2度目。ーー現実を知るということは、悔やむだけでなく省みること。・10
遅くなりました。
お読み頂きまして、ありがとうございます。
「ロズベルさん」
「はい」
前回会った時はかなり興奮状態だったせいか割と怖かったというか、追い詰められたような表情だったわけですが。今日はずっと落ち着いているせいかだいぶ穏やかな表情で私を見据えています。良い傾向です。
「ヴィジェスト殿下の伝言はご理解頂けましたよね。今はもう此処が現実だということもご理解されているはずです」
「……はい」
「それを踏まえてお尋ねしますね。……ヴィジェスト殿下のことはどう思っていらっしゃるの?」
「1度目の人生の時。ゲームだと思っていたから早めにヴィジェスト殿下を攻略してしまえばいいって思っていました。だから、あなたと婚約したと聞いても私の事を最優先してくれていたから。これなら大丈夫だと思っていて。コッネリ……でしたっけ。あの公爵様に養女になるよう言われた時、ゲームとは違う展開だけど、バーチャル型の特別仕様かと深く考えなかったの。ケイトリンが死んだ時も、バーチャルなのにこんなにリアルなのかって、何処か他人事で。ヴィジェスト殿下と一緒に牢に入れられた時は、何処でこんなバッドエンドになったのかって思って……。バーチャル型は随分と元のゲームとは内容が変更されているのね。ってそれしか思わなくて。元のゲームは、ヒロインのバッドエンドって、ヴィジェスト殿下ルートでは無かったから。付け足したくらいにしか思っていなかった」
素直に溢すロズベルさん。ぶっちゃけていいでしょうか。ゲームだと思い込んでいたとはいえ、発想が恐い。恐怖ですよ恐怖。私が死んだ時もリアリティがある程度。自分が牢に入れられてもバッドエンド程度。……ゲーム脳っていうか、本当に現実だと認識していない事が解って恐いですよ。
1度目のロズベルさんは、ある意味なるべくしてなった人生の終わりだったのでは?
寧ろ、私が説明したとはいえ、ゲームとは違う事を今はよく理解出来ましたよね。やっぱり薄々理解していたから、でしょうか。……でも日本人の頃の年齢が12歳では、現実だと認識出来ようはずがなかったかもしれませんね。
「今は現実だと認識出来てどうですか?」
「色々考えないといけないって思いますけど。お母様に教わった淑女の嗜みとか、貴族の序列とか、そういったことを思い出して自分を振り返ってみると、随分困った言動をしていたなって」
「そうですね」
「本当は……私は処刑が妥当ですよね。1度目みたいに。でも生かしてもらえる。その事の意味を理解出来ました」
随分と理解力が有ります。今までのアレコレは何だったんだ! ってほどのイイコぶりですけど、まぁ事態を理解出来るのは助かります。別に所謂ざまぁの対象にしたいわけではないですからね。
大体、セイスルート家のざまぁなんて、物理ですよ、物理。男女問わずセイスルート家名物・野営で夜営の奇襲訓練に問答無用で放り込まれますよ。アレは、私でも1回で遠慮したいと思った恐ろしさです。お母様とお姉様の野営で夜営の訓練3日間なんて、本当は大したものじゃないんです。まぁあの2人はアレで充分。きちんと人生観が変わってくれたようですからね。……話がズレました。
「きちんと理解出来たなら、大丈夫ですね」
「そう、だといいと思います。それと。ヴィジェスト殿下の事を考えてみました。ゲームである事やメインヒーローである事を抜いてヴィジェスト殿下自身の事を考えてみたら。私はそこまで殿下が好きではなかったと思いました。だから未練は有りません。自己満足かもしれないですが、謝罪するくらい、ですかね」
「そう。分かりました。では、ヴィジェスト殿下の伝言も理解出来たのですね」
「はい」
ここまで自己を省みられたならば、現実だと理解出来たと見做せますし、伯父様からの伝言を渡しても問題無さそうです。
「魔術師長様から伝言をお預かりしています」
私は切り出します。そうして一生を過ごす場所を決める件と、記憶の削除を急ぐ事を伝えました。
「ということで、帰国するまでに記憶を削除するとのことです」
「分かりました。お母様と話し合って決めます」
ロズベルさんは冷静に伝言を受け取りました。これで、私の役目は終わり、でいいでしょうかね。私はジュストに後程説明して、ジュストが納得すればロズベルさんの一件は終わりかな、と振り返ってみます。……大丈夫そうです。これでジュストも気兼ねなくタータント国へ帰国出来ることでしょう。
ドミーとタニアさんの方は、国王陛下が絡む事なので私は口出し出来ません。でもまぁ帰国命令が近いうちに出ると思いますが。そして私ですが。学園卒業までシオン帝国に居るつもりです。まぁ一度帰国してお父様とアレコレ話し合う必要があるでしょうけれど。伯父様の件が有りますからね。
正直なところ。素直に言えば。
トラルと離れるのは辛いですけど! 折角再会してお互いの気持ちが変わらない事も確認しましたからね。
でも晴れて気兼ねなくドミトラル様と恋人兼婚約者になるには、おそらくもう引きずり落とされていると予想出来るとはいえ、きちんとヴィジェスト殿下と話し合って“筆頭婚約者候補者”の座を退かなくてはならないです。
そこはきちんとスジを通さないと、ヴィジェスト殿下にも国王陛下にも無礼ですからね。……今までも大概無礼を働いていた事実は無視です、無視。
明日の更新も遅くなると思います。土日は……いつも通りに更新出来るように頑張ります。




