2度目。ーーロズベル様探しは難航中です。・7
とは言ったものの……あまり長くも居られない。寮生活の身で門限があるから。もちろん門限を過ぎても前もって話してあれば問題ない。その場合はそれ相応の理由が必要だから、なのだけど。今回は当然門限の前に帰るつもりだったから何も言ってない。夕食は寮で摂るわけだし、ドミーに会ったから色々話したいし聞きたいこともあるけれど、その時間はあまりない。さて。どうしようかな。
「私達、魔法学園で寮生活の身なの。門限が有るから」
「「魔法学園⁉︎」」
私が取り敢えずそこだけ話せば、ドミーはともかく何故かドミーのお兄さんも驚いた。何故だ。ちなみにドミーのお兄さん……デスタニアさん、という名前らしい。愛称がタニアだと女性みたいだな、なんてこっそり思っていたら、本当にタニアなのだとか。……でもまぁ女装が良く似合う方だし、本人も気に入っているみたいだから、遠慮なくタニアさんと呼ばせてもらうことにしよう。
「そうよ。だから門限が」
「ああ、そうか。じゃあまた後で詳しく話し合おう。ただ確認したい事があるんだ。それだけは、今、是非とも」
私が門限が有る、と言おうとしてドミーは直ぐに納得した。ただ確認したい事がある、という彼にコクリと頷けば、私以外に視線を向けた。
「そちらにいらっしゃるのは、アリシャ姫で宜しいでしょうか?」
「え、ええ。私はアリシャですわ」
「シオン帝国の皇女殿下であらせられる?」
ドミーはアリシャを知ってる? と思ったけれど、次の質問にはアリシャどころか私も首を傾げてしまった。何故、シオン帝国の皇女殿下だなんて……。
「え、いいえ? 何故そう思ったのか、逆にお伺いしたいですわ。私の事をご存知のようなのに。私はボターナの王女ですわよ」
怪訝そうなアリシャ。私もチラリとドミーを見れば、ドミーはタニアさんにアイコンタクトを送っている。それから「やはり、おかしい」とドミーが呟いた。その言葉は今はもう聞くことが出来ない日本語、だった。つまり私以外の者には聞かれたくない呟きだったのだろうし、咄嗟に日本語が出てしまうような質問の答えだったのだろう。
「すみません。私が耳にしたアリシャ姫の噂に偽りがあったようです。私は兄と共にあちこちの国に旅をしていたので、その時に聞いた噂の中でアリシャ姫という美しい姫がいる、と聞いたものですから」
「あら。美しい、なんてお世辞でも嬉しいわ。その噂の中で私の出身国がシオン帝国になったのかしら。私がボターナからシオン帝国の魔法学園に留学する話は、両国の友好関係を知らせるためにも大々的に発表したけれど、他国へ噂が流れる間に、シオン帝国の皇女という噂にでもなってしまったのかしらね。平民ですと、私の出身国が何処でもあまり関係ないでしょうし。尤も諸外国の王族や政の中心者達はきちんとご存知でしょうから、別に構いませんけれど」
ドミーは苦笑しながら噂話で聞いた、と言えば、アリシャは納得したようです。確かに平民間での噂話って、面白おかしく尾ひれがついている噂とかあるし、出身国が変えられてしまう事もあるのかもしれない。……それはそれで問題ではあるけど。きちんと情報として伝わっていない、ということだものね。
アリシャは納得したけれど、本当は噂話なんかじゃなくて。おそらくドミーはアリシャがシオン帝国の皇女だ、と思っていたんだと思う。そうじゃなければ「やはり、おかしい」なんて呟かない。……日本語だった事の理由ってもしかしてアリシャもドミーが製作に関わった、乙女ゲームの登場人物だから?
でも。もしそうだとしたら、私は知らない。もちろんゲームは未経験だから、全ての登場人物を知らなくても当たり前なんだけど。なんだか……嫌な予感がするのはどうしてだろう。私がそんな事を考えている間にも、ドミーは次にジュストに話しかけている。
「君はジュスト・ボレノーだよね?」
「私を知っていらっしゃるのですか」
ジュストはそんな言い方で肯定する。でも多分、私とドミーが「「覚えている」」という会話をしていたから、事情をある程度知っているジュストは、ドミーも2度目の人生を繰り返している事に気付いたのだと思う。だからドミーがジュストの事を知っているのは、1度目の人生で関わったか名前くらいは知っていたのか、的な事を考えているのだろう。だからあまり警戒心は無いみたい。
「それと、君はサヴィ・カリオンと、そっちの彼はベタルター・ゼフォルかな」
「どこかでお会いした事がありましたか」
サヴィは笑顔だけど牽制したような目つきでそう言う。
「貴方は何者です」
ベタルターは完全にドミーを警戒していた。まぁアリシャはボターナの王女だから、噂話が出てもおかしくないけれど、サヴィもベタルターも平民の間で噂が出るくらい自分達が有名だとは思っていないのだと思う。だから2人共警戒心高めなのだろうけど。2人の警戒心など意にも介さず、ドミーはやはりタニアさんとアイコンタクトを取っている。……2人の警戒心を誰が宥めるの。私? 嫌なんだけどなぁ。




