2度目。ーーまさかの事実が判明しまして、驚きの連続です。・6
遅くなりました。
取り敢えず。タニアさんが女装している理由については納得した。気になるのは。
「半分覚醒しているタニアさんは、まだ起きようとはしないんですか?」
完全に起きないのか確認すれば、ドミーが苦笑した。
「これも推測だけど。兄さんの意識が完全に覚醒した場合、先輩は生まれ変わりではなく憑依だから追い出されてしまう可能性が高い。それは色々と困る」
成る程。家主が覚醒した場合、いくら家主がオッケーを出したとしても無意識に追い出されてしまう、と。
「色々と困る、というのは」
「先ずは兄さんが声の魔術師として動けるのはおそらく先輩の意識が憑依した事が原因。潜在的な魔力は、おそらく一生兄さんの中で発動しないままだったんじゃないかな。あくまでも推測。でも魔術師として活躍している人達と接触して来ての推測なんだ。10人くらいの魔術師に会ったんだけど、誰もが自分の中での転換期に陥った時に魔力が発動して、魔法が使えるって言ってた」
「その話でいくと、タニアさんが魔術師なのは、ドミーの先輩の意識が憑依している事がきっかけってこと?」
ドミーの説明から察するにデスタニアさんの魔力は、日本人男性の意識が憑依した事が転換期に当たる?
「そういうことだと思う。何しろ、魔術師に関しては分からない事ばかりで、魔術師のお偉いさんに会わないと解らないんじゃないかな、と思うんだよね」
ドミーが肩を竦めてお手上げ状態だ、と苦笑する。そうしてふと気になる事があったので尋ねた。
「そういえば、ドミーとタニアさんが日本人だった頃に乙女ゲームを制作したわけだよね? 魔法が使える魔術師っていたの?」
そう。気になったのはそこ。魔術師が居るなら、ゲーム的に魔術師が攻略対象なのも面白そうじゃないかな、と思って。
「「居ない」」
だけど2人から一言で否定された。
「居ない? じゃあやっぱりこの世界は2人が制作した乙女ゲームに似た世界?」
まぁ前回のケイトリンの人生の時から偶々だろうなぁって思っていたし。だからふと気になっただけで、まぁいっか。と話を終えようとしたのだけど。2人が眉間に皺を寄せている。
「実は、其処から不思議なんだ」
ドミーが言うけど、其処って何処。
「俺……あ、日本人の俺ね。俺がゲームのシナリオを書いていた時、俺は乙女ゲームのシナリオなんて書いたことが無かったんだよね。だから俺に話が来た事自体、おかしかった。其処は当時から思っていたんだ。そして更におかしかったのは、俺はこの話を断るつもりだったんだ。だけど、夢を見てね。この世界の夢。ファンタジーな夢を見たのも初めてなら、乙女ゲームっぽい話の内容だったのも初めてで。その時、この夢を元にシナリオを書いたらヒットしそうだって思った」
なんだか人智を超えた話になって来てませんか……。
「もしや、本当にシナリオにしてみたら会社が乗り気になった……?」
「そう。それであのゲームは配信された」
怖い。
私は初めて怖い、と思った。前回の人生でドミーに話を聞いた時は、似た世界が日本の乙女ゲームに有ったのねー。くらいの感覚だったのに、今はなんだか人智を超えた、つまりは神様とかそういう未知の存在に因って、私は、私達は存在しているような気がする。
それも日本人だった頃からその存在の意図に関わっているような……。私はゲームはやってなかったけれど、ゲームの制作側の人間が2人も私の目の前にいる。それすら人智を超えた存在の思惑通りに思えて怖い。
「なんだか怖い、な」
「それは俺達も思っている。見えない何かに導かれたような気がするからな。ただ、その一方で俺と後輩のコイツが存在するのは、多分乙女ゲームのシナリオを知っている人間が居ないと解決出来ない何かがあるんじゃないか、と思っている。それがなんなのかは分からないけど」
タニアさんが怖がる私を宥めるようにゆっくりと言葉を紡いでいく。その声に温かみを感じて、ああ、声の魔術師として魔力を乗せているんだなって気づいた。この声で話をされれば、人が……サヴィやベタルターが、気持ちを落ち着けるのも頷けた。この人の魔法はそういった類のものなのだと思う。私は抗わずに素直にその声に身を委ねて恐怖心を落ち着ける事にした。
「それで。ケイティに確認したい事があるんだ。前回の人生と今回の人生で違う部分が有るよね。俺も知っている部分はあるけど。違う部分を些細な事も含めて、全部教えてくれないか」
私が落ち着いたのを見計らってドミーが真剣な面持ちで尋ねて来たので、私もゆっくりと頷いて口を開いた。ーー先ずは、2度目の人生が始まった8歳の時の記憶から話し出すのが良いだろう、と思いつつ。
「私が2度目だと気づいたのは8歳の誕生日が過ぎてからだったの。ふと、私はさっき刺されて死んだんじゃなかったっけ? って思ったのと、多分毒の付いた刃物だったな、という事と、ドミーに何も説明出来ずに死んでしまう事を謝っていた事はとても覚えてた。なのに。私は生きているし、しかも身体がやけに小さい気がして、パニックになったわ」
そしてデボラに、今日の予定はなんだったのか、確認したのが始まりだった。その予定を聞いて、1度目の8歳と同じだって気づいたんだったわ。
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