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成る程。では、お互い不干渉といきましょう。  作者: 夏月 海桜
2度目の人生を送る事の原因と意味と結果。
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2度目。ーー現実を知るということは、悔やむだけでなく省みること。・5

「この際、前世だの別世界だのは置いておこう。時間が巻き戻った件のみに話を絞ればその魔法を使った人間に巻き込まれただけ、とロズベルは判断出来る。……此方は誰がその魔法を使ったのか解っているからな」


そういえば……この人が、タータント国・国王陛下に魔術の素養を見出して扱い方を教えたわけでしたっけ……。


「では?」


「普通ならばロズベルという平民の少女への監視はもう解くべきだろうが。その言動があまりにも理解不能。監視を解いても良いのか、不安だ」


そこでようやく私から視線をずらした魔術師団長は、ロズベルさんと隣に座るマリベルさんに視線を向けた。本当にこの世界が、現状が、現実である事に納得したのだろう。受け入れられたのだろう。ロズベルさんはマリベルさんとの間にぎこちない空気を醸し出しながらも、膝の上で両手で拳を握って俯いていた。


「あの、宜しい、でしょうか」


マリベルさんが重い空気に呑まれつつも、そっと発言の許可を魔術師団長に願い出る。頷いたのを見てからマリベルさんが話し出した。


「私は……正直なところ話についていけていません。ロズベルが2度目の人生を送っている、とか何を言っているのか……と。ただ。前回、私とロズベルの元にセイスルート様達が現れた時に、ロズベルが随分と雰囲気が変わりました。目に見えて落ち着いたというか。変わった言動を繰り返すこの子を見て、胸が痛む日もありました。目が濁っていていつも此処ではない何処かに視線を向けていて。……でも、セイスルート様達と話した後にロズベルを見ると、目が澄んでいて変わった言動を繰り返す前の、私を母と慕ってくれた娘の目をしていたのです。そして大きなモノを抱え込んでいた表情が、とてもスッキリとした表情に変わって……この子はもう大丈夫。そう思うのです」


マリベルさんの話に、ロズベルさんがハッと顔を上げた。きっとアカリさんが求める日本人のお母さんではないけれど。アカリさんのお母さんと同じ“母の愛”を言葉に込められた中に見出したのだろう。彼女が欲しかった家族の愛が、そこにあった。


「お母様……」


多分、本当に久しぶりにロズベルさんはマリベルさんを母と呼んだはず。それも心の底から。マリベルさんが驚いた後に嬉しそうに、そして泣きそうになりながら「はい」と応えた。


「ふむ。実の母が大丈夫だ、と保証出来る程におかしな言動はせぬ、と。良かろう。監視を解こう。だが条件がある」


魔術師団長は、母娘の絆を見て、ロズベルさんが前世の話とか人生を繰り返しているとか、シオン帝国の知られたくない部分を彼方此方に触れ回る事は無い、と判断したのだろう。監視を解く事を提示する。


「条件」


マリベルさんが短く言葉を繰り返す。


「一つは、どこまで知っているのか知らぬが、帝国の中枢部に関わる記憶をもらう事」


記憶をもらう⁉︎


「要するにその部分の記憶のみを消す。あまり記憶の改竄・消去等の魔法は使いたくないが、今回は止むを得ない。その部分を強制的に消すからな、思い出そうとすれば立てなくなるほどの頭痛が齎される。それでもその処置を施さねば監視は解けない。了承出来るか」


記憶を消す事で監視される人生から抜け出すか、記憶を消さずに一生監視され続けるのか、という選択らしい。


「了承します。記憶は必要無いです」


ロズベルさんが本日初めて、顔を上げて真っ直ぐと魔術師団長に視線を向けた。


「うむ。それともう一つ。其方達母娘が暮らす場所は決められるが、決めたが最後、一生その国からは出られぬ。これは国そのものに従属するという魔法だ。其方達母娘が死ぬまで、この魔法は続く。この二つの条件を受け入れるならば監視は解こう」


要するにシオン帝国で生きていくならシオン帝国から抜け出せないということ? という事は、タータント国に帰りたいならば、今、決断しなくてはならないということか。せめて1日くらい考える猶予を与えるとか、そういう配慮は出来ないのだろうか。私はハラハラした気持ちで、けれどもどこまで口出しをしていいのか分からず、黙って見守る。


結局、決めるのはこの母娘だ。猶予を貰いたいなら自分達から願い出るべきだろう。


「タータント国へ帰ります。でもヴィジェスト殿下に迷惑をかけたいわけでは有りません。ただ、あの国で生まれ育ったし、お母様だけでなく、お父様とお兄様にも会いたいので。タータント国から一生出られなくて構いません。余計な記憶も要りません。だからどうか」


よろしくお願いします。

消え入りそうな声でロズベルさんは、頭を下げられました。

その姿は多分、これが本来のロズベルさんの、いえ、ヒロインさんの姿なのかもしれないな、と思わせる可憐な雰囲気でした。

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