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成る程。では、お互い不干渉といきましょう。  作者: 夏月 海桜
2度目の人生を送る事の原因と意味と結果。
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2度目。ーー長く長く続いた関係の終わりと新たな始まり。・8

その後はヴィジェスト殿下と旅の話や魔法学園での授業などを話す。


「まだまだ聞いていたいが、兄上が君に会いたがっていてな。ここまでだ」


ヴィジェスト殿下が名残惜しそうにそう告げてきた。イルヴィル殿下が? 何の用でしょう?


「かしこまりました」


「兄上付きの侍従が迎えに……ああ来ているな。ジュストとライルと共にいる」


ヴィジェスト殿下が私をエスコートしてくれる。それが自然で驚いた。


「きっと失くした未来に有ったのかもしれませんね」


「……ああ。私は……俺は、自分から君が伸ばしてくれた手を振り払ってしまったのだから仕方ないな」


私がポツリと呟いた言葉にヴィジェスト殿下が泣きそうに応えた。それが、多分私とヴィジェスト殿下の1度目の人生での決着の最後を表す別離の言葉だったのかもしれない。イルヴィル殿下付きの侍従の元までエスコートしてくれたヴィジェスト殿下に心から感謝を込めて1度目の人生で詰め込まれた王子妃教育で得たカーテシーを捧げた。


「ありがとうございました」


「……ああ」


私はイルヴィル殿下付きの侍従さんに「案内をお願いします」と頭を下げる。侍従さんは軽く頷いて歩き出した。私も歩き出そうとして何か言いたそうなジュストとライル・カッタートに一言だけ告げた。


「ヴィジェスト殿下を宜しくお願いします」


2人は強く頷いて私を促してくれた。2人にもカーテシーをして……もう振り返らなかった。さて。少し先で私を待つ侍従さんの元へ早歩きをし、イルヴィル殿下が待つ所まで向かいます。どうやら向かう先は彼の執務室のようで。執務室前の護衛さんが扉を開けて私は中へ。


「よく来た」


「お久しぶりにございます、王太子殿下」


「名前で構わない」


「では、お久しぶりです、イルヴィル義兄様」


「ヴィジェストと話をすると聞いたから終えたらこちらに来るよう伝えておいたんだ」


「そうでしたか」


お茶を飲んでいるイルヴィル殿下をチラリと見ながら、さて、この方の呼び出し理由はなんだろう? と考える。……さっぱり思い浮かばないんだけど。


「愚弟は振られたか?」


「ああ、その話ですか。ええ。ようやく長く長く続いた関係性に決着がつきました。どうぞイルヴィル義兄様が思うご令嬢をご紹介下さいな」


「……何故そう思った?」


イルヴィル殿下が少し言葉に詰まって尋ねて来た事に目を瞬かせた。何故?


「何故って。イルヴィル義兄様は王太子殿下です。シュレン義姉様との関係は良好。というか、どうせシュレン義姉様がイルヴィル義兄様を癒やす以上にイルヴィル義兄様はシュレン義姉様を甘やかしまくっているのは分かり切ってます。お腹いっぱい。胸焼けする程に。そのシュレン義姉様と上手くやっていける令嬢をイルヴィル義兄様が候補にしていないわけがないでしょう?」


「お腹いっぱい……胸焼け……」


私の言葉のそこに引っかかる必要は無いでしょうに。


「どうせヴィジェスト殿下の婚約者候補の中から10人くらいまでには絞っているのでしょうに」


「惜しい。7人まで候補は絞った」


「でしたらその7人を見合いさせて頂いて大丈夫ですよ」


「知りたいか?」


「いえ、全く。興味ないので」


「愚弟がちょっぴり哀れに思えてきた……」


「まぁ麗しいご兄弟愛だことで。その弟思いを生かして素晴らしいお相手を見つけて下さいな」


「つくづく、愚弟は愚かだな。ケイトを手放すなんて」


イルヴィル殿下が嘆息するのでクスクスと笑ってから、ゆっくりと頭を下げた。


「……なんだ?」


「イルヴィル義兄様は、腹黒どころか全身真っ黒で意地悪で策士ですが」


「遠慮というものはないのか」


「有りません。事実です。でも。前回の人生の時から自分の懐に入った者に対しては、お優しいのは相変わらずです。私に利用価値が有るのも確かでしょう。辺境伯の娘ですからね。恩を売っておけば、イルヴィル義兄様の治世でも辺境領が反旗を翻す事は無い、という価値がある。でも、それ以上に……単に私が心配だったのでしょう? ヴィジェスト殿下を振った形になった私が気にしていないか、落ち込んでいないか。どうせ後でヴィジェスト殿下を慰めるわけだし、先に私を心配しよう、と考えたのでしょうから。気にしなくて良いですよ、という意味の礼です」


私はニコリと笑いイルヴィル殿下を見る。イルヴィル殿下は、苦笑していた。


「君が義妹だったなら本当に良かったよ」


「あら、ありがとうございます、イルヴィル義兄様。口先だけの言葉でも受け取っておきますわ」


澄まして応えた私には、「本音なんだが」というイルヴィル殿下の呟きは聞こえなかった。

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