2度目。ーー帰国命令が出た皆様と見送る私。・7
ドミー無意識に本気モード炸裂回。
「国王陛下から直々に労いの手紙を頂いたよ」
私の具合が悪くない。という事に安心して、ドミーが改めて最初から話す、と言って切り出した。
「陛下から……」
「うん。貴族とはいえ男爵位の三男が、余の命とはいえ他国にて動くのは大変だっただろう……って内容と。前回は俺が陛下お抱えの画家だったから俺のことはそれなりに理解出来ているつもりだが、今回は余との関わりは皆無である事から何も知らぬ者達から見れば、其方の立場は不思議というよりおかしい事この上ないだろう、とかも書かれてあった」
さすが陛下です。相手の立場を思いやれる手紙です。
「密命だから極力他人には知られないようにしていたけれど、それでも最低限の人は知っているわけだから、その方達からすれば確かに俺は陛下とどんな関係が? って思われても仕方ないよなって手紙を読んでいて思ったよ。それでも陛下の役に立ててよかった、とも思う。前回の人生は本当に目をかけてもらっていたから。それなのに恩を仇で返すように死んだから」
ドミーは俯いて溜め息をついた。……多分、恩を仇で返した気持ちになってしまっているから。その原因は……私。
「ごめん……なさい」
私が謝るのは違う。というか只の自己満足にしかならない。彼の気持ちを軽くするどころか益々重くしてしまう。それでも。
ーー頭では理解しているくせに感情は止まってくれなくて。私は彼に謝ってしまっていた。
「ケイティが謝る事なんて、無いよ」
ああやっぱり気を遣わせてしまった。こんな事を言わせてしまった。私は……どうしようもなく子どもだ。
「うん」
これ以上謝るのもましてや泣くのも違う。彼の感情は彼のもので、私が謝るのも泣くのも今じゃ、ない。俯いていた彼が顔を上げたから。私は真っ直ぐ彼を見た。辛そうな笑顔を私は覚えておく必要がある。彼の隣に居ると決めたのだから。
ドミーの周囲に大人の女性が居る事がなんだって言うのだろう。彼がどんな人と付き合って来ようと何人の方と恋人であったとしても。今の彼は私に向いてくれている。私はそれを忘れてはいけない。
周囲が私じゃ彼に似合わない。
と言っても
選んでくれたのは彼だから。
私が彼に似合う存在だと認める努力をしなくちゃいけない。
身分的には彼の方が私に合わないと思われる。でも彼の外見や年齢を見れば私の方が不釣り合い。これで彼が今は画家になっていないけれど、何かで手腕を発揮でもしてしまえば、男爵位の三男なんて身分をカバーして余りある。彼は男爵位を継げないけれど騎士……は無理でも文官で身を立てるくらいは出来るだろうし。爵位持ちのご令嬢の婿なんて簡単に迎えられてしまうだろうから。
私はいつまでも子どもじゃいられない。
「陛下からね。お察しの通り帰国しても良いって許可が出ているんだけど」
「許可? 命令じゃなくて?」
私はその言い回しに首を捻る。ドミーがそれを聞いて「仕方ない子だね」と色気(絶対色気よ!)を含んだ声音で私の頬をスルリと撫でた。……その色気を正面から浴びた私は、絶対顔が真っ赤だろうし涙目になっている自覚はある。このヒト無自覚でフェロモン撒き散らしてきたぁあああ。
「可愛いね、ケイティ。でも俺の話を覚えていなかったね? そんな子はお仕置きが必要かな?」
フェロモン撒き散らしながらなんか怖い事言ってるぅううう!
「は、話?」
「俺は別に陛下の命だけで国外に出たわけじゃないよ?」
ふふっと妖しく笑うドミーの色気に心臓か止まりそうになりながら頭を回転させて記憶を引っ張り出す。……あ。
「し、将来をどうするか考えるために、タニアさんと国外に出るって……話?」
「覚えていたね。いいこ」
私が息を忘れかけながら答えれば正解、とでも言うようにニコリと笑って頭を撫でられる。その笑顔には先程までの色気とか妖しさとかが綺麗に隠されていた。でも私は知ってしまった。ドミーはフェロモン魔人だということを。無自覚であんなの撒き散らしていたら、絶対女性がフラフラ近づいて来るしっ。女性だけじゃなくて男性だってフラフラ近づいて来るかもしれないっ。
初めてドミーを好きになってちょっとだけ後悔した。こんなフェロモン魔人、私みたいな小娘じゃ手綱を取れる自信なんか無い!
「ドミー」
「ドミーじゃなくて」
うぐっ。男性なのに小首傾げて見つめて来るなんてあざとい真似が似合うなんてっ! 私の方が女子力低いっ!
「トラル様」
「うん?」
今度は正解だったみたいで、返事をしてくれる。
「その、他の女性に、あの、色気を振り撒かないで下さいね⁉︎」
涙目のままお願いした私が悪かったのだろうか。目を瞬かせたドミーが破顔して。
「可愛いなぁケイティ。今すぐお持ち帰りしたい!」
と言われた。ーーそれって絶対R指定が付きそうな目に遭うヤツだよね⁉︎ 無理だからね⁉︎ 私、まだ15歳ですからね⁉︎
後に私はデボラからこの時の事を聞かされた時に恐ろしい……という目を向けられる事になる。曰く。
「あんな色気満載の男を私のお嬢様が恋した男性なんて信じたくなかったですよ。危うく私ですらあの色気にやられるところでした。お嬢様、もう少しマシな男がいなかったんですか?」
と。男を見る目が無いとばかりに、残念なお嬢様扱い視線も向けられた。……私だってドミーがあんなにフェロモン魔人だったなんて知らなかったんだってば!
お読み頂きありがとうございました。
オマケ。
後にこの時についてクルスとデボラから問われたドミトラルは語る。
「無意識だったから解らないけど。好きな女性を甘やかしたり意地悪して泣かせたりしたくなるのは男のサガでしょう。で。最終的に惚れた女を自分の腕の中に堕ちて来たら囲い込むまでが男の本性」
聞いたデボラとクルスは、お嬢様の男運の無さを嘆いたとか苦笑いしたとか。




