2度目。ーー現実を知るということは、悔やむだけでなく省みること。・9
そういえば……と皇宮からの帰りに思い出します。ロズベルさんが何処で暮らしているのか知らない事に。伯父様に尋ねましょうか。悩むより前にクルスが姿を見せました。
「クルス」
「きちんと例のお嬢さんが何処に住んでいるのか確認しましたから、案内します」
「さすがね」
やはり出来る男です。若手の影達の中でもリーダー的存在のクルスのこういう所が、皆が慕う理由なのでしょう。案内されながら私はクルスに尋ねます。
「話、どう思った?」
「我等の起源を知り少し動揺しておりますね」
「セイスルート家が王家だった事は?」
「今は辺境伯の地位にある。それだけのことでしょう」
「そうね」
クルスがサラッと“それだけのこと”と言ってくれた事が嬉しい。そう。それだけのことなのだ。昔々がどうであれ今は辺境伯の地位にある家。何も思い煩う事など無い。
「クルスは伯父様の存在は知っていた?」
「そうですね。いらっしゃるという事だけは。ただ、ご当主様が探す素振りも見せなかった、と父や兄から聞いてますから、探すな、ということだと判断しました」
成る程。お父様がそんな態度なら影達も探さないはずです。お父様が何を考えて……いや、考える知性があるとは思えないので、何を思っているのかは分かりませんが、きっとお父様の中では、何やら割り切れるものがあったのでしょう。だから、探す素振りも見せなかった。
「もしかして……お父様は伯父様が大丈夫だ、と信じていたのかもしれない」
ポツリと言葉が溢れ落ちてから、うん、と頷きますがそれが一番しっくりきました。ところで。
「皆は何処にいるの?」
「先に例のお嬢さんの所に向かいました。本当はケイトリンお嬢様の恋人様は……」
「恋人様って、言い方!」
「何か間違っておりますか?」
間違ってない! 間違ってないけど、恋人“様”ってなに! 恋人様って!
「ドミトラルって名前があるんだから名前で呼んであげて」
「かしこまりました。ドミトラル様はケイトリンお嬢様が話を終えるまで待っていたかったようですが、デスタニア様に促されて渋々」
「そう」
それなら急ぎましょうか。クルスに急ぐ事を告げて向かった所は皇宮から然程離れていない、前世で言う所のアパートのような部屋でした。これだと全員がお邪魔するのは却って申し訳ないです。というか、ぶっちゃけ狭いと思うんですよね。
マリベルさんとロズベルさんの母娘が暮らしていくだけならこれで充分な広さですし、ましてや永住するわけではないから、尚のことですよね。まぁこちらはお邪魔するわけですし、向こうが人数を減らして欲しい、と言えば対応をしましょう。まぁ酷いことをいうならジュストは居なくてもいいですからね。
そんな事を考えながらロズベルさん母娘の部屋へ訪れると「狭いかもしれませんが皆さんどうぞ」とマリベルさんが仰るので、お言葉に甘えて皆でお邪魔しました。然りげ無く2人を見れば、どうやら未だにギクシャクしています。……まぁ私だってお母様とお姉様とは未だにギクシャクしていますからね、気持ちは解りますし、どうにかしようとも思いません。
自分の事がどうにもならないのに人の事など更にどうにもなりません。……実の親子だからこそ、上手くいかない事って有りますよね。こればかりは、自分達の努力だけでなく時間も関係有るのでしょう。ちなみに私は、私自身の努力を放棄してます。子どもっぽいと第三者から非難されようとも、私から歩み寄る努力をしたい! という気持ちは今は無いのです。
話がズレました。
取り敢えず私は伯父様から預かった伝言をロズベルさんに受け取ってもらうだけです。とはいえ、どう切り出すべきですかね。さっきはロズベルさんの意識を……ゲームだと思い込む日本人のアカリさんの意識を、現実世界だと認めさせる事に力を入れていましたからね。冷静になるとここが現実の世界だ、と認識したロズベルさんと何から話せばいいのか、さっぱり思い浮かびません。
あれですかね。簡単に伯父様からの伝言だけ伝えれば良いですかね。それだけだと素っ気ないですかね。でも1度目の時もそんなに関わらなかったし、今回だって今日までまともに話すことが無かったですからね。私達とロズベルさんの共通の話題なんてヴィジェスト殿下の話か、日本人の頃の記憶くらいしかないと思うのです。どちらの話題も世間話みたいな軽さで話す事じゃないですよね。
あー、でもこの際だからヴィジェスト殿下の事も聞いておきましょうか。ロズベルさんの気持ちとか、前回の事とか。……そう決めたら肩の力が抜けてスッキリしました。まだ何にも話していないんですけどね。




