閑話・2度目。ーー愛し君の死と巻き戻り・1
更新出来ました。
ドミトラル視点です。
かなり重くなりました。
ケイトリン・セイスルート。彼女の事は日本人だった時から知っている。俺が関わった乙女ゲームの悪役令嬢。メイン攻略対象のヴィジェストの婚約者。この世界に転生して自分がその乙女ゲームの攻略対象者の1人と解った時の何とも言えない気持ちは、その立場にならないと解らないだろう。ゲームの設定通りに絵を描くのが好きだし画家を目指して……ケイトリンに会った時の自分の気持ちは、感動よりも歓喜だった。幸せにしてあげたい、と日本人だった時から思っていた彼女は。俺と同じ日本人の前世がある少女だった。
本当に何処にでもいる少女。
タータント国でよく見る令嬢。幸か不幸か攻略対象者である俺は外見がかなりモテる。もうこれは認めるしかない。攻略対象だからモテるのは当然なのだ。……日本人だった時にモテなかったからと言って、別に手当たり次第、令嬢に手を出して来たわけじゃないが。残念ながらケイトリンが初恋では無い事は確かだ。
初恋は年上の従姉で当時8歳だった俺の目から見て12歳の従姉は憧れの姉さん的存在だった。……直ぐに従姉が婚約して失恋したのは良い思い出だ。その後12歳で幼馴染の少女から告白されて、あまり好きだとは思わなかったが付き合ったのは……まぁ好奇心だった事は否めない。彼女と少しずつ距離を縮めて半年経った頃には、俺も好きになっていた。順調に交際してファーストキスをして……1年は付き合った。その頃には、俺は将来画家として生きていく事を決意していたけれど。まぁ彼女の父親が売れるか分からない絵描きを結婚相手と見るわけはなく。13歳で別れさせられた。
それから15歳を迎えた後で、長兄と次兄がある日ニヤニヤして来たと思ったら、娼館に連れて行かれて。まぁ娼館に行って何も無いわけがない。その後、小遣いを貯めたり絵の売り上げ(偶々出品した作品展で買い上げてもらう機会があって、そこからはトントン拍子だ)を貯めたりして3年程は娼館に通った事も否定しない。それから少し落ち着いて、絵に集中して1年経つかどうか、というところで国王陛下にお目を留めて頂き、20歳になる頃には王城の国王陛下お抱えの画家の立場だった。
女性? うん、まぁ国王陛下お抱え画家だし、この外見だし。一夜の恋のお相手として未亡人と過ごす事も何回かはあった。未婚かつ婚約者の居ない下位貴族の令嬢から熱い視線を向けられる事はあっても、そちらと深い仲になる事は避けていた。綺麗とは決して言えない恋愛遍歴を重ねていたのは事実。
だけど。
出会ってしまった。前世は2次元の存在だったし、同情しつつもこういう役回りのキャラだから、と割り切るしか無かった悪役令嬢・ケイトリンに。
出会ってしまったらもう、どうしようもなかった。2次元じゃない同じ人として、目が合い、会話が交わせる1人の女性としてのケイトリン。幸せだったら良かった。けれど第二王子という身分は申し分無い男の婚約者なのにゲームとは違った形で幸せでは無くて。
ゲームのように悪役令嬢だったら更生させようかとも思ったけれど、一方でゲーム的展開もオイシイかな、なんてケイトリンに出会うまでは勝手な事を思っていたくせに。ケイトリンに会ってしまったら、他の令嬢方と変わらない、それでいて強気だけどちょっと不器用で少しだけ思い込みの強いどこにでもいる女の子だと解ったら。
俺の手で幸せにしたい、とそう望んでしまった。強烈に女性を望んだのは前世から顧みてもケイトリン・セイスルート嬢、ただ1人だと断言出来る。王子妃教育の合間の休憩時間。人目が有る中での逢瀬。なんて事のない会話。抱きしめるどころか手を繋ぐ事すら許されない俺とケイトリン。そんなストイックな関係に酔っていたわけじゃないけれど。
時折見せるケイトリンの笑顔の裏の寂しそうな目に惹かれ続けた。一度、想いを告げようとした俺に気付いて、その空気を止めてしまった程、勘の鋭いケイトリンにすら益々惹かれた。穏やかな時を過ごしていながら、婚約者の事ではない、何かに気を取られている事に気付いた頃。彼女から託された何かを預かっていた。
彼女の頼みは良く分からなかったけれど、真剣な彼女の顔に後で説明してもらう事と引き換えに預かっていた。この時、何がなんでも無理やりでも、話を聞けば良かったと何度後悔した事だろう。その日を最後に俺は。
恋しくて愛しい女性を、喪った。
誰が思うだろう。ついこの前まで笑っていた最愛が、次に会った時は物言わぬ、微笑みもしない、目も開かない遺体になっている、なんて。
日本語で辿々しく刺繍された「好き」の二文字を抱えて喪失感に打ちのめされた俺。その頃の記憶は曖昧だ。初恋も初めての彼女もその後の恋人達も全て記憶から消し去ってしまう程、ケイティと出会ってから、ケイティと只管会話するだけのあの切なく愛しい日々を、彼女の婚約者という存在だけで、彼女を蔑ろにしたあのガキのために、失う事になるなんて。
許せなかった。
彼女を蔑ろにして、彼女の心を傷つけておいて、それなのに恋人と幸せに暮らしていくなんて許せなかった。
復讐してやりたい、と人をここまで憎んだのも初めてだったと思う。
ケイティを返せ、と、俺の元に彼女を返せ、とあのガキの首を絞めてやりたかった。殺意すら有った。
だが、あのガキは恋人と共に牢に入れられてしまった。復讐すらさせてもらえない。
あのガキが牢に入れられて直ぐに、国王陛下に願い出てお抱え画家の立場は放棄した。代わりに小さな屋敷を賜った。
その屋敷で。
ケイティを喪った俺に出来た事は狂ったようにキャンバスにケイティの笑顔を描き続けるだけ。
多分、寝ても覚めてもケイティの幻しか見えなかった気がする。そのうち寝た記憶も食事を摂った記憶も朧気になって。
なんだか意識が曖昧になったまま、記憶が途切れてーー気付いたら、15歳の俺、だった。
ケイトリン視点のドミーのつもりでいた方はすみません。途轍も無く重いドミーになりました。1度目のドミーの人生でした。次の更新は2度目から始まります。
今夜の更新が出来なければ活動報告にて連絡します。
お読み頂きましてありがとうございました。




