2度目。ーー長く長く続いた関係の終わりと新たな始まり。・2
お読み頂きありがとうございます。
少々長めです。
「それにしても。婚約者が居て仲が良好なのに不毛な恋ね」
2人に聞こえないようにアリシャに囁けば、アリシャは鼻を鳴らした。……ええとボターナの王女がそれで良いのでしょうか……
「なんでもね、ベタルターは図書室で読もうと思った本を取り出そうとしたところ、彼女も同じ動作をしたとかで、手が重なったんですって。それでドキッとしたそうよ」
あー。前世でよく主人公の女の子とその片想いの相手の男の子が恋に落ちるシーンで読みましたね。本当にそれを地でやる人がいるんですか。でも……。変ね。
「ふぅん……」
「あら、ケイト。なんか不服そうな顔ね」
「うん? うん、まぁね。で、サヴィは?」
アリシャの質問に私は曖昧に返事をする。アリシャ……あなた王女なのにそんなに顔に出してはいけないと思うのよ。いつもの微笑みはどこに?
「サヴィは、帰ろうとしたところで、前を良く見ていなかったという彼女と急いでいたサヴィとが教室の扉でぶつかったそうよ。それで急いでいてごめんなさい、怪我は有りませんか? と言われて、自分よりも他人を気遣える優しさに……ってやつよ」
またもや鼻を鳴らすアリシャ。……ボターナ国の国王陛下以下皆様には見せられない姿ねぇ……。それにしても、なんだかこれまた前世の恋愛モノみたいなんだけど。
「ねぇ、サヴィとベタルター。ちょっと話をしましょうか」
あまりにもベッタベタな展開が連続なので、私は2人を教室まで連れ戻す。アリシャもついてきた。
「ねぇ、アリシャ。もしかして気付いてた?」
さすがに成績が落ち込んでる2人は大人しく教室に戻ったので、ついでに聞いてみた。
「もちろんよ」
「だよね」
「ケイトもアリシャも何をコソコソと」
ベタルターが不審そうな顔をして尋ねてくる。さてどう言おうかと思ったら、アリシャがズバッと言ってしまった。
「2人して古典的な手腕に引っかかって成績を落とすなんて愚かね。って鼻で笑ってあげているのよ」
うん、アリシャ。ズバッと言い過ぎかな。サヴィがカッとなって「古典的な手腕ってなんだよ!」と怒鳴ってる。
「はいはい、ちょっと落ち着こうか。……ねぇアリシャ。ちょっとお願いがあるんだけど」
「あら、なぁに?」
私はコソッとアリシャに耳打ちをする。アリシャが目を丸くしてから教室を出て行った。
「アリシャに何を……」
ベタルターがギロっと私を睨んでくるので「ちょっとね。戻って来たら話すわ」と2人に伝える。程なくしてアリシャが戻って来て、嘆息した後で言い放った。
「ケイトの予想通りよ。私も気付かなかったのに良く分かったわね」
「アリシャだって古典的な方法だって解っていたじゃない?」
「そこまでしか解っていなかったわ」
「アリシャが教えてくれたのよ。古典的な方法で気を惹いた。それなのに婚約者とは仲が良好。じゃあ……ってこと」
「ああ……そうね。そう考えれば私も解ったわね」
「さっきから2人だけで何を納得しているんだよ!」
成績が下がった事に加えて、私とアリシャだけで理解して話をしている事がイライラしたのだろう。サヴィが声を荒げ、ベタルターは無言で睨み付けてくる。ベタルターは観察力が有るんだし、他人事だったら気付いたはずなんだけど。やっぱり恋をして周りが見えていないのかしらね。
「もう! 説明するから落ち着いて!」
つられて怒る私もまだまだ未熟だ。でも、友達が古典的な方法に引っかかって成績を下げさせられたのは、ちょっと腹立たしいかな。彼女に何かするつもりは無いけど、この2人の目は覚まさせないと。
「ねぇ、2人とも。良く聞いてね。先ずはベタルター。あなたの片想いの相手と図書室で読みたい本が同じだった……というのをアリシャから聞いたんだけど」
「そうなんだ! あの子とは本の趣味が一緒らしくて……」
私が話し出すと、遮るように食い気味で話し出したからちょっと落ち着け、と両手をベタルターの顔に突き出す。それだけでベタルターは黙った。うん、偉い偉い。
「ねぇ良く考えてみて? 例えばね。私とベタルターが同時に同じ本を探して手にしようとするのって、どれだけ可能性が高いかしら」
「えっ。ケイトとは本の趣味が違うし、低いだろう」
「うん。でも同じ本を手に取ろうとするタイミングが合うと思う?」
「いや。そもそも同じ書棚にいるだけで相手を意識して気を遣うし、相手の行動が気になる。同じ書棚を見ていたら相手が見終わるまで譲るし……って、あれ?」
自分で話していて違和感に気付いたらしい。うん、他の人が同じ書棚を見ていたら気になって仕方ないよね。後でにしよう、とか、相手はどの本を手に取ろうとするだろう、とか、横目で確認したくなるよね。
「もしかして、彼女はタイミングを見ていた?」
「そうだと思うわ。ベタルターが取ろうとした瞬間に同じ本を探していたように手を重ねれば?」
ベタルターは愕然とした顔になった。その後顔が真っ赤になる。羞恥か怒りか。それは分からないけれど。まぁ反省したいみたいだし、ベタルターはこの辺にしておこう。そしてサヴィを見れば、顔色が青くて天を仰いでいる。あら、気付いたかしら。
「もしかして、扉の所でぶつかったのって」
「扉が閉まっていたなら気付き難いけど、それでも急いでいたなら走ってくるとか早足とかの足音が聞こえそうじゃない?」
「確かに……。しかも扉は開けた所だったから良く聞こえたと思う」
サヴィが今度は項垂れた。つまりまぁ、急いでいたフリをしたってやつね。
「それにしても、あの子はなんでこんな真似を」
ベタルターがちょっと復活したみたいで、その疑問に気付いたらしい。サヴィもハッとしている。
「それをアリシャに確かめてもらったのよ」
アリシャをチラリと見れば、心得たように頷いて口を開いた。
「彼女の婚約者。いつも、あなた達より順位が下だったでしょう? だけど今回の成績順位はあなた達より上。彼女の2つ下の順位だったわ」
「つまり」
サヴィが呆然と呟くので私が続けた。
「あなた達が彼女に恋すれば、成績が落ちるから、婚約者の彼の成績が伸びる、ね、尤もその可能性がある、かもしれない程度のものだったはずよ。でも結果は彼女が考えた通りになった」
「要するに、自分達が恋に浮かれて成績を落としたのは自分達の所為、と」
ベタルターはガッカリしながらも、彼女の悪意というか悪戯というか微妙なラインに引っかかってしまった事を悔いた。
「まぁ彼女の真意は知らないわ。あくまでも客観的に見て、そうかなぁって私とアリシャは考えただけ。気になるなら彼女に尋ねたら?」
私が2人に言えば、2人は「いや、いい」と力なく首を振った。私達の考えが合っていても違っていても、もう彼らにとっては関係ないのだろう。自分達の責任で、次は挽回する、と意気込んでいた。……うん、ちょっとカナシイ結末にしちゃって悪かったわね。でもきっと良い人が現れるわよ。
まぁ、こういう事もあるよね。ってことで。名前も出てないこの少女をどう判断するかは皆様にお任せします。




