2度目。ーー現実を知るということは、悔やむだけでなく省みること。・1
「別の世界? なんだそれは」
監視役の一言にアカリさん……ロズベルさんが呆然とした表情を見せます。
「なんで? なんで世界は一つだけじゃないって知らないの?」
「世界が一つだけじゃない? 意味が分からん」
監視役が悪いわけじゃない。世界は一つとは限らない事を知っているのは、実際にこうして異なる世界からやって来た私達のような存在か、世界の理の外の存在……簡単に言えば神様的な存在しか、理解出来ないのではないか、と思う。
私が居た日本では、異世界転移や異世界転生の話が彼方此方にあったから、若い人程世界は一つじゃない。という考えはあったと思う。でもそれは。
あくまでも物語の添え物としての考え方で、実際に異世界があると考えている人は居ないだろう。物語だと思っているから憧れる。実際に有るとは思っていないから、異世界に行ってみたいなどと思える。
こうして実際に転生してみれば。ロズベルさんのように日本人の記憶に囚われてしまえば、日本と同水準の世界でもない限りは戸惑い半端なく違和感を覚えるはず。
例えばお風呂。シャワーなんて無い。石鹸はあっても泡立ちボディーソープ的なものも無い。平民だと週に一度入れれば良い。それも家にお風呂は無くて公衆浴場。日本では各家にお風呂があって当たり前の一般家庭が多いと思う。これだけでも戸惑う。
例えば食事。圧倒的な洋食。和食を食べたいって思っても直ぐに食べられるわけじゃない。
私は日本人の記憶があっても、それに囚われないでいたから違和感も直ぐに消えたけれど(断じて、脳筋だからじゃない! はず)ロズベルさんは多分……日本人だった頃の記憶に囚われていると思う。だからこの世界に馴染めていないんじゃないだろうか。
此処は日本じゃない。それどころか地球でもない。
彼女はそれを認められるのかしら。認められないからゲームを終わらせて早く“日本”という現実に帰りたかったのだろうけど。此処はゲームの世界じゃない現実だと認めないと、彼女は先にも進めない。
「世界は一つだけじゃない。それを知らない? ゲーム設定なの?」
ああ、まだゲームだと思っている。ゲーム設定で異世界は沢山あると思っている。だから日本に戻れると考えている。
でも。
多分、ロズベルさんの考え方が破綻している事を本人は気づき始めている。ーー認めたくないだけで。バーチャル型のゲームだと思い込んでいたなら、簡単な話、バーチャル型ゲームからログアウトすれば良い。ゲームクリアしなくても強制的にゲームを終わらせてしまえば良い。でもそれは試してみたのだと思う。試してみたのに一向に終わらないから、ハッピーエンドを迎えてこのゲームからの脱出を図ったのだと思う。
それすらも上手くいかない事にストレスを感じているのかもしれない。そのストレスがきっと外見にも影響を与えている。……全部私の想像でしかないけれど。でも、この想像が外れているとも思わない。
気付いたら日本人じゃなくなってた。
気付いたら日本にもいなかった。
気付いたら家族や友人と離されていた。
それはロズベルさんにとって、どれほど辛かったのか。
だからこそ知っている世界……乙女ゲームの世界で、自分がヒロインだと理解した時から、彼女は必死にゲームを終わらせる方法を1人で探していたのかもしれない。
そうして行き着いたのは。メインヒーローとのハッピーエンドを迎えてからのゲーム終了だったのかもしれない。そう思えば、ロズベルさんの辛さを理解は出来る。
一方で、だからといって私を含めて色々な人に迷惑をかけてきた事を「ごめんなさい」の一言で終わらせる事は出来ないけれど。悔やむだけじゃなくて己を省みることが出来なければ、きっと同じ事を繰り返していく。繰り返して繰り返して繰り返したその先は。
何も残らない人生か、後悔ばかりの人生を送るか。
同じ日本人だった誼みで。そして年下の少女を庇護する気持ちで。彼女にはどちらの人生も送らせたくない。甘いのかもしれないけれど私はそう思う。思うけれど、それはきっと日本人の“マコト”である私の考えであって、この世界で辺境伯の令嬢“ケイトリン”として生きてきた私の考えは、それだけでは許してあげてはいけない、許されてはならない、と訴えている。
これは……私もマコトとしての感情ではなく、ケイトリンとしての考えを忘れかけている事を自覚させられた。




