2度目。ーー長く長く続いた関係の終わりと新たな始まり。・3
そんなこんなで夏期休暇に突入した。基本的に寮生活の学生達なので夏期休暇に実家に帰る者も居れば残る者も居る。アリシャはボターナ国に帰国するそうだ。で、ドナンテル殿下に嫁ぐ身として彼の国の歴史やらマナーやらを彼の国出身の家庭教師に教わるとか言ってた。アリシャなら大丈夫だろう。……そういえば、ドナンテル殿下とノクシオ殿下から手紙は時々くるけど、ノクシオ殿下の婚約者の方ってどんな方かしら。ま、そのうち会えるかしらね。
そんな事を考えながら荷物をまとめて夏期休暇に突入して2日目。午前中にアリシャを見送った私は、午後にはタータント国へ帰国するため、出立した。ドミトラル様とは途中で合流する。まだ婚約者ではないので、クルス達の馬車に乗って行く事まで話し合っていて。なんというか、ちょっと照れ臭い気がする。だって一緒に旅行するわけで(帰国だし馬車は違うし。というデボラの突っ込みは聞かない)一緒の宿に泊まったり一緒に休憩したり同じ景色を観られるわけでしょ⁉︎(観光じゃないですし宿は同じでも部屋は別の只の同行人。という突っ込みも無視だ、無視)
「す、好きな人、と、旅行……」
うふふ、と笑っていると相向かいに座っているデボラがビシッと忠告してくる。
「お嬢様、顔がだらしないです。締まりがないです。不気味です」
「ひどい……」
「事実です。嬉しいのは分かりますけど、お嬢様にはしっかりして頂かないと。アレジとガリアの話をお聞きになったでしょう?」
その忠告に、私もハッとする。それは一足先に帰国したジュストとタニアさんとロズベルさん母娘の護衛を頼んだ2人からの報告だった。一応帰国は出来たわけだが、無事かと言えば……ということだ。
護衛についていた2人によれば、明日にでもタータント国の国境が見えるというところでジュスト達は襲われた。正確に言えばジュストとデスタニアさんはオマケで狙いはロズベルさん母娘とロズベルさんに罰を与える魔術師の3人だったらしい。ジュスト達の方は彼女達を助けようとしたから、狙われたとの事だった。人数は然程多くは無かったけれど、どうやら魔術師がいた事がバレていたらしくて、襲撃犯は「魔術師には気を付けろ」と怒鳴ったとか。
それを聞いた私は、魔術師が同行している事を知る立場の者が背後に居る事を理解した。それからどうなったかと言えば。人数は多くないためアレジとガリアが手を出す事なく、あっさりと捕らえられたわけだが、捕らえられた事が判った時には全員が死んだ、とアレジとガリアが言った。毒を歯に仕込んでいたのだろう、との見解だった。つまり、背後に居た人間を知る手掛かりが消えた、ということ。
推測は出来てもあくまでも推測で証拠も何もないので、私も追及出来ない。アレジとガリアも私の命が最優先だから自害した襲撃犯達はその場に打ち捨てていたらしい。その後、警戒心強めでタータント国の国境に入った事を見届けた2人は、お父様に私の手紙と襲撃の件を託して私の元に帰ってきた。その間に自害した襲撃犯の遺体から手掛かりを見つけようと考えたらしい。でも、既に全ての遺体が消えていた、と。つまり黒幕が手を回したのだろう。
結局黒幕は分からずじまい。それ故にデボラも気が立っていた。
「魔術師狙い、だったのかしら、ね」
「さぁ。背後に居た人間を炙り出せない以上は推測ですからね」
「そうね。……クルス達と一緒ならドミーも大丈夫ね」
相手の意図が見えない以上、私達も安全だとは言い切れない。確かにデボラに言われなくても気を抜いている場合では無かった。そんな事を話しながら今夜泊まる宿に私達は到着した。夕食はドミーを含めた面々で楽しく摂れた。その後ガリアが周囲を警戒しながら出て行ったのだが、少しすると戻ってきた。ちょっと早くない? と思ったらその手にはお父様の手紙があった。
「当主様の手紙を所持した仲間が居まして、周囲は大丈夫とのことでした」
ガリアの報告に礼を述べて労うと共にお父様の手紙をもらって目を通した。どうやらロズベルさん母娘は無事に目的の地……ロズベルさんのお父様が領主を務める領地……へ辿り着いた、とのことだった。そして直ぐに同行した魔術師様が罰を下した、と。
魔法については良く分からないお父様は、魔術師様に直球で尋ねたらしい。声をかけられた魔術師様は驚いたでしょうね。伯父様と似ているからね。で。聞いたところによると……と添書きされて詳細が書かれてあった。曰く。
ロズベルさんに施された魔法は、領地を分ける為に植えられている大木が結界みたいな役割を果たす魔法らしくて。要するにグルリと囲まれた大木で、物理的にロズベルさんを閉じ込めた、とのこと。これによりロズベルさんは子爵領から出られなくなった、と。
そういう魔法だ、と書かれてあった。そうか。ロズベルさんは一生領地から出られないのね。




