2度目。ーー現実を知るということは、悔やむだけでなく省みること。・2
遅くなりました。
今の私の心理状態で此処に居るのは危険だと思う。ロズベルさんにひきずられてしまっている。冷静な話し合いどころか私がダメになってしまいそう。これではダメだ。一旦退こう。
「ロズベルさん、取り敢えずヴィジェスト殿下からのお言葉はお伝えしました。今日は遅くなりそうですし、また日を改めて伺いますね」
急いでいるとは思われないよう、変わらない口調を心がけながら暇を告げる。一旦出直して気持ちをリセットしてからじゃないと、共倒れになりそうな予感がしていた。それに気付いたのかタニアさんとドミーに心配そうな目を向けられた。
「ケイトリンっ」
私にそう言われたロズベルさんは、きっと12歳の少女・アカリさんの気持ちを乗せた表情で、私の名を呼び私をジッと見ていた。
「大丈夫。近いうちに来るわ」
「会えるか分からないのにっ」
もう現実だと理解し始めているロズベルさんは、多分現実を突き付けた私に「どうにかして欲しい」と言いたいのだと思う。それなのに自分を置いて去って行くのか、と目が訴えている。言葉より雄弁な目を見ながら。でもそれを口に出せないロズベルさんの気持ちもなんとなく理解出来た。
きっと口に出したら認めてしまう事になる。認めてしまったら日本に帰れない、と迷っているのだろう。ロズベルさんがそこで停滞したまま一生を過ごすなら、それはそれで良いのかもしれない。でもロズベルさんがそれを望んでいないなら……私は手を貸してあげようと思う。
その為にも、今は此処で引くべき。共倒れになってロズベルさんどころか私も囚われて身動き取れない状況にはなりたくない。だから冷静になってそれから改めてロズベルさんと話をするべき。
「会えるわ」
「嘘よ! 私の思い通りにならないのよ⁉︎ 私は閉じ込められてばかりで、自由に何処へも行けないわ」
ロズベルさんのその言葉に、私が監視役に視線を向けると一瞬だけ視線を逸らした。それから、あからさまな胡散臭い笑顔を浮かべて
「何を馬鹿な。あなたの行動を制限したことなどないですよ」
などと言っている。明らかな嘘だと解る発言に騙されるわけがない。
「あなた方、魔術師団の方達は非道な事でもしていらっしゃる、と?」
静かに尋ねたが監視役は「いいえ、まさか」と今度は動揺せずに笑顔に隠した。ふぅん。そっちがその気なら、こちらも容赦しなくて構わないですよね。
「研究に協力すると言いたいところでしたが信頼関係が無い相手に自分の身なんて任せられませんよね。魔術師長様に、そうお話しておいて下さいね」
脅迫めいた事を言っているようだけど、脅したわけじゃない。当たり前の発言だ。非道な事をしていない、というのであれば堂々としてるべきだった。それならば少しはこんな言い方などせずにこちらも考えた。
「ま、待て、待ってくれ! け、研究に協力してくれるのではないのか!」
「信頼関係が無いのだから無理です」
「会って直ぐに信頼など築けないだろう」
あら、随分まともな発言ですね。
「確かにその通りですが、あなたの言動が不審感しか募らせないのです。だから信頼関係など尚更築けるわけがないでしょう。誠意というものを見せてもらえるよう、お待ちしてます。その上で研究に協力するかどうかを考えますね。魔法でどうにかして言う事を聞かせようなどと思わないで下さいね。そんな事を考えて実行したのなら、我がセイスルート家の名において、ウチの影達を動かします」
ウチの影達は魔法を使えるわけじゃない。だけど。タータント国が……その初代国王が誕生するよりも前からあの土地を守ってきた我が家を甘くみてもらっては困る。歴代の影達と歴代の当主達を含めたセイスルート家が積み上げてきた歴史は。
魔法を使われただけでどうにかなるほど柔なものじゃない。後ろ暗い事の一つや二つ、と良く言いますが、一つ二つどころじゃないくらい後ろ暗い事も仕出かしてきたウチですからね。それ相応の対応も出来ますよ。もちろん。
ーー魔法だってそれなりに対応出来る家ですよ、だってそれだけ古い家ですからね、セイスルート家は。
お読み頂きまして、ありがとうございました。




