2度目。ーーまさかの事実が判明しまして、驚きの連続です。・4
「じゃあ行ってきます」
デボラに告げて「いってらっしゃいませ」と送り出されつつ、結局あれからジュストに距離を置かれているなぁ……と思い出す。ジュストの中で私の推測が認められないのか、眉間に皺を寄せていたものね。そうして迎えた本日は休日だから、予定通りドミーの元へ向かう。休日に出かける時は前もって申請しておくと許可が出るんだよね。
地図を見ながらドミーの手紙に書いてあった店を目指す。日本語で書かれた手紙には、タニアさんと一緒に日本で言う所の喫茶店で待つ、と。魔法学園の学生達が普段利用する店じゃないから、学生達に見られる可能性は低いみたい。取り敢えず、シオン帝国に持って来た服の中でラベンダー色のワンピースに袖を通す。ドレスとは違ってワンピースなら、首まで詰まった物じゃなくて良いし、ドレスなんて着ていたら如何にも貴族です、と公言しているようなものだし、ドレスよりも軽やかに動けるからワンピースは好きだ。本当はパンツスタイルが良いんだけど。タータント国では女性がパンツスタイルなんて見たことないってヤツだし、ドミーに会うのに可愛く見られたいのでワンピースにした。……デボラにお願いして可愛いパンツを縫製してもらおっかな。今持っているのって、クルス達影と同じ服だからなぁ。皆、動き易さ重視で黒だし。なんていうか前世で言う所のスラックスではなくタイツみたいな感じだよね。身体にフィットするような。ジーンズ欲しいなぁ……。素材見たことないけど。
歩きながら地図を確認して、ようやく辿り着いたそのお店の前で、トラルが待っていた。
キュンと鼓動が高鳴る。
満面の笑みは1度目の人生と変わらなくて。うっかり見惚れて咳払いをされてハッとした。ちなみに咳払いしたのは、タニアさんで店内から私の姿を確認したらしい。
「改めて、デスタニア・レード。ドミーの兄。よろしく」
今日も良く似合う女装で自己紹介してもらい、私も名乗る。一段落した所で「ここからは日本語で話すよ」とドミーが切り出した。私もタニアさんも頷く。店内は確かに魔法学園の学生らしき人達は居ないんだけど、年齢層高めの方は何人か見えるわけで。話の内容が内容だし。万が一にも聞かれたくない以上は、日本語の方が安心して話せる。
「先ずは兄さんが俺の先輩だって事は、手紙で知らせた通りなんだけど」
「うん、凄く驚いたわ」
「それは俺も驚いたんだ〜」
切り出したドミーに私が同意すると、ヘラリとした笑顔でタニアさんが言う。ですよね、タニアさん自身も驚きますよね。
「実はもっと驚く事がある」
ドミーが深刻そうな声になった。私が視線で促すと深呼吸をしてチラリとタニアさんを見る。タニアさんが頷いたのを見て、口を開いた。
「実は兄さんは、1度目の人生では何も無かった。2度目の人生を俺が送り出してから初めて、兄さんが先輩の記憶があること。魔力持ち……つまり魔術師だという事を知った。いや、1度目の人生では兄さんは魔力も無かったし前世持ちでもなかった」
「それって……どういうこと?」
「それは俺から話そう」
ドミーの話に混乱しているとタニアさんが真剣な顔で続ける。
「デスタニアに俺……日本人の記憶がある男……の存在が有るのは、多分時間が巻き戻っている事の弊害だと思う。多分、だから推測なんだが。何しろ1度目のデスタニアの記憶は全く無い。ある日突然俺はデスタニアになっていた、という感覚なんだ。驚いたよ。此処は何処なんだと思ったし、自分が誰なのかも分からないし。だが、幸いというのか。ドミトラルを見て自分がシナリオを書いた乙女ゲームの世界ではないか、と気づいた。その時に思わず日本語でマジかよ。って呟いたらドミトラルが反応して。なんで兄さんが日本語を話せるって言われて。そこから色々話し合ったら俺の後輩だった、と」
ある日いきなりデスタニアさんだった……なんて、それは驚いた事だろう。私は前世を思い出した前回の人生の時、情報が色々脳内に過って衝撃は受けたけれど、ストンと受け入れられた。それでも驚いたから気持ちは解る。でもデスタニアさんは、1度目の人生では日本人の記憶が無かったという。じゃあ今は何故日本人の記憶があるのかしら。
「それで。ケイティも多分疑問に思っていると思うけど。何故日本人の記憶が2度目ではあるのかって兄さんと2人で考えたんだけど。どうも、兄さんは生まれ変わったというより、兄さんの日本人としての魂というか記憶というか、そういうものがデスタニアという男に憑依したようなものだと思ったんだよね」
ドミーの説明に、更に混乱する。タニアさんは生まれ変わりではない? ひょういってなんだっけ?
「憑依ってホラー映画とかで観た事ない? 意識を乗っ取られて可笑しな言動を取るみたいな」
私は思わず呟いていたのだろう。タニアさんがそんな事を言って、ああ……と納得。ホラーは嫌いだけど、そういうのが好きな誰かがそんな話をしていた記憶が朧気に蘇る。つまり。
「タニアさんは、タニアさんという人間に日本人の記憶が意識の中に入ったってこと?」
「おそらくね。1度目の俺の人生では、どちらの兄にも日本人の記憶なんて無かったし、どちらの兄にも魔力なんて無かったから。で。なんでデスタニアに魔力があるのか、ということは俺も全く分からないけれど。もしかしたら日本人の記憶が兄さんに憑依した事で、兄さんの中にあった魔力が目覚めた、のかなと思う」
曖昧な推測ながら、説明を受けた。それが正しいのか分からないけれど、一つ言えるのはデスタニアさんには日本人の記憶があって、魔力持ちで魔術師だという事。それが事実でもあるのだから、今はアレコレ考えるのは抜きにして、その事実を受け入れよう。




