2度目。ーー残酷な現実を突きつけるのは、悪役令嬢。・1
「ロズベルさん」
私はその可能性に気付いてしまった事を後悔しつつ、真剣に呼びかけます。ロズベルさんも私の呼びかける声音に何か思う事があったのだろう。返事は無いものの視線を向けてきた。
「ロズベルさんは、日本人の時は何歳でした?」
意表を突いたのか、両目をパチリとさせてから首を傾げた。
「12歳」
そうかー。そりゃあ尚更家族恋しいだろうなぁ。小学6年生だか中学生だか知らないけど、高校生くらいの私だって日本人の家族を恋しいと思った。それが私よりも年下だったなら、尚更恋しくなるよね。
「パパとママと3人だけ?」
「ううん。中学生のお兄ちゃんと小学校に入ったばかりの妹もいる」
「そう」
家族の事を話し始めたら会いたくなったのか、ポロリと涙が溢れ……そこから止まらなくなったのか、ボロボロと涙が溢れ落ちて行き「パパ、ママっ」と声を上げている。あー、こういう時に言うのは残酷だけど現実は教えてあげなくちゃいけない。
正しく私は、悪役令嬢、だよね。
「ロズベルさん、日本人のお名前は?」
「アカリ」
「そっか。……アカリさん。残念ながらヴィジェスト殿下とハッピーエンドを迎えても、日本には帰れないよ」
私は敢えて淡々と事実だけを告げた。同情しても仕方ない。だって私は簡単に「日本に帰れるように帰る方法を探そう」なんて、言えやしないから。
「そんなっ。どうして⁉︎ なんで⁉︎ メインヒーローのヴィジェストルートを選択してハッピーエンドなら帰れるんじゃないの⁉︎ これってバーチャル体験が出来るゲームなんでしょ⁉︎」
ああ。そうか。ロズベルさん……いえ、アカリさんはバーチャル体験型の乙女ゲームだと思ったのか。だからメインヒーローのヴィジェスト殿下を攻略してハッピーエンドを迎えれば、このバーチャル体験型ゲームから脱出出来ると思ったのか。
「アカリさんは、この乙女ゲームのユーザーだったんでしょう? 誰かからこの乙女ゲームの事を教えてもらったの?」
「うん。病気になっちゃって入院していた私に、お兄ちゃんが女の子の友達から聞いたって教えてくれて」
あー……。マコトの人生での親友曰く、王道シチュきたーっ! って叫びそうな程、転生あるあるパターン。事故死しての転生か病気で儚くなっての転生。これが所謂王道シチュで。アカリさんは、病気で儚くなった転生者か……。薄幸の美少女パターンね……。実際美少女かどうかは知らないけど。
ゲームだと思い込んでいるんだから、そりゃあこっちの世界の常識とか、貴族社会のアレコレとか、勉強するわけないよね。とにかくゲームクリアすれば日本に帰れる……というか、バーチャル体験ゲームが終了する……と考えているんだから、そりゃあ躍起になるよね。これはこれで困った。
「素敵なお兄さんね」
「ありがとう! お兄ちゃんは優しくて、私のお願いをなんでも叶えてくれるの!」
「そっか。お兄さんと仲良しだったのね」
「お兄ちゃんは宿題で分からない所を教えてくれるし、入院してからも毎日お見舞いに来てくれて頭を撫でてくれるの!」
私が意図して過去形で話しているけれど、彼女はそれに気付かずにいる。……気付かないのか、気付きたくないのか。どちらにしてもこのままではロズベルさん……アカリさんは、幸せな一生を送れない。
前回の人生では、ロズベルさんのことを好きでも嫌いでもなかったし、最期の時はタータント国に恥をかかせるような言動をしていて、倒れたい。と思ったものでしたが。これがゲームをクリアしようと必死なだけだった、と知ってしまえば責める気持ちにもなれない。
多分、バーチャル体験型になったから、今までに培ったハッピーエンドを迎えるための攻略方法が役に立たないと思いながら、前回の人生を歩んでいたのかもしれない。でも、そうじゃない。これはゲームじゃなくて現実。きちんと人生を歩んで! 幸せな人生を歩めるように、現実だと認めて! そう教えるのは……私だけじゃなくて、タニアさんの役目なのかもしれない。
二度と日本人だった頃の人生は戻らない、という残酷な現実を突きつけるのが私の役目なら、現実だと認めさせて現実の人生を歩めるように教えるのは、きっと運営側のタニアさんの役目。
私はタニアさんに視線を向けて小声で「この世界が現実だと認めさせてあげて下さい」とお願いして、深呼吸をしてからもう一度ロズベルさんを見据えた。




