなら、年を取ってもこの笑顔の隣に居られるのなら、きっと悪くない人生じゃないかな。
良い人生を送りたい。そんな我儘は言わない。年を取って老衰で死ぬ時に良い人生だったと思えるなら、それは良いけど、悪くない人生を先ずは送りたいし、ドミーが隣に居るのならそれが可能になるって信じてる。
悪くない人生を送るためにも、長生き、しなくちゃね。




