2度目。ーーまさかの事実が判明しまして、驚きの連続です。・8
「ゲームの私がどういう女性だったのかというのは解ったけれど。私がケイトリンとして生まれた時からお姉様と弟は存在したし、1度目の時はお姉様は病弱を前面に押し出して殆ど関わらなかったわ」
まぁ簡単に言わせてもらうと、私は私で残念ながら乙女ゲームのケイトリンとは違う性格だとしか言えない。という事で話を戻そう。結構長い話になるとお互いに思っていたので、ここで昼食を摂りながら話をすることには同意していた。なんだかんだでそろそろお昼の時間帯である。軽食とついでに飲み物のお代わりを頼んで、一旦食事を摂ってから話を続ける事にした。
「それで。どこまで話したっけ」
「家族構成の話」
私の言葉にタニアさんが端的に返して来て、ああと頷く。それから姉の婚約者とその一家に纏わる話を簡潔にしていく。あまり感情を乗せないのは、彼らの事を未だに許せないと思っているのか、未だに慕っている気持ちがあるのか、自分でも分からない感情を押し込めるため。
デボラに対する仕打ちは許せないけれど。一方でアウドラ男爵家の人達とは、それなりの交流をしていた。それこそセイスルート家にとって変わろうとしているのを知りながらも幼馴染みとして決して短くはない時間を共有していたのだから。そんな私の心に気づいたかのように、固く握り込んだ両手を温もりで包まれる。ハッと我に返った。ドミーの温かい手。その手を追うように腕に視線を向け、胸に視線を向け、顎・唇・鼻に視線を向けて目を向ければ、心配だ、という目とぶつかった。……本当にこの人には1度目の時から、救われる。
大丈夫、と声には出さずに微笑めば。言葉を理解したように微かに頷いてくれた。
その頷きに背中を押されるように、それからの話を続けていく。ドナンテル・ノクシオ両殿下の置かれていた状況。母と姉との関わり。コッネリ公爵との確執からの決着を経て、ドナンテル・ノクシオ両殿下に婚約者が出来た事までを話して、大きく息を吐き出した。
「ここまでが去年の話、です。前回との違いが大きいでしょう?」
私の1度目の人生は殆どヴィジェスト殿下の婚約者として勉強する日々だったから。大きな変化はない。隣国との小競り合いとか、そういったものも直接関わっていたわけではないし。1度目の時は後からこんな事があったのよ、と聞かされるだけだったので、どこか教科書で年表を見ているような他人事の感覚があった。
そういった意味では1度目の私の人生は、何処か感情が冷めていたように思う。隣国との小競り合いもコッネリ公爵の暗躍も1度目の人生では莫迦王子として有名だったドナンテル殿下の醜聞も、耳にするだけで関わらなかったから、年表で出来事を追っているような、そんな感覚でしかなくて。
多分、第二王子妃になるのに、それは間違いでは無かったと思う。様々な出来事に一つ一つ感情を、思い入れを作っていたら心が潰されていたかもしれないし、全ての物事に感情を乗せる事も出来ないはず。そうしたら“王族”として、この出来事には心を痛めたのに、こちらの出来事には心を痛めなかったのか、なんて事になりかねない。
それは心を痛めた方が優先されて痛めなかった方は後回しで構わない、と周りから思われてしまう事になる。そうなれば、贔屓にも見えてしまう。心を傾けるならば、何事も平等。そうでなければ、心を平常のままで、それこそ歴史の1ページ的な何処か他人事の感覚を身につけておかなければならなかった。1度目の私はそういう生き方をしていただけ。
でも。
今の私は、その生き方を選ばなかった。
選ばなかったから、今は様々な経験をして、様々な感情を心の赴くままに曝け出せる。淑女として押し込む必要は有るだろうけど、1度目の私よりもよっぽども感情的に生きている。
どちらの私も私だし、今の私なら1度目の人生での私も嫌いじゃない。だけど。今の私の方が私は、好き。今の人生は後悔も反省も沢山有るけど。それ以上に……生きているって感じがするから。1度目の自分を否定する気はない。あのまま死んでしまっていても、後悔はしたし、もっと生きたいとも願ったけれど。それでも受け入れられていた。
寧ろ今の人生の方が好きで有る分、今、死ぬ状況に陥ったら何がなんでも生き残ろう、死にたくない、死なない、と生にしがみつくと思う。前回の自分はそこまでの気持ちは無かった。それはそういう生き方をしていたから。今の人生は好きに生きて感情を曝け出して全力で生きているから。
だからきっとやりたい事がいっぱいある今、生きることにしがみつこうとするのだと思う。前回の私は嫌いじゃないけど、今の私の方が自分で好きだから。
「ドミー」
「うん?」
「私、前回の自分の人生を振り返っても嫌いじゃなかったよ。否定もしない。ドミトラル様に恋した事も幸せだった。だけど。今の人生の方が私でいられるし、私は今の人生が大好きだし、前回はあまり生に執着しなかったけれど、今の私はどんな事があっても生き残ってやる! ってくらい、自分の人生に執着してる。淑女としては失格かもしれないけど。私らしく生きている気がする」
「……そっか。前回のケイティは何処か生きづらそうだった。苦しそうで、開放してあげたかった。だから。今、そう思うなら、俺も良かったと思う。そんな今の人生を送るケイティの隣に、俺が居られるならもっと最高だと思うけどね」
私の気持ちに、ドミーはとても優しく安心したように、暖かく笑って言ってくれた。




