2度目。ーーその人と会うのは、実は初めてでした。・8
いつもお読み頂きましてありがとうございます。
「お嬢様、お帰りなさいませ」
「ただいま。ちょっとばかりシオン帝国の方を挑発して来たから、あとよろしく」
デボラの出迎えに返事をしつつ、サラリと爆弾を投下してみた。デボラは一瞬嫌そうな顔になってから溜め息をついた。仮にも主人に酷い態度だと思うんですけど?
「まぁた、お嬢様は無鉄砲にケンカを売って来たわけですね? ちょっとはこちらが有利になるような対応をしてもらえませんか」
呆れてる……。私、デボラに呆れられてるの⁉︎ ちょっと、無鉄砲とか誰に言ってるの! え、私⁉︎ 私が無鉄砲だ、と? デボラの中の私はどうなってんのよ! 一度じっくりと話し合いたいわね。
「有利だから私の尾行をしているんでしょ」
まぁクルスには敢えて捕まえるな、と命じてありましたけど。だってねぇ。捕まえたって別のが来るじゃない? 何人も捕まえるより、1人で済ませられるならそっちのが楽だもんね。デボラは溜め息をもう一度ついてから
「そんなお嬢様を主人として仕えると決めたのは、私ですから文句を言っても仕方ないですね」
なんて言ったけど、文句の数々よりも雄弁な溜め息でしたけど⁉︎
「ありがとう、デボラ」
私の文句は口を閉じて飲み込んで礼を述べるに留めた。さて。明日の予習を軽くしておいて、一昨日出された課題に必要な資料を明日図書館で探すとしても、課題のポイントとなる部分は押さえておこう。それだけでも資料は探し易くなるはず。デボラが入れてくれたお茶を飲もうと口をつけようとして、その香りに気付いた。
「ハーブ?」
「さすがお嬢様、よくお分かりに」
気持ちを落ち着ける効能があるというカモミール。この世界にもハーブはいくつか存在している。デボラは薬や毒の草花に詳しいし、育てるのも上手い。そしてハーブは薬草。当然デボラの手にかかれば、あっという間に素晴らしいハーブを育て上げる。その一つにカモミールがあった。
「美味しい。ありがとう。ちょっと気持ちがささくれていたから、心が落ち着くわ」
気になっているだろうに、何も聞かずにこうして私の心身を気遣ってくれる専属侍女。結局なんだかんだで私を甘やかしてくれるデボラには、感謝しかない。
「そういえばお嬢様」
「なに?」
「ガリアから連絡が来ました」
タータント国に帰ったガリアから? こちらに戻って来ていないのに? どうやら手紙のようだけど。影同士の緊急のみの連絡手段で寄越された手紙、らしい。
「なんて書いてあったの?」
「それが……。ヴィジェスト殿下がお倒れになられたようです」
その情報は、さすがに息をするのも忘れる程の衝撃だった。
「ヴィジェスト殿下、が……?」
「ガリアが帰国する少し前に政の中枢で問題が起こったらしくて」
「問題」
政の中枢……要するに大臣クラスの連中が何かしら文句を言ったのだろうけど、誰が誰に対してどんな文句を言ったのか。それとヴィジェスト殿下はどんな関わりがあるのか。
「ドナンテル殿下及びノクシオ殿下が、婚約者を選ぶ大規模なパーティーを開かれましたね」
「ええ」
「隣国では積極的にお相手を探そうと必死になっているのに、ヴィジェスト殿下は……みたいな話になったようで。そこから朝議(毎朝の会議)が紛糾し。ヴィジェスト殿下もその朝議に参加していたらしく、いつまでも筆頭婚約者候補者のままで、きちんとした婚約者を定めないのは……みたいな話で大臣達が詰め寄り。自分達の娘やら親戚の娘やらをヴィジェスト殿下に強く勧める話に発展し。その詰め寄りが原因でヴィジェスト殿下は一時期過度な負担を精神に強いられた、とお倒れになられたそうです」
あー、そういうことかぁ。倒れたっていうから何かの病かと思えば。要するにストレスでぶっ倒れた、と。こう言ってはなんだけど。
心配して損した。
まぁあの手強い大臣達に詰め寄られたんじゃあストレスにもなるだろうけどさ。それで倒れるんじゃ、ちょっと軟弱じゃない? 精神が。王族にしてはそれくらいでストレスになってたらひ弱な印象を与えちゃうと思うんだけどね。
それにしても。やっぱり私が筆頭婚約者候補者のまま居座っていることが問題になってたか。ちょっと遅いかなぁとは思ったけれど、まぁいい加減に筆頭婚約者候補者の座を降りたかったから、ちょうど良いかもね。
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