2度目。ーー帰国命令が出た皆様と見送る私。・1
遅くなりました。
さて。伯父様と衝撃的な出会いを果たしてからおよそ10日あまり。私とジュストは変わらず魔法学園で勉強と友情に熱を入れています。ドナンテル殿下とノクシオ殿下からの手紙は3日に1度から10日に1度となりました。そのうち1ヶ月に1度。半年に1度と変化していく事でしょう。それで良いと思います。友人からの手紙はそれくらいで。便りが無いのは元気な証拠と言いますからね。
ヴィジェスト殿下からの手紙も最近は本当に友人からの手紙の内容に変化しています。以前は口に出すのも憚られる程、なんていうかデートのお誘いばかりというか。そうでないなら何か贈り物したい、とか。友人ではなく恋人か婚約者の立ち位置みたいな気がして正直ドン引きでした。私とアナタはそんな関係じゃないですよね、と何度お返事したことか。
でも。今はタータント国の王都の様子やどこぞの領地では今年の作物の出来が怪しいから、現在その原因を調査中だとか。こちらの領地で新規の事業を立ち上げる予定だとか。そういった内容が多くなってきて。私も安心して意見を書いたり感心したり、友人らしい手紙のやり取りにホッとしています。それと同時に。
ーーこういう内容の手紙を読むと、ヴィジェスト殿下がどれだけタータント国を大切にしているか、理解出来るのが嬉しいのです。前回の人生では、全く私を顧みなかったヴィジェスト殿下でしたから、国政に関する話も全く出来ませんでした。世間話すら交わせなかった私達でしたから。
ですが。
皮肉な事に私と殿下が婚約していない今の方がこのような話が出来るのです。出来れば前回の人生でこのような話をしたかったというのが、不満ですかね。でも、こうして国の行末について意見が述べられるのだからそれで良しとしましょうか。
友人としてこういった話が出来る事は有り難いですね。そんな矢先の事でした。
「お嬢様」
「なぁに?」
学園が終わり寮の自室で寛いでいたところへ、デボラが神妙な面持ちで私に呼びかけてきます。
「クルスが至急申し上げたい事がある、と」
「クルスいいわよ」
デボラの伝言に応えずクルスを呼ぶ。此方も随分と神妙な面持ち。
「どうしたの?」
どちらともなく尋ねれば、クルスが口を開きました。
「先程、魔術師長であるシーシオ様からご連絡を頂きました。……ロズベル嬢の記憶を削除したそうです」
ちょっと衝撃でした。
なんていうか、ロズベルさんの記憶を削除するにあたり、私に連絡が来る気がしていたのです。勝手な話ですけど。まぁ連絡が無くても別におかしくないんですけどね。ただ何となく一言連絡が有るような気がしていただけですから。
「そう、ですか」
ちょっと衝撃をやり過ごしてから応えると更にクルスが困惑したような表情で続けます。
「実は続きがありまして」
「続き?」
「人の記憶を操る魔法はかなり繊細で魔力も使うそうなのですが。それでも改竄するより削除する方がまだ楽なのだそうです。その楽な筈の魔法なのに今回は難しい案件だったそうです」
「それってつまり失敗したってこと⁉︎」
クルスの発言がまどろっこしくて結論を求めると何とも言えない顔で首を左右に振りました。
「結論を申し上げますと成功です。但し」
「但し?」
「お嬢様のようにあの娘も前世の記憶がありましたね?」
「そうね」
「そして前回の人生の記憶も」
「そうね」
「それが障害になったようで。要するに前世の記憶と1度目の人生の記憶と、シオン帝国の機密事項の記憶が絡まり合っていたようで」
そういえばそうなるかもしれない。何しろ、ロズベルさんがシオン帝国の知られたくない機密事項なんてゲームの知識が元になっているだろうから。という事は?
「もしかして記憶の削除が出来なかった?」
「……いいえ。その逆です。記憶を丸ごと削除したそうです」
「丸ごと? どういうこと?」
なんだか嫌な予感がします。
「あまりにも複雑に絡み合う記憶なので、帝国の中枢部に記憶の削除が難しい、と話したけれど帝国側は何がなんでも記憶を削除しろ、とのお達しで。仕方なくロズベル嬢に確認を取ったところ、構わないからやってくれ、と返事が有ったそうで。彼女の記憶の半分は削除した、と」
「記憶の半分が削除⁉︎」
「ええ。ご家族の記憶とか暮らしていた街並みとかは覚えているそうですが、ヴィジェスト殿下始め……ジュスト・ボレノー様。ライル・カッタート様。ドミトラル・レード様。イルヴィル殿下をお忘れになられた、と。そして……お嬢様の事もお忘れになられたそうです。いえ、忘れたなら思い出す事も有りますが削除したので、切り取られた、と」
記憶が切り取られたから戻る事も無いそうです、とクルスが続けますが先程以上の衝撃を受けた私は何も考えられないし、言葉を発する事も出来ませんでした。
お読み頂きましてありがとうございます。




