2度目。ーー現実を知るということは、悔やむだけでなく省みること。・7
「これはセイスルート家の当主も知らぬ歴史。まぁ魔力を持ち魔術師の素質が有り、実際に魔法を使えないと知らぬセイスルート家とタータント王家との歴史だ」
「では、お父様もご存知ない、と?」
「魔法が使えない者には伝えられない歴史だから知らないな」
「何故それを私に?」
お父様も知ることがないセイスルート家の歴史を私に話す意味が解りません。
「魔法こそ使えないが、ケイトリンは人生を繰り返している。つまり魔法によって運命を曲げられたわけだが。自分の意思とは関係なしに巻き込まれたわけだからな。魔法に関与した、と見做した」
「関与したから話す?」
「そうだ」
私は理由に納得して続きを促した。
「セイスルート家が王家だった頃。タータント家とは国を動かすための考え方が違った。だからタータント家は反旗を翻して戦となり勝利した。そしてタータント国が誕生した。その後、セイスルート家はタータント国の王家と距離を取り……やがては、タータント王家に忠誠を誓わない事で、何かあればタータント王家と再び争う事も辞さない態度を取る形になった」
まさか、ウチが王家に忠誠を誓わない理由にそんな深いものがあったなんて知りませんでした。
「でも殆どのセイスルート家の人間は知りませんよね?」
「セイスルート家の書庫に開かない扉があるだろう」
「有りますね」
「あれは魔力を持った者しか入れない。その先には魔力を持ち魔術師の素質がある者しか読めない書物ばかりがある。最初はタータント王家から王位奪還を目指していたようだが、時代が下ると奪還ではなく簒奪だと理解する者が現れ、争う事はしたくない者が多くなるにつれ真の歴史は、あの書庫に隠された。それは同時にタータント王家でも同じだったようだな」
成る程。争うよりも平和を好んだ当主が多くなる事で、セイスルート家が王家だった歴史は伝えられなくなった、と。伯父様は魔術師だからあの扉を開けて真の歴史を知った。
「伯父様がセイスルート家を出たのは、王位に興味がなかったから、ですか」
「うむ。後はまぁこの国に目を付けられたから、だな」
シオン帝国に目を付けられた?
私が首を傾げている理由に思い当たったのか、伯父様は苦笑して教えてくれる。
「私の魔法が特殊だったからな。普通の魔法は自然の力を使う。火や水といった具合に。記憶を改竄したり消去したり、ましてや記憶を継ぐなど出来るものじゃない。そういった特殊な魔法を扱える者は、シオン帝国から目を付けられる。そして魔術師団に強制入団だな」
伯父様は自分の意思で入団したわけじゃないという事です。……魔術師団怖い。
「記憶を継ぐと仰ってましたが……」
「そのままの意味だ。他者の記憶を引き継げる。私が魔術師団長の位に就いているのは、前魔術師団長の記憶を引き継いでいるからだ」
魔法とはそんな事まで出来るんですか。とはいえ、他人の記憶を受け継ぐなんて大変そうですが……。
「辛く、ないですか」
ポロリと落ちた言葉。私自身も驚いたけど伯父様は尚驚いたようで、目を見開いて私を見てる。
「私の姪は心優しい娘に育ったようだな。……記憶を受け継ぐのはとても難しい。そちらの記憶に引っ張られる事もある。自我を保てないくらいに。だが、それでもそうしなければ……記憶を受け継がなければならない事がある。まぁ主には失われた魔法を蘇らせるため、とか禁断魔法を解明するため、とかだな。書物に記載されていない魔法。それを受け継ぐ者を探していた。それが私だ」
伯父様が仰るには、禁断魔法などの書物すらあまり無いのに、古い家であるセイスルート家の書庫には豊富らしい。えっ、そんな怖い書物があの開かずの扉の先にあるんですか⁉︎
「セイスルート家って実は怖い家でしたか」
「何を今更……。元々タータント王家の影にしろセイスルート家の影にしろ、魔術師の素質がある者が生まれるかもしれないから出来上がった組織だ」
「えっ?」
どういうことですか。確かにウチの影達は魔法を使えなくてもそれなりの対応が出来ますけども。
「影達は元々、タータント王家の影ならばタータント王家に生まれた魔術師の素質を持つ者が暴走した時に、暴走を止める存在として出来上がった。セイスルート家も同じ理由で影という組織が誕生した」
えっ⁉︎ そんな理由だったんですか⁉︎
「まぁこれも知られざる裏の歴史だな」
知って良かったのか悪かったのか。割と濃い歴史を聞かされてちょっと疲れた気がします。




