2度目。ーーキーマンとなるのは、やはりロズベル様みたいです。・4
ガリアがタータント国へ向かい、アレジがアリシャ達の身辺調査を開始した翌日。私はジュストから再び伝言を受け取った。曰く。少し言い過ぎたかもしれない。という一言。殆ど毎日顔を合わせるというのに、謝罪は手紙ってどうなんだ。とは思うものの、私はそれを受け入れておいた。
「クルス」
「はい」
「明日はついて来てね」
「宜しいのですか?」
「寧ろ、来てくれないと困るわ」
明日は再びドミーと会う日。今度はロズベル様探しの手掛かりを求めて話し合う事になる。情報次第ではクルスに早急に動いてもらわなくてはならないのだから、寧ろ共に来て欲しかった。
「かしこまりました」
デボラと明日の服についてファッションショーを始める。色々いろいろ有った私は、デボラに突っ込まれるように女性らしくないのだけど。令嬢という猫は10匹くらい被れるから、“令嬢”を求められる時は周囲からも完璧に見られるんだけど。……前回の王子妃教育の賜物なんだから崩れるわけがないから、令嬢にはなれても女性らしさは無いんだよね。自分でも不思議。
それはさておき。
そんな私でもドミーに会う時は、気合いが入る。色々いろいろ猫を置き忘れた素の私を知っているドミーでも、それでも好きな人には可愛く思われたいと思ってしまうのは、オンナノコだから……だと思いたい。だからデボラと、ああでもない。こうでもない。とファッションショーを行う今も、楽しい。だけど会話は“女の子らしさ”も“令嬢らしさ”も無い、甘さゼロどころかマイナスの殺伐としたもの。主にデボラの歯に絹着せぬ物言いの所為で。
「お嬢様、クルスを連れて行くのは構いませんがどこぞの公爵家のように殴り込みに行くわけでは有りませんよね?」
「そんなわけないでしょ! 私はドミトラル様にお会いするのよ⁉︎」
「それは存じておりますが、お嬢様の事なので何をやらかすか分かりませんし。想い人である殿方に会いに行かれる……フリをして、気紛れにどこぞの公爵家みたいにシオン帝国の貴族家を一つ潰して来るかもしれないですし」
ちょっと。遠慮なく言え、とは言ってるけれど最近のデボラの中の私は、どんな存在なのかしら⁉︎
「ちょっとデボラ。あなたから見た私ってどんな存在なのよ」
胡乱な視線を向ければ、真剣な表情をしたデボラが首を捻っている。えっ、何を真剣に考えているの⁉︎
「そうですね……。お嬢様は知性と理性のある血に酔ったケモノですかねぇ」
「ちょっと待て。アナタ主人である私に随分な物言いじゃない? 血に酔ったケモノって何⁉︎」
「それは仕方ないじゃないですか。だってお嬢様、セイスルート辺境伯の現当主一家の子どもの中で一番、当主様そっくりですもの」
お父様にそっくり。
そう言われて嬉しくないわけじゃないけど、今の流れでいくと……。
「当主様は戦闘狂ですものね。獣を駆除したり辺境領を土足で踏み込んで来る痴れ者達を排除したりする時の当主様は、血に酔ったケモノみたいですものねぇ」
しみじみとデボラが言う。ああうん、そうね。デボラの評価に間違いはないわね。そしてそんなお父様にそっくりだから、知性と理性のある血に酔ったケモノだと私を評したのね。
ーー理解有る侍女の正しい評価に、私は泣いて喜ぶべきかしら。
何にせよ、彼女の中の私は、お父様と同じ戦闘狂のイメージが定着しつつあるらしい。でも、知性と理性のある、という表現をして来たってことは、お父様が脳筋であると言っているのか、それとも時には手段を選ばない冷酷さが私には有ると言っているのか。それとも両方か。
一晩じっくり問い詰めるべきかしら?
そんな事を思いながら、明日着て行くワンピースを決めて一段落したところで、デボラが湯浴みをするように告げて来る。湯浴みを終えたら、「お嬢様が少しでも女性らしく見えるように磨き上げますからね」と意気込んだ。チョイチョイ引っかかる言い方をするデボラにもう何も言わず、でも気持ちは嬉しいので髪の手入れ(トリートメント的なヤツです)や、全身マッサージなど、デボラに委ねた。結果? これでもかって程磨き上げられた私が出来あがりました。
毒も薬もお手の物なデボラは、当然、前世で言うところのトリートメントやマッサージオイルなどもお手製で。髪はツヤツヤ。肌はスベスベ。爪もツルツル。全身ツヤピカな私に実に満足そうな笑みを浮かべてドヤってました。うん、私もデボラの腕は信用してるわよ。本当にいつもありがとう。
何しろ私自身で髪を結わえる事は出来るけれど、それ以外は髪のセットは、デボラにしか触らせない。デボラが休みの日に外出予定が有る場合のみ、他の侍女に触らせるけれど、それも稀だ。それくらい信用しているデボラにしか、本当の意味で私を飾る事は出来ないのだろうと思うから、将来的に私が結婚する時はデボラに全てを委ねるつもり。
まぁどれだけ先の話になるのか分からないけれど。……そこまで生きられるか分からない、なんて考えたくもない。私は長く生きておばあちゃんになって子や孫に囲まれて老衰で死ぬつもり、なのだから。さすがにそこまでデボラに付き合ってもらうつもりはないけど。当分の間、デボラには私の専属侍女を続けてもらうつもり。




