2度目。ーー恋する私と大人の貴方。・4
いつもお読みいただきましてありがとうございます。
「トラル様」
「ん?」
「な、慣れています、ね。絶対、彼女が1人や2人じゃないでしょ⁉︎」
恥ずかしい。恥ずかしいけれど、羞恥心に流される事なく私は尋ねます。だって、さっきのさっきまで甘い雰囲気なんて何も無かったのに、急にこんな空気にしてくるなんて……絶対に手慣れていなくちゃ無理だと思う。
自分がちょっと涙目なのは解ってる。でも仕方ないじゃないっ。私、こういった経験が少ないんだもの! 前世は女子高生だし。か、カレシは居た……けどっ、私、オタクだよ⁉︎ オタクの私をカレシには必死に隠してた……と思う、確か。記憶がうろ覚えだけど。そしてこんなに甘い雰囲気なんて無かった、と思う。き……キスだってしたことなかったんじゃないかなっ!
前回の人生は経験皆無でしたよっ。だってヴィジェスト殿下が甘い雰囲気を向けるのも、優しい微笑みを向けるのも、私では無かったんだからっ。こんな……こんな空気はドミトラル様が初めてなんだってば! そ、その空気に呑まれてしまっても良いのかもしれない、けど。
……どうしたらいいのか分からないし。
トラルが経験豊富なら経験皆無な私じゃきっと満足させてあげられない。
こんな糖度たっぷりな空気を簡単に受け入れられる程、私は恋愛そのものを楽しんだ事が無いし。
きっと、好きって気持ちだけじゃ、彼の隣に立つのは難しいのも本当は解ってる。年齢とか家柄とかそういった事だけじゃなくて。素直じゃないし、可愛げもない。背だって高いし、女の子らしい柔らかい身体付きでもない。他のご令嬢のように、流行のドレスとかお菓子とか装飾品とか観劇とかなんて、2度目の人生が始まってからは全く知らないし、なんだったら1度目の人生よりも腕っ節が強くなっているし。
こんな良く言えば戦う令嬢とは表現出来るけど。悪く言えばガサツで男勝りな私が、優美で繊細で頭も切れるドミトラル様に似合うはずなんて無い、と思う。こんな……甘い雰囲気に呑まれられず、テンパって結局……聞いたって虚しい事を口に出して。そのくせ、私以外の女性の話なんて聞きたくない、と耳を塞ぎたくなる。
ーーきっと、今の私は愚かで素直じゃなくてドミーを困らせているお子さまだ。
「うーん。そうだね、確かに俺は前回の人生で1人とは言わずお付き合いしていたけど。今回はあの日、記憶を取り戻してからはケイティ一筋だから。……それで許して?」
やっぱり……ドミトラル様は、彼女がたくさんいたんだ。チクリと胸が痛む。そんな人達より私が優れているところなんて……きっとない。ドミトラル様に許して? なんて言われた。違う。私が子どもなばかりに、そう言わせてしまった。
きっと大人の女性だったら、この甘い雰囲気を簡単に受け入れるし、大人の余裕で側に居るだろうし、許してって言われたら許せてしまうんだろう。でも、それでも。
「ドミトラル様」
「ん?」
「好き、です」
結局はこの気持ちが全てで。
「俺も好きだよ」
でも今の私は中途半端で。立場もまだ有るしお父様の跡目を継げるかどうかも分からないし。……ああ、私ってどこまでも中途半端。どうしたらこの人の隣に立つのに相応しいと思えるのかしら。それでも醜い私は、彼と離れたくないと心が軋む。
「私……私、自分の立場がきちんと確立してないのに」
「うん」
「貴方の事が大好きで一緒に居たいって思ってて、でも今の私はそんなの出来なくて。卑怯だけど、私の様々な事が決着付くまで待っていてもらえますか?」
「……待たない」
私の決意がこもった告白は、アッサリと否定されてしまう。私はただ呆然とした。
「えっ……」
「もう、待たない。前回、ケイティを待ってたら失った。だから今回は待たない。ケイティにつけなきゃならない決着が有るなら、俺は側に居る。待っていてまた失うなんてもう耐えられないからな。だからなんでもしたいなって思う事をすれば良い。俺は君と再会した。再会したあの日からずっと、ケイティがやりたい事を邪魔する気はないけれど、側から離れる気もない。俺も一緒に決着をつけるよ」
ーー本当に私は自分の事しか考えていない子どもだ。あれだけ置いていく恐怖だけでなく、置いていかれる恐怖が有ると知ったくせに、またドミーの気持ちを思いやれなかった。何、やってるんだろう私。
「夏期……」
「ん?」
「夏期休暇、タータント国へ帰国して、ヴィジェスト殿下と決着を付けます。……側にいてくれる?」
「ああ、もちろん!」
私は今度は置いていかない事を表すように、ドミーを誘う。破顔して了承した彼は、再会したあの日のように、私を軽々と抱き上げてクルリと一回転して。そっと私を下ろしたら頬に軽く口付けてきた。
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