2度目。ーー帰国命令が出た皆様と見送る私。・6
ジュストから帰国命令の話を聞いてから数日。ドミーから魔法学園の寮内にある私の部屋宛で手紙が届いた。シンプルに話がある、とだけ。内心来たか。と思ったものの聞かなくてはならない。それは私の役割だわ、と自分に言い聞かせてクルスに届けに行ってもらった。日時も場所も此方に合わせる、とのことで明日の午後にいつもの場所で。と認めて。
「お嬢様」
「なぁに?」
「明日は美しく着飾りましょう」
デボラがニンマリとした笑みでそんなことを言う。満面の笑みじゃないのよ! 何かを企んでいる笑みなのよ、コレ!
「えっ。なんで。制服でいいわよ」
「だって暫くお別れ……」
「に、なるかどうか分からないわよ!」
別れなんて不吉な事を言わないで欲しい。それに! もしドミーが帰国すると判断してもその時はきちんと見送るから! 私がムッとしながら反論すれば、デボラがクスクス笑う。その笑い方でデボラが私の気持ちを解すつもりだったのだ、と気付いた。
本当に良く出来た専属侍女だわ。
悔しいから言わないけどね! とはいえ、デボラのおかげで気持ちが切り替わったのも事実。私も一緒になって笑ってから、ドミーがどんな決断をしても受け入れよう、と思えた。
そうして翌日午後。私は少しだけ緊張しながらドミーと顔を合わせた。今日はタニアさんは居ないみたいで、2人だけというのは、なんだか凄く久しぶりで。ちょっと視線が落ち着かない。
「ケイティ。来てくれてありがとう」
「ううん。ええと。……帰国命令、の、ことかしら」
微笑みながらドミーが座るように促してくれて、私はその微笑みに誘われて座る。そしてキュンっと胸が掴まれる。
ーーだって!
だって、日本人の記憶を取り戻してからずっとドミーは好みど真ん中なのよっ。この顔がめちゃくちゃ好みなのよ! その好みの顔で優しい目で微笑まれてキュンとしない方がおかしいじゃないー!
今更ながら制服姿の私が釣り合わない気がしてこの場から逃げ出したくなったわ。そもそも本当にドミーは私で良いのかしら。だって。だって私、7歳も年下なのよ? しかもドミーは乙女ゲームの攻略対象だもの。他の女性の目から見てもモテるじゃない!
それこそ大人の女性が彼を放って置かないだろうし。初恋の女性は年上だったみたいだし、初彼女は同い年だった……。えっ。年下は好みじゃないのではっ⁉︎ も、もしかして私、ドミーに揶揄われている⁉︎
そうよっ。なんで気付かなかったのかしら。だって私は悪役令嬢なわけだから、外見はそれなりに綺麗かもしれないけど。それって所詮この年代の女性の中でってわけだし。多分ドミーの年齢から考えるに女性とそれなりにお付き合いしてきてもおかしくないはずなのよ。
同い年なのか年上なのか知らないけれど、きっと他にもお付き合いされた方はいたはず。……そんな女性達と小娘の私が張り合えるの⁉︎ そんな方達にドミーの隣に私がいて、鼻で笑われないかしら⁉︎ やだ。どうしよう……。逃げ出したくなってきたわ。
「ケイティ?」
「あ、えっ、ええと?」
「もしかして体調が悪いのか? 俺の話を聞いてなかったみたいだし」
「あ、あの、ごめんなさい」
グルグルグルグル考えていてドミーの話を聞いてなかったー! どうしよう。呆れてるかしら。もしかして嫌われ……⁉︎
「いい。ケイティの具合が悪いなら今日は話をやめよう」
「だ、大丈夫っ」
「本当か? 無理しないでいいから」
「本当に大丈夫」
心配そうなドミーに、アレコレ考えていただけ、と言葉を濁して。私は今度こそドミーの話をきちんと聞こうと彼の目を見た。
そうしたら、私が目を見た事が嬉しい、とでも言うようにフニャリと笑みが崩れるドミーを見てしまって、益々胸がキュンとして、死ぬ! 私は今日此処で死ぬ! と脳内で血を吐いて身悶えしてました。もちろん脳内だけだから、ドミーにはバレていないと思うけど。
だって。だって大人の男性なのに、こんな笑顔を見せられて打ち抜かれないわけないじゃないですかっ! こう言ってはなんだけど可愛い。凄く可愛いとしか言えなかった。
そして私は知らなかった。
いつもはクルスだけなのに、デボラもアレジもガリアも様子を見に来ていて、傍から見ると付き合いたての初々しい恋人同士のイチャイチャにしか見えなかった事も。その話を後程知ることになる『お嬢様を愛でる会』なるもののメンバーに余すことなく伝えられている事も。
ーー私がそれを知るのはガリアが温泉を見つけてくれるより更に後の事。もちろん知った時には顔から火が出るどころか、羞恥で死にそうでした……。




