2度目。ーー1度目には無かったお茶会は私の所為でしょうか?
「お嬢様。こちらを」
「はい」
デボラが私に一通の手紙を差し出してきました。この封蝋は王家のものですわねぇ。宛先は私ですけれどなんなのかしら。さすがに王家の封蝋が押されているものをお父様や執事が勝手に開封するわけにはいかないのでしょうが……。でも手紙の内容を知るために私の部屋を訪れそうなものですわ。ということはお父様宛に私宛の手紙についての内容を記した王家からの手紙があるということですわよね。私は手紙を受け取りペーパーナイフで慎重に封を開ければ……
「お茶会?」
「左様でございます。王家主催のお茶会への招待状でございます」
私が首を捻ればデボラがすかさず肯定しました。ということはお父様から既に話を聞いていたのでしょう。それにしても……お茶会。お茶会ねぇ……。この国では10歳を迎える子ども達は男女問わずどこかの貴族が主催する子ども向けの社交場としてお茶会へ出席することが義務付けられている。そこで要するに婚約者が決まっていないものは婚約者を決めるし男の子ならば将来的に自分の家の利になる友人を作る。女の子も友人作りに精を出すけれど婚約者がいないならそちらがメインになる。
大抵は高位貴族が主催するお茶会でプレデビューを果たし成人した年の王家主催の夜会で社交界デビューをするのだけど。そして前回の私の社交界プレデビューは我が家が主催して隣の男爵家や我が家と懇意にしている貴族家を招きましたが……。前回は王家主催のお茶会などなかったですのに。おかしいですわね。
「ねぇデボラ」
「はい」
「お父様はこのお茶会について何か仰っていて?」
「いいえ。旦那様は何も」
「そう。……おかしいですわね」
私が呟くとデボラが「おかしい、でしょうか?」と首を捻った。
「だって王家主催のお茶会なんて私は耳にしたことがありませんわ。仮にも毎年開催しておられるならお兄様やお姉様にも招待状が届いてますもの。お兄様とお姉様が参加したかどうかは分かりませんが、あのお父様のことです。お兄様達にも来ていたから気にしないで行っておいでとか仰りそうですわ」
私の指摘にデボラが確かに、と頷く。そして直ぐにハッとした顔を見せました。
「確かに不思議ではございました。毎年開催などされていないお茶会の招待状ですから」
「そう。そうだとするならばもしかしたら婚約者探しなのかもしれませんわね」
「婚約者探し、でございますか」
「ええ。第一王子・イルヴィル殿下にはご婚約者様がいらっしゃいますが、第二王子・ヴィジェスト殿下にはおられない。それ故のお茶会かしら? と勘ぐってしまっだけですわ」
「お嬢様の慧眼には敵いませんね」
慧眼ではないけれどそう考えただけ。
ーーそして、私のことを諦めていないように思えた。
今まで無かったお茶会を開催する。そしてその招待状が私に届いた。ということは現時点でヴィジェスト殿下の婚約者が決まっていないことを教えているようですわね。ヴィジェスト殿下の婚約者探しでお茶会を開催するわけですか。それなら前回は全く無かったのも肯けますわ。王家主催の夜会が正式な社交界デビューであるのに対し高位貴族が主催するお茶会が社交界プレデビューである。両方とも王家が主催しないのは、現王家にお金が無いというわけではなく貴族達がお金を貯め込んでいるのを吐き出させるためだ、と前回の王子妃教育の時に聞かされている。
その辺は別に構いませんが。
それなのにも関わらず王家が主催してお茶会を開催するならば婚約者のいないヴィジェスト殿下のためでしょう。今回もイルヴィル殿下は前回同様にシュレン様とご婚約が速やかに整っておりましたが、今回は私がヴィジェスト殿下との婚約を断っていますからね。
陛下は我が辺境伯家を諦めておられない、ということですか。
……というか、今回は初回で私が断った所為なのかそれとも私が知らないだけなのか王家からの婚約話が頻繁に無かったですわね。もしやこのお茶会を開催して私を招くことで話し合いをするのでしょうか?
前回の王子妃教育がこんな形で私の考えに影響してくるなんて思わなかったですが、あの教育から察するに王家はそれくらいのことをしそうですわね……。とはいえ、このお茶会を欠席するわけにはいきません。困りましたね。




