2度目。ーー現実を知るということは、悔やむだけでなく省みること。・8
隠された歴史を知ってしまった事により、己の人生を省みている私です。……結構どうでもいい事で影達を使っていたような? 今更ながら良いのかなぁ……
「なんだ? 聞きたい事がありそうだな?」
伯父様は私に促してきますが、割とくだらない事で影を動かした事が有るのを反省中です、とは言えないので……さて、どうしましょう。あっ。アレ聞いてみますか。
「あの。影達が当主の命しか聞かないのは……」
「魔術師の素質がある者が生まれた場合、そちらに取り込まれないために、だな。影は基本的に意思の強い者に従うよう育てられる。魔法を扱うのに必要なのも意思の強さだ。意思の強さで張り合われたら影の役割を果たせない。故に当主に忠誠を誓う」
「例えば……ですけど。当主以外に忠誠を誓うような相手が出来た場合というのは」
「あまり無い事だが、その場合は意思の強さだけでない何かが有る、という事だろう」
つまり。クルスが……あれ、そういえばアレジとガリアもでしたっけ……私に忠誠を誓うのは、意思の強さ以外の何かが有るから、ということ。……彼等の主に相応しい人間になる事が目標ですかね。お父様という存在より私を選んだ以上、彼等に幻滅されてはいけませんね。
「他に気になる事は?」
「伯父様は……お父様や叔母様達にお会いにならないのです?」
単純に家族に会いに来ないか尋ねた私は、伯父様の憂い顔にハッとします。お父様と似た顔でお父様には無い知的な雰囲気と、お父様には無い諦めを知った笑みに、ちょっとドキッとしました。これこそ大人の雰囲気ではないでしょうか。……何故兄弟でこんなにも雰囲気が変わるのか。
あのお父様にはこんな雰囲気は出せません。ええ、全然。出来れば伯父様の娘に生まれたかったですよ。拳と拳で話し合い。それが我が父です。伯父様のこの雰囲気を1割でもいいから身につけてくれないかな、と儚き願望を抱きます。
「それは無理だ。私はシオン帝国に飼われているようなもの。シオン帝国のために国外に出る事は可能でも、シオン帝国の意に沿わない事は出来ない。そして家族というものは、シオン帝国から見ればシオン帝国と両天秤にかけられる程の存在」
それはつまり。シオン帝国側は、家族とは魔術師の弱点になり得ると考えているわけですか。うむ。厄介ですね。
「でも、それじゃ伯父様は家庭を持てないではないですか」
「そうだ」
「そんな。寂しいじゃないですか」
「寂しい……その感情は無いが。偶には会いたいものだ、とは思うよ」
伯父様は寂しいという感情が無いと仰る。そう言ってしまう程、感情を殺してきたという事でしょうか。それともその感情を抱く程の絆を誰とも築けていないのでしょうか。
「会いたいと思えるくらいには、お父様達の事を思っていらっしゃる?」
「成人と同時に飛び出す事になった家とはいえ、弟妹達とそれなりに仲は良かったと思うからね」
それが聞けただけでもホッとします。
「お父様に伝えておきます」
「うむ」
「手紙くらいは……書いてもいいですか」
「そうだな。それくらいは」
「私はシオン帝国の魔法学園に在籍しています。だから偶には会いにきても良いですか」
「手紙は大丈夫だが。会いに来るのは難しいな。魔術師団のそれも長の立場の私は、本来なら必要に応じた最低限の人のみの接触しか許されていない。たとえ姪でも規則なのだ」
寂しいという感情を育てられる程、自由な環境ではなかったのかもしれません。だからどこか親愛の情が薄い気がするのでしょうか。それはとても悲しい事ですが、だからこそ魔術師長として活躍も出来る。そういう事、なのでしょう。それならせめて。
「留学が終わるまではシオン帝国に居ますから、手紙を書きます」
「待っていよう。……さて他に何か尋ねたいことは?」
「いえ、とくには。何か思いついたら手紙を書きます」
「分かった。では、この辺までとしておこう。……ああ、そうだ。一つ、ロズベルに話忘れた。国に従属する、と話したが正確に言えば土地に従属する。だからどの土地に住みたいのか考えておくよう伝えてくれ」
なんでも伯父様は使えない魔法らしいですが、魔術師団の中に、土地に縛り付ける特殊魔法を扱える方がいるそうで。その魔法をロズベルさんに使うらしいです。それと、ロズベルさんがタータント国に帰国する前に記憶を消去しなくてはならないし、伯父様は忙しくなるようです。私は伝言を預かって伯父様の元を去りました。




