閑話・2度目。ーー愛し君の死と巻き戻り・5
「国王陛下は何故……」
「俺がなんで最高機密をケイティに話しているか解らない?」
ケイティが呆然としたように言葉を零す。それに俺は静かに応えた。それだけで「まさか」とケイティは悟ったらしい。
「うん。ケイティの事が有ったから、だってさ。でも正直陛下も発動するかどうかは分からなかった、と。魔法を発動させる条件が有るし、条件が揃っても禁断魔法だから試す事も出来ないし。過去に使った国王陛下も居たらしいけど、そもそもその数も少ないし。ケイティは良く知っているだろうけど、タータントって建国してからそんなに年数経ってないから、魔法を発動させた国王も1人か2人くらいで少なかったようだよ」
「つまり?」
「偶々発動出来た魔法、らしいね」
「でも?」
「一か八かでもやってみたかったそうだよ。国王だからね。国と民が第一だからケイティの事は忘れた事は無かったけれど、死ぬ間際まで魔法を発動させようか迷ったらしい。でも結局、ヴィジェスト殿下もロズベルも処刑されたし、俺も衰弱死してしまった事を嘆いて、もし叶うならば……と発動させてみたら」
「過去に戻った、と」
ギャンブルじゃん……って俺は思ったんだけど、ケイティも同じように思ったのか表情が微妙だ。でもまぁ使えるかどうか判らない魔法なんて、そりゃギャンブルっぽくなっても仕方ない。国王陛下はそれでも巻き戻したかったんだろう、と思っておこう。
「発動条件とか細かな事は教えてもらえないのは当然だけど、時間を巻き戻したからね。全ての人や物事も巻き戻ったわけだけど。記憶がある人が居る事と居ない事の差も解らないそうだ」
何しろ禁断魔法。術の使い方を魔術師長は教えられても発動するかどうか、成功するかどうか、国王陛下も魔術師長もさっぱり解らないのだから、記憶の有無なんか余計に解るわけがない。とにかく、国王陛下が魔法を使った。結果、成功した。それが2度目の人生を迎えた真相。
で。どうしてこの真実を俺に話してくれたのか、と言えば。俺が画家を目指していないから記憶があるのではないか、と思ったそうな。それを言えばヴィジェストだって居ただろうって話なんだけど。
バカな子程可愛いとは言うものの「時間が巻き戻ってる!」などと大声で話す息子を目の当たりにして、とても国家機密を話せるものじゃない。かと言ってケイティを呼び出すのも気が引ける。陛下は、時間が巻き戻った事に気付いて直ぐに辺境伯家へ婚約の打診をした。その返答次第でケイティに記憶が有るか無いかを見極め……そして記憶が有る、と判断した。記憶が有るのは解ったが、かと言ってこんな機密をケイティに打ち明けて、結果的に王家に嫁がなくては……などと思わせるわけにもいかない。
けれど、元凶とまでは言わないが、ヴィジェストやケイティの人生を狂わせたロズベルを野放しに出来ない。
結果、記憶が有るだろうと推測する俺に白羽の矢が立ち。もちろん推測なんかじゃなくて、俺に記憶があるかきちんと確認してから打ち明けられた、と。そんで。ついでに国王陛下も何故か分からない、ロズベルの行動を陛下の代わりに調べて来て欲しい、というので俺は兄さんとタータントを出た。
ただ。ロズベルの行動はさっぱり解らなかった。隣国に入って早々、タータントの王子・ヴィジェストを国外で探していたようで、隣国の学園生に接触して情報を得ようと思ったら、次から次へとロズベルの異常さが浮き彫りになっていた。
「やはりロズベル様は記憶が有ったんですね」
ケイティが深刻そうに頷いた。問題は……
「そうだな。ただ年齢が違う事もそうだが、記憶がきちんと残っているのかも分からない」
俺の言葉にケイティが驚いた後「確かに」と強く頷く。記憶がきちんと無いからこそ、隣国でヴィジェストを探すことになった事を悟ったようだ。それにどうやらロズベル自身、自分が隣国に居る事が理解出来ていないようだった。どうして隣国に現れたのかすら判明していない。とても厄介だった。そしてそれ以上に、厄介だったのは。隣国で先ずは伝手をつくってそれから探し回っていたら、どうやら隣国の国王陛下が、シオン帝国にロズベルを差し出していた。ということが判明した。
そうして俺と兄さんはこのシオン帝国へやってきた。




