2度目。ーーその人と会うのは、実は初めてでした。・12
遅くなりました。
その日も前回と同じ部屋でマリベルさんと監視役の執事見習いに迎えられた私、ドミー、タニアさんとジュスト。そしてドアの向こうにいるクルスは、物凄くピリピリした空気を醸し出す監視役を見て、機嫌が悪そうだなぁ……と思ってしまう。まぁ十中八九この前の時に魔術師長様の事をちらつかせたから……とは思うけれど。
「ケイトリン・セイスルート」
あらあら。敬称も付けて下さらないなんて、シオン帝国は私にケンカを売っていらっしゃるのかしら。内心そんな風に余裕を持っていた私。けれど。
「貴方も、人生を繰り返している存在か」
ーー監視役のその発言に、気持ちを切り替えた。そう。その情報を持って来た、ということは、ヴィジェスト殿下とドミトラル様の事も気付いていらっしゃるのかしら。
私は敢えて無言で先を促す。向こうは否定しない時点で理解したのだろう。ギラギラした目付きに変わった。獲物を見つけた捕食者の目、ねぇ。という事は私に価値を見出せるわけか。
「さすがに王族……それも他国の第二王子なんかに手は出せんが、他国の貴族程度ならば我がシオン帝国魔術師団に抵抗は出来まい? おとなしく我等魔術師団の研究対象になれ」
えっ。ねぇ、それって私にケンカ売ってる? 魔法が使えない私じゃあ言うことを聞くとか思ってる? 随分と下に見てくれるじゃないの。まぁそっちがその態度ならば、こっちもそれなりの対応で良いよね?
「断らせてもらうわ」
「何⁉︎」
「えっ。なんで断られないと思っているの? 貴方と私じゃ、立場が違うって分かってる?」
「当たり前だ。他国の貴族程度の小娘が、我が国最強の魔術師団と同じ立ち位置になど……」
長々と口上を述べそうだから、ぶった切ってやる。
「ああ、解ってないわね。魔術師団という後ろ盾が無いと私とは話せないような小物だって自分で暴露している事に気付けないの?」
悪いけど、ケンカ腰で見下された以上、私も対応をそれなりにさせてもらうわよ。そんなわけでプライドを傷つける発言をしてみれば、監視役は怒りで顔を真っ赤にしている。……ハイ、貴方の負けね。こういう場で感情的になったら、感情的になった方の負け。これでも腐っても元第二王子の婚約者ですからね。感情を抑える訓練はしていますから。
「私が、小物、だと?」
呆然としたような口調は、そんな事を言われたことなんて無かったのかもしれない。でもね。相手がシオン帝国だろうと、見下して良いわけじゃないのよ。そんな言い方をしたのだから、貴方がシオン帝国の代表に思われても良いのかしら、ね?
「ええ。魔法が使えないからって他国の貴族令嬢を小娘呼ばわりしている時点で、礼儀のなっていない小物でしょう。そして帝国の魔術師団を後ろ盾に使っている、ということは。そんな盾が無いと何も言えない臆病者。自らの無能ぶりを見せつける小物だわ」
「貴様! 黙って聞いていれば」
「あーはいはい。他国の貴族令嬢を貴様呼ばわりした時点で、更なる礼儀知らずね。あなた、魔術師団の名前を出しているけれど、それってどういう事か解っているのかしら」
「なんだと⁉︎」
「解っていないようだから敢えて教えて差し上げるけれど、魔術師団の名前を出した以上、魔術師団は無関係にならない。あなたが魔術師団の中でどんな立ち位置に居ようが関係ない。私を見下し、研究対象などと道具のような扱いをする発言をした。そして私が他国の貴族令嬢だと知りながらも、礼儀を、払えない。ねぇ、これってシオン帝国が誇る魔術師団の顔に泥を塗る行為だって理解しているのかしら? それも私の事をそれなりに調べているのなら、私がタータント国の第二王子・ヴィジェスト殿下と友人関係にある事も、その隣の国のドナンテル第一王子殿下並びにノクシオ第二王子殿下の友人である事も解っているのよね? たとえシオン帝国がこの大陸きっての大国だろうと、二国を相手取る気なの?」
つまり、国同士で争いを起こすのか? と私は突き付けている。実際に戦争にはならずとも、経済に打撃を与えるとか、国境封鎖だけでもかなりの打撃になる。そういった事を踏まえた上で私にケンカを売ってるの? と聞いているのである。
ついでに言えば、さっきから魔術師団、魔術師団と連呼している以上。彼が魔術師団の中で下っ端の立ち位置だとしても、そんな事を知らない私は、魔術師団の幹部だと思う事だろう。なんだったら魔術師長様だと思ってもおかしくない。……尤も、魔術師長様は冷静沈着なお方だと、噂されているけれども。まぁさておき。
つまり、彼が魔術師団の代表者と思われるような言動で、私を貶めているけれど、その辺は理解しているの? ってヤツである。そんでもって私は貴族令嬢だけど、私の身辺調査しているなら、ヴィジェスト殿下とドナンテル・ノクシオの両殿下と友人だって言われているの解っているのよね? 公的な“友人”だって言われている(実際公的に友人扱いされちゃっているけど)私を、そんな扱いするなら二国にケンカを売ってるのと同じだよ? ホントにその辺を理解しているの? って懇切丁寧に説明して、ようやく態度を間違えた事に気付いたのか、監視役は気まずげな顔を見せた。
そんな顔をするなら発言する前に、もうちょっと考えて予想立ててみれば良かったのに。こんなヤツを魔術師団の代表者に考えて交渉しても良いのかなぁ。
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