2度目。ーーキーマンとなるのは、やはりロズベル様みたいです。・6
お待たせ致しました。
「まぁ娘か孫かという差くらいではあるものの、ロズベル様は隣国の王族の血を引いていらっしゃる、と考えて宜しいんですかね」
私がふむふむと納得していると、ジッとタニアさんが私を見つめている事に気付く。
「あの、何か?」
物凄く目から問いかけられている気がするけれど、何を問われているのかは分からない。笑みを浮かべつつも困ってしまいドミーを見たが、ドミーも分からないようで、こちらも首を捻っている。
「ドミトラル。ちょっと席を外せ」
「なんで⁉︎」
「いいから!」
強い口調でドミーに命じるタニアさん。ドミーは不服そうだったけれど、少しだけ、と念を押して席を外す。その姿を見送っていると強い視線を感じて目の前の人に視線を戻した。
「ケイトリン。俺はデスタニアに憑依しているって言ったよな?」
「はい」
「元々のデスタニアってヤツは、兄のスペアとして育てられたからか、両親や兄の顔色を窺うヤツでね。その所為なんだろうな。人の気持ちに気付きやすくてね。半分意識は眠っているが、半分は起きている。その起きている意識が俺に教えてくれたよ。君は無意識のうちに、自らを抑え込んでいる、ってね」
無意識のうちに抑え込んで……? 全く意味が解らず呆然としてしまう。それすらタニアさんは解っている、とばかりに重々しく頷いた。
「俺も違和感が有ったんだよね。君は、ヒロインに対して敬意を払う言い方をする」
「それは……以前にも指摘されました」
ロズベル様を様付けして呼ぶ事を指摘された事がある。
「それでも君がヒロインに対して敬意を払い続けるのは、そうしないと辛いから、じゃないの?」
辛い……のだろうか。
「ヴィジェストが自分を省みない事が辛い。ヴィジェストが選んだ相手なんだから省みられなくて当然だけど辛い。自分の立場を全く考えてくれない事が辛い。でも。それ以上にさ、自分が悪役令嬢だって理解した事が辛いんじゃないの?」
その言葉がストンと自分の胸に落ちてくる。悪役令嬢だってドミーから指摘されて、それは別にドミーの所為なんかじゃないけれど。でも、だから、私はヴィジェスト殿下に振り向いてもらえなかった。と1度目の私は思っていた。納得、した。
「そう、ですね。悪役令嬢なのだから、仕方ない。そう思いました」
「うん。そして君はその呪縛から解かれていない。だから君は、いつまで経ってもロズベルに対して敬意を払う……言い換えれば、いつまで経ってもロズベルに対して線を引いている」
「線を引いている?」
「そう。無意識に距離を置こうとしている」
「そんな事は……」
「有るよ。1度目の人生で君は婚約者であるヴィジェストを結果的に奪われた。最初から同じ土俵にすら上がれなかったから勝負も出来なかった。ヴィジェストが振り向く事も無いのはヴィジェストの所為だが、心の何処かで君は自分に至らない部分が有ったから振り向いてもらえなかった、と考えている」
そう、なのだろうか。
「だから。君はロズベルを真剣に探そうとはしない。探したくないんだよ」
「そんな事は」
探したくない、と言われて否定をしようと思ったけれど、そこから先の言葉が出てこない。
「有る。だから、ドミトラルにロズベルの事を尋ねているようで核心に触れた質問をしない。本気で探そうとしているのなら、俺達に進捗状況を尋ねるだろうし、そのものズバリ、シオン帝国に居るのかどうか問い質して来るだろう。だが、君は尋ねているようで、その辺の核心部分には触れていない」
指摘されて、自分を振り返る。そう、かも、しれない。
「私は……探したくない?」
「怖いって気持ちを認めたくないんだろうね。君はロズベルが見つかる事が怖いんだ」
「怖い……」
繰り返した事で、その意味に気付いてしまった。そうだ。私は怖いのだ。
「そうですね、私は怖いんです。ヴィジェスト殿下に振り向いてもらえなかった日々が記憶にこびりついているから、その記憶を刺激されるのも怖い。傷つくのが怖い。そして何より……」
私は自分の心にある恐怖を口にする。でも最後の恐怖は口にも出来なくて言い淀む。
「ドミトラルがロズベルに気持ちを移すのが、怖いんだろう?」
言い淀んだ私の本心を、タニアさんはアッサリと突き付けて来た。それを認めるのはとても胸が痛むけれど確かに私は、ドミトラル様が私以外の女性に心を移す事を怖がっている。タニアさんの事が分からなかった時だってドミーの隣に女性が居る事にショックを受けて倒れた私。
これがもし、ヒロイン・ロズベル様だったなら?
私は悪役令嬢。ロズベル様はヒロイン。ドミーは攻略対象。どう考えても私に勝ち目は無い。だって前回の人生で遠目から見たけれど、ロズベル様は流石ヒロインだけあって可愛かった。私のようにキツイ顔立ちはしてないし、ヒロインである以上、性格だって申し分無いはず。でも私は。
悪役令嬢になる気は無かったけれど。
辺境伯家の娘として、前回は王子の婚約者として、時には令嬢達の嫌味を受け流し、媚び諂う輩を蹴散らして弱みなど見せないように必死で虚勢を張っていた。そうでなくては直ぐに足元を掬われた。人によっては可愛げの無い令嬢だと思われていたはず。
そんな私から、淡い恋心を抱いたヴィジェスト殿下だけでなく、心の支えにする程恋していたドミトラル様さえ奪われてしまったら。可愛げのない私と可愛いだろうロズベル様。一般的に考えて、男性はどちらを選ぶか、という話だ。……確かに私は無意識のうちに、ロズベル様を探したくなかったのだ、と自分の気持ちに気付いてしまった。
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