2度目。ーー恋する私と大人の貴方。・5
「ん……」
視界がボヤける。なんで?
「お嬢様っ! 気付かれましたか⁉︎」
「でぼら?」
「はい、私ですよ、お嬢様! 舌ったらずで私を呼ぶなんて……まだ意識が回復していないんですか⁉︎」
いしきが……かいふくしてない?
何を言われているのかさっぱり分からなくて首を捻る。ゆっくりと両目を大きく開いて……デボラが私を心配そうに覗き込んでいた。心配? 何故?
ゆっくりと身体を起こして……記憶を探る。えっと……確か、今日は私、ドミトラル様とデートで……デート……デート⁉︎
「えっ? あれ? ドミトラル様は⁉︎」
「あ、気付かれましたね? 良かったぁ。あのお嬢様を泣かせたゴミ……もとい男爵令息は、ですね」
デボラ。今、聞き間違いじゃなければ、ドミトラル様のことをゴミって言いかけなかった? えっ? 聞き間違いだよね⁉︎
「う、うん」
なんでだろう。聞き間違いだと思いたいのにデボラの圧が聞き間違いじゃない、と言っている気がする。
「男爵令息は、お嬢様が倒れて気を失った、と魔法学園の門まで抱き抱えていらっしゃいましたよ」
「だ、抱き抱えて⁉︎」
「冗談です。クルスがお嬢様の護衛としてずっと付かず離れずに居ましたから、血相を変えた男爵令息様を見て即座に私を呼びました」
デボラ。真面目な顔で言われると信じるわよ。酷い冗談ね。そしてクルスは護衛していてくれたのね。その上デボラは慌てて来てくれたのね。
「ありがとう、デボラ」
「いいえ。お嬢様のためですから」
「で、ここは?」
「男爵令息様がやっているお店の奥です」
成る程。あの店内の奥ね。そこへ私は寝かされていた、と。
「それでお嬢様? 何が有ったんです?」
デボラに改めて問われて私は、直前の記憶を思い出して頬が熱くなった。そんな私を見てデボラが何かを察したのか、瞬時に怒りの形相になる。
「あの男っ! よもやお嬢様に不埒な真似をっ」
「ふ、不埒って……ほ、頬にキスされただけよっ」
デボラが鬼のような形相になったので慌てて真実を言えば、更に悪化した。なんで⁉︎
「お嬢様、それは不埒な真似です! 婚約者でもない殿方との距離では有りません!」
それは確かにそうだけど。紳士と淑女の距離感では無いけど。
「それにお嬢様はまだ15歳! いいですか! たとえお嬢様が精神年齢的には50前後だとしても!」
「うわぁん、デボラ、そこは言わないでぇ!」
それは言われたくない! 前世プラス前回プラス現在なのに、恋愛経験皆無なの、バレるからぁっ!
「精神年齢的にはかなりの年でも、現在のお嬢様は15歳。婚約者でもない殿方に頬とはいえキスをされるなど、淑女に対して不届きです! 大体、まだまだ早過ぎます!」
「えっ、そうなの⁉︎」
15歳で頬にキスは早過ぎるの⁉︎ いや、よく知らないけど、頬くらいなら早くはないんじゃないの⁉︎
「左様です。手を繋ぐまでなら認められます」
知らなかった! 確かに女性には貞淑や慎みを求める世界だもんね。そういうものなのかもしれない。前回の時にも聞かなかったルールよね!
「とにかく! お嬢様はそのような不埒な真似をされたから倒れた、と。意識を失う程のショックだった、と。正式に抗議させて頂きましょう」
ええと……なんだろう。確かに倒れたし意識を失ったわけだけど、なんだかニュアンスが違うように聞こえるわ。おかしいわね?
「お、お手柔らかに、ね。デボラ」
憤慨しているデボラをあまり上手く宥められなかった私は、そう言うしかなかった。まぁ色々と限界ではあったからね、私も。あんな風に翻弄されるなんて思わないじゃない。だから、ちょっとだけちょーっとだけ、ドミーには女の子を揶揄うと痛い目に遭うよ。と教えておいてもらいましょう。
作者注・15歳だからといって、手を繋ぐまでという事は有りません。頬や額にキスくらいはオッケー。
婚約者でもない殿方との距離感云々は、デボラの本音だし、世間的に見ても間違っていない。




