2度目。ーーその人と会うのは、実は初めてでした。・15
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「えっ」
「どうしました? お嬢様」
ドミーの手紙を読んで驚きの反応を見せた私に、すかさずデボラが尋ねてくる。
「いや、なんだか随分簡単にロズベルさんに会わせてもらえる事になったみたいで」
「へぇそうなんで……えっ⁉︎」
いや、なんで受けて流しつつあった所からの驚きよ。時間差の驚きってデボラ、芸が細かいね。
「驚きよね……。まさかこんなに早く了承してもらえるなんて思ってなかったから」
「驚きました。お嬢様が驚いた時、そんなに大したことないだろうなぁなんて思いながら聞いてすみません」
「ちょっと! デボラ……。正直なところは良いけど、正直過ぎるのも考えものよ? もうちょい遠回しに……いや、いい。なんでもない。正直に言ってくれって私が言ったんだったわ」
要するに、先程の時間差の驚き具合は、私の話を適当に流していたらホントに驚く内容だった、というわけね。そういうとこ正直過ぎるわね。でもそんなデボラだから私も信用出来るんだし。
「それで? いつ会えるんです?」
私は日にちを伝えた。デボラが「本当に早いですね」と再度驚いている。魔術師団の研究対象だからもう少しゴネるかと思っていたんだけどね。あれかしら。研究対象って言葉のイメージが悪いから、非道な事はしてないよアピールで、あっさり許可してくれたのかしら。……深く考えても仕方ないわね。私はロズベルさんに会える。その事実だけを知っていれば良い。
帰国したいなら手助けしよう。そう思っていた事もあった。でも隣国からシオン帝国へと引き渡された事実を聞かされた時点で、もう私では手に負えない事を知った。国が絡んで来るのであるなら、個人の私では何の手も打てない。打つならば、タータント国がやるべき。ただ、ヴィジェスト殿下の伝言を預かっているのと同じように、ロズベルさんの伝言を届けるくらいなら出来る。
そんな事を考えていたからか、我知らずに大きなため息を吐き出していた。
「お嬢様? 珍しいですね。そんなため息」
デボラに指摘されてようやく気付いたくらいだから、無意識だった。
「うん……。考えてみればロズベルさんにきちんと会うのは初めてだったなぁ……って思って」
デボラが目を瞬かせてから、ああ……と頷いた。ロズベルさんに会った事はある。前回の人生の最期の日。あれが前回の人生において、最初で最期の対面だった。だけど。
あれは会ったとは言えない。何故なら、きちんとした手順で会う事になったわけじゃないから。お茶会や夜会で会うにしても、例えば学園や貴族街などで会ったにしても。お互いに名乗りを上げて敬意を表して挨拶をする。そこで初めて正式に会ったと認められる。
あの時、ロズベルさんは隣国のコッネリ公爵の養女として名乗ったけれど、そもそもあのお茶会に、たとえ公爵家といえど、招待されていない彼女が居る事がおかしい。コッネリ公爵がゴリ押ししたのだろうけれど、それはタータント国を、王家を見下しているようなもの。
ロズベルさんはタータント国を貶す言動を取ったコッネリ公爵の養女という立場。外交的にも有り得ないし、どのような伝手を使ったのか知らないけれど、いきなり公爵家の養女になったなどタータント王家の顔に泥を塗ったようなもの。これも有り得ない。その上、あの方はコッネリ公爵が主導権を握っていたとはいえ、あの時点で正式にヴィジェスト殿下の婚約者として公表されていた私に対して、相応の挨拶などしなかった。
出来なかったというより、しなかったと言って良いと思う。当たり前のように自分がヴィジェスト殿下に愛されているのだから私より立場が上のような物言いだった。
「思い出せば思い出す程、有り得ないわ」
「お嬢様?」
「前回の人生の最期の日に、ロズベルさんと対面して。名乗りはしたけれど、あれは隣国とはいえ公爵家の令嬢という身分をひけらかしたくて、名乗ったようにしか思えなかったのよ。おまけに名乗りはしても挨拶はなかったわ。私はあの時、正式にヴィジェスト殿下の婚約者として公表されていた立場だったのだから、彼女より私の方が立場が上だったのに。思い出せば思い出す程、有り得ないのよね」
私がポツリポツリと最期の日の出来事を口にすれば、デボラが烈火の如く顔を真っ赤にして怒っている。
「お嬢様! 私はそんな扱いをされたなどと知りません! 何故もっと早くに話して下さらなかったのです!」
えええ。凄い剣幕なんだけど。早く話さなかったわけ?
「思い出したくないわよ、自分の死ぬ時なんて」
苦笑した私に、デボラがハッとして唇を噛んでから「失礼……いたしました」と謝ってくる。謝って欲しかったわけじゃないんだけどね。デボラに気にしないで、と軽く手を振ってから話を戻した。
「まぁだからね。あの時は対面はしたけれど、きちんと会ったとは言えなかった。今になって思うのよね。ヴィジェスト殿下の伝言を届けるのは構わないけれど、あんな態度を取っていたロズベルさんが、私の話を聞くのかしらってね。……考え過ぎかしら」
「いえ。考え過ぎる事はないかもしれません。取り敢えず無事に殿下の伝言を届けられるよう祈っております」
ありがとう、と笑って。少し気持ちが軽くなる。そう。今回は私はヴィジェスト殿下の婚約者でもないし、伝言を届けるだけだもの。大袈裟に考える必要は無いわ。自分に言い聞かせている時点で、何かしらの不安が有るのだと思う。その不安を見ないフリしたまま。
運命の日。私はマリベルさんと監視役と会っていたあの部屋で、ソファーに腰掛けているロズベルさんと前回の人生最期の日以来。今世において初めて対面しました。
ーー私より2歳上でしたっけ。
前回の人生でよく見かけたプラチナの髪を久しぶりに見ました。ただ。本当に私と2歳差であるのか疑いたくなる程に……肌艶が無く、髪もパサパサで見た目年齢では10歳くらい差があるように見受けられました。
すみません、明日の更新は……夜、になるかもしれません。午前7時を目指してますが……夜……いや、頑張ってお昼……いや、やっぱり夜、か? とにかく21時までには更新します。




