2度目。ーーキーマンとなるのは、やはりロズベル様みたいです。・9
遅くなりました。
「まぁいくらこの帝国が舞台でもゲーム通りに進行していくわけじゃないし。ロズベル嬢の発言を危険視しているが妄言だとも思っている部分があるからね。帝国の監視付きというやつだ。故に」
タニアさんはそこで言葉を切って私を見る。この先は言わなくても解るだろう? ということか。まぁ確かに。帝国の監視付きでは居場所を問い詰めても喋る事は無いだろう。だとすると、彼女をどうやって見つけて接触するべきなのか。
「そこで別アプローチだ」
ドミーに言われて首を捻る。別アプローチ?
「ヒロインの母という存在」
「前王弟の娘(仮)である?」
「そう。もちろんそちらも監視はついているだろうけれど、ロズベル嬢の妄言を諫めているし、母の方はそんな妄言は吐いてない。かと言って帝国の中枢部についてどこまで知っているのか危険もあるから、厳しめの監視だと思うけどね」
それはそうだろうけど。
「何故ロズベルさんには接触が出来ないのに母親の方は接触が出来るんです?」
同じように監視されているなら難しいと思うのですが。
「種明かしをすると、向こうから接触を図って来たんだ」
「は?」
「自分が監視されている事を知っているし、監視している人物も彼女は知っていた。その監視人経由でタータント国から来た俺達に接触したい、と連絡が」
それってどういう事でしょうか。ドミーとタニアさんが国王陛下の密命を受けてシオン帝国まで来ていると知っているのか、それとも単に母国の様子を知りたいがためにタータント国の人間と接触したがっているのか。それに何故タニアさんとドミーがシオン帝国に来ていると知ったのでしょう。なんだか空恐ろしい気持ちになるのですが。
「ロズベルさんの母親さんは、何をどこまで知っていて接触を持ちたがっているのでしょうね」
「それは俺達も分からない。だから警戒心以上に、気になっている。何故俺達に接触を図ろうとしているのか」
ドミーの言葉に私は頷くしか出来ない。ロズベルさんはお花畑思考の転生者疑惑ですが、ロズベルの母親は思慮深そうな感じがします。
「それで提案なんだけど。俺達は国王陛下からの命を受けている。君とジュスト・ボレノーはヴィジェストから命を受けている。ということで、都合を付けて俺達と君達でロズベル嬢の母親に会う事にしないか?」
それはこちらとしても飛び付きたい案だ。ジュストの意見を聞かなくて良いなら即答するが、それではさすがにジュストに悪い。
「ジュストに尋ねてから返事をしても?」
「明日までに返事をもらえば、段取りはこちらでやっておくよ」
タニアさんに言われて頷く。取り敢えず、本日はここら辺でお開きとなった。帰り際にドミーから「次は2人でデートしたい」とストレートに打診され、前世でも前回でもましてや今回もそんなお誘いは受けた事が無かったので、多分、私の顔は真っ赤だった事だろう。だって頬が物凄く熱いのだから。そんな自分にどこか困惑しながらも、コクリと頷く事しか出来なかった。
「ただいま」
クルスと共に寮の自室へ帰った私は、一息ついてからジュスト宛に手紙を書く。それを男子寮に届けてもらう事にして、今日聞いた話を思い返す。
「ねぇクルス」
デボラに男子寮まで行ってもらっているのでクルスに話しかける。
「はい」
「ロズベルさんの母親は、何故ロズベルさんを放置されていたのかしら」
「放置していたのかどうか、それは解りませんが。戸惑っていたのかもしれませんね」
「戸惑い?」
「私を含めてお嬢様の前世・そして1度目の人生について聞かされた者達は、お嬢様の話を聞いて驚きはしても疑ってはいない事にお気付きですか?」
「それはもちろんよ。私だって自分を疑ったのに、お父様もデボラもあなた達影も疑わなかったし、ドナンテル・ノクシオ両殿下やジュストも疑わなかった。私を頭のおかしな奴だと思ってもいいはずなのに」
クルスの静かな声に私は自嘲しつつも、信じてくれる事に私の方が戸惑っていたくらいだ。
「それは、お嬢様の言動が物を言うのです」
「私の言動?」
クルスの言う事が理解出来ずに首を捻れば、クルスは穏やかに教えてくれた。私がどのように考え、行動し、発言してきたのか。その全てが地に足をつけ、他人を思いやり、かと言って自己を曲げずに主張するべき時は主張する。
「そうしたお嬢様の言動が全て物語っているのです。信用出来る相手だ、と。例えば。男女では態度を変える者とか。例えば。強者には卑屈になるのに弱者には尊大な態度を取るとか。例えば。誰に対しても良い顔をしながら、一方では他者を貶めているとか。そういった言動をする者を誰が信用するでしょう。お嬢様にはそのような言動が無いからこそ、驚きはしても疑わなかったのです」
クルスの諭すような物言いに、こんな風に思われていたなんて……と嬉しくもあり、恥ずかしくもあり。そして胸がいっぱいで熱くなった。もしかしたら、私に忠誠を誓ってくれたこの部下は、意外にも私の事を結構好きでいてくれるのかもしれない、と思ってしまった。
お読み頂きありがとうございました。




