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成る程。では、お互い不干渉といきましょう。  作者: 夏月 海桜
2度目の人生を送る事の原因と意味と結果。
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2度目。ーー2度目の人生の目標は、長生きです。・1

王都から帰って来た私は、さすがに精神的に疲れました。ケイトリンとしての初恋にようやく決着がつきましたし、曖昧な立ち位置だった“第二王子殿下の筆頭婚約者候補者”の座も下ろしてきました。それに後悔は全く無いのは当然ですが、それと疲れというのは別なわけです。おまけに何故かまた家族全員が揃っているし。なんですか、暇なんですか。


「ただいま帰りました」


「お帰り。良く帰ったな」


お父様が視線を彷徨わせて仰る。……はい? えっ、お父様。何か変な物を口にしました? 拾い食いとかやめて下さいね?


良く帰ったな。

なんてお父様の口から出てくるとは思ってもみませんでした。えっ、何が有ったんですかね。余計な心労は要りませんよ。取り敢えず後で報告するのも面倒くさかったので、この場で報告しておきましょうか。


「ようやくヴィジェスト殿下の筆頭婚約者候補者の座から下りる事が許されました。これで解放されます。近いうちに王家から文書も届くと思われます。イルヴィル殿下も認めて下さったので間違いないでしょう。晴れて私は自由の身です。とはいえ、解放感には浸りたいので今夜は部屋で夕食を摂りますね」


淡々と普段と何ら変わらない報告をすれば、お父様が若干表情を揺らした。この顔はシオン帝国に出奔した兄がいた事を知った時と同じくらいの動揺ですね。私はシオン帝国から帰国して向こうの報告をした時のような動揺をしている父に内心で首を傾げました。


あ、ちなみに魔法学園卒園後、そのまま上学園を目指すと話せば許可をもらえました。ドミーには手紙で報告済みです。あ、そうだ。筆頭婚約者候補者の座から下りられた事をドミーに報告しておこう。


「ケイト。後悔……していないか?」


お父様が真剣な顔をしたので、私も真剣に返答します。


「いえ、全く。寧ろ早く筆頭婚約者候補者なんて重荷から解放されたかったので」


「そうか。それならいい」


「では、失礼します」


今回はお父様以外誰も何も言わないので好都合とばかりにさっさと自室へ向かいました。もちろん、デボラはずっと付き従ってくれていますからね。着替えてデボラのお茶を飲んで一段落しました。


「ようやく……」


「お嬢様?」


「ようやく終わったなぁって思って」


「左様でございますか」


「うん。ようやく終わったよ。デボラ」


「はい」


「ありがとう。あなたが私の専属侍女で良かったよ」


「光栄です。……が、お嬢様はもう少し大人しくして下さい。敵地へ乗り込む、毒は飲む。王子に喧嘩を売る、王子達を振る。等々ホント、気が休まる事も有りませんよ」


わぁお。お礼を言ったら怒涛の嫌味攻撃が来たわ。なんで?


「それは悪かったわ。でもその分だけデボラも強くなったし、多少の事は動じなくなったでしょう?」


「左様で、ございますね」


素直じゃない専属侍女の肯定を耳にしながら夕食までの間、ドミーへ報告を兼ねて手紙を書いた。明日にでもクルスにお願いしておこう。私はこの時全く予想もしていなかった。


手紙を託されたクルスがドミーに手紙を渡してドミーが目を通した直後、速攻で婚約申し込みの手紙を持たされるなんて。ちなみに正式な申し込みである以上、ドミーのお兄様であるレード男爵が書くものである。ドミーの実家・レード家は長男のご結婚と同時に爵位を譲られているそうな。お父様がお元気なので、暫くはのんびり隠居生活ではなく息子をサポートしている、とのことですが。


後程、この時の事についてカラリと笑ってドミーが教えてくれた事に寄りますと……


次男より三男が先に婚約したい相手を見つけた事に驚きだったのに(通常は上から婚約や婚姻は決まっていく)申し込む相手が家格が雲の上のような辺境伯家と知って、家中で大騒ぎになったらしい。まぁそうでしょうね。


しかも私が第二王子殿下の筆頭婚約者候補者だったのは貴族ならどの家も知っていたから、私とヴィジェスト殿下の婚約が秒読みだと思っていた前当主であるドミーのお父様は、息子の妄想というか暴走を止めようと説得しようとしたらしい。……ああ、うん。ごめんねドミー。そしてお父様。


それでドミーは私の手紙を見せて前当主であるお父様と現当主のお兄様を説得し、なんとか婚約申し込みの手紙を認めてもらって、男爵家の外で控えていたクルスに手紙を託したそうな。……ああ、クルスが帰って来た時に何とも言えない微妙な表情だったのは、きっとレード家の大騒ぎとやらが筒抜けだったから、でしょうね。


そんなわけでレード家からの正式な婚約申し込みを受け取ったお父様は、私にその話をしてくれた後、私の意思を確認してきた。


「どうする?」


「もちろん、承諾一択ですわ!」


「ケイトが幸せになれる相手、か」


「寧ろドミトラル様以外、私を幸せにしてくださる方なんておられません!」


私の断言にお父様が微かに口元を緩ませて、承諾の手紙を認めて、我が辺境伯家へお越し頂きたい、と丁寧に言葉を紡いで下さったのでした。

お読み頂きましてありがとうございました。

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