2度目。ーー長く長く続いた関係の終わりと新たな始まり。・6
大変遅くなりました。
ヴィジェスト殿下からの返事が来て。私は何色のドレスを着るか悩んだ。ドミーの色とか、オレンジとか、グリーンとか。その日の前日まで悩みに悩んで……ふと気付いた。ヴィジェスト殿下は、この日を指定してきた。そうか、この日なのか、と。
「お嬢様? ドレスは決まりました?」
デボラが不思議そうに、散々悩んでいたはずの私が急に悩むのをやめたのを見て口を出した。私はゆっくりとデボラを振り返り強く頷く。
「ええ」
「……お嬢様?」
私が急に違う事を考え出した事に気付いたのか、首を傾げてくる。
「あのね。この日……明日、ね。明日は1度目の人生でようやくヴィジェスト殿下にお目通りが叶った日、なの」
「それは……初めて会って、そして恋人が居る、と告げられたという……」
「ええ。その日、よ。きっとヴィジェスト殿下がこの日を指定したのは、私とヴィジェスト殿下が初めて会った日だったから。早く決着をつける事で頭がいっぱいで。今日まで気付かなかった自分が恥ずかしいけど。この日なら、ドレスの色は青しかないわ」
それはヴィジェスト殿下の色。
きっと彼はそれを待っている。
私が15歳。彼が13歳の、この日ーー
婚約してからお目通りが叶うまで長く長く待たされた。ようやくヴィジェスト殿下に初めて会えると喜び勇んだ私は、彼の目の色に合わせて青いドレスを着ていた。そして……一目惚れした直後に振られるという最速の結果を突き付けられた。
その日を、2度目の人生で迎える事になるなんて。
でも。良いかもしれない。だって明日は私達の関係に決着を付ける日だもの。ヴィジェスト殿下もきっとそう思っている。だったら私が彼と向き合うのは、彼の色しかない。
「青いドレス、有りましたね」
「ええ。1度目の人生で着たドレスではないけれど。中々着る機会のなかったドレスはきっと明日のためだったのかもしれないわね」
何故、青いドレスが有るのか。あのドレスをオーダーしたのは私だけど。自分でも自分が不思議だった。だからそれは。きっと明日の事を無意識に考えていたのかもしれない。出来上がった青いドレスを見て、着る機会なんて無いのにどうしてこの色を、と疑問に思っていた。
でも答えが出た。きっとこの日のために。
デボラが持って来た青いドレスを見た瞬間、やはりこのドレスだったのだ、と確信した。
「このドレス……。着られる時期を知っていたかのように衣装部屋で輝いていましたよ」
デボラがやや呆然とした口調でドレスを差し出してくる。私が姿見にドレスを当ててみると、途端にドレスが輝いてみえた。そうね、明日のために、あなたは準備されて待っていたのね。私に着られるために。
姿見に映されたドレスが主張をしている。私はそう感じていた。
「明日はよろしくね、相棒」
呟いて私はデボラにこのドレスに合う小物と装飾品を見繕うように頼んだ。そうして私はその日を迎えた。
前回の人生ではずっと王城暮らしだった。だからもっと早くに簡単にヴィジェスト殿下にお目通りかなったかもしれない、とか色々考えたけれど。結局戻る事の出来ない過去。それを振り払うように、馬車に乗り込んで王城を目指した。
デボラといつものように話しながらやがて王城に到着する。待っていたのは久しぶりに見るジュストと……ライル・カッタートだった。
「カッタート様、ジュスト、お久しぶりですね」
挨拶をすれば2人も挨拶をしてくれて、そして中庭へと案内された。もちろんそこには、タータント国の第二王子。ヴィジェスト・バウ・タータント殿下がいた。
あの日のように晴れた空。
あの日をなぞるような行動。
今日、私とヴィジェスト殿下の長く長く続いた関係が終わる。
「はじめまして。ケイトリン・セイスルートと申します。殿下、宜しくお願いします」
「ヴィジェスト・バウ・タータントだ。こちらこそ宜しく頼む」
ああ……あの日、こんなに穏やかな関係を私達が紡げていたら。その後きっと……私達は結婚出来たのかしら。いいえ。もう交わる事のない失った未来。どれだけ拾い上げても欠片だけで全体も見えない。壊れた未来を、無くした未来を数えても所詮夢のまた夢。
私達が新たな関係を紡げるように、さあ過去を終わらせましょう。
お読み頂きましてありがとうございました。




